ビリーさん来訪

第四期:巡る季節に終わりが見えて

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あなたに会えて、よかった。

ビリー1cmb

あー…赤坂、は、いるか…?
控えめな ノック音の後、銀髪頭が 顔を覗かせる。 手にはなにやら大きめの麻袋 おそらく食料が入っているのだろう。 甘い香りが漂う
その、この前の…礼…
最後に顔を合わせたときの事を思い出してか 少し気まずそうにしている

赤坂天矢 1btg

あ、ビリー、さん……? 目を見開いて、何かいいたげに口をぱくぱくさせているが

……えと、お元気、なんですか? もう大丈夫、なんです? こちらとしても、あんな風に泣いて怒ってしまった手前 次に会うときはすごく気まずいだろうな、と思っていたのだが。 元気そうな姿の方が嬉しくて、とことこと駆け寄って…。 ビリーさんの周囲を回るように、前から後ろから、うろうろとその姿を眺めている。

ビリー1cmb

な、な…犬かお前は…
周りをうろつく赤坂につられてか 視線が泳ぐ

お、おかげさま、で…外を出回る程度には な。 しばらくは近場にしか行けないが…家に帰れたよ。 肩をすくめて手を広げてみせる。 みたところ もう包帯もとれているようで、 前の痛々しい姿はない

まあ、その、なんだ。 ……すまなかった、迷惑、かけて。

赤坂天矢 1btg

め…迷惑だなんて、その、僕の方こそ、我侭言って、その、すみませんでした。 恥ずかしそうにうつむいて。

あぁ、でも、帰れたんだ…。よかった…。 もう、しばらくは、うろうろするのは家の近場だけでいいですよ。 今までさんざん家族と離れてたんですから。 嬉しそうに、にこにこと。

ビリー1cmb

その我侭がなけりゃ 少し状況も違ったろ… そうだな、暫くは家でガーデニングでもしておくさ。

赤坂天矢 1btg

こちらの方も、…マナちゃんにもらったこのお守りのおかげで。 家族とね、話をする事が出来ました。 ペンダントのように首から下げた石を取り出して。

まぁ、結果は、……僕がここにいる時点でお察しって感じなんですけれども。 家を飛び出して、行く所が無くてこのクランに身を寄せたのだったけど、 今ではここが自分の家のような、そんな気にもなる。
でも、やっぱり話をして良かったです。なんだか、すっきりしました。

少し自嘲を滲ませた笑みも、すぐにかげりのない物へと変わる。 仏頂面ばかりだった昔に比べると、とても表情が豊かに感じるかもしれない。

ビリー1cmb

目線はペンダントと赤坂の顔を いったりきたり
娘も妻に似て お節介になってきたもんだ。 ――そうか。伝えたい事を言った上でここに居るなら、 お前の仲間達も もう心配する必要、ないな

自分の事で手一杯だったわけだが、そこだけは気がかりで。 彼の中で納得がいく結果だったのであれば、口出しする必要もないだろう― 最初に見た陰気な表情を、目の前の笑顔と並べて思い返す。 子供の成長を見ている時と似た心境なのか 表情は自然と綻んだ。
会えてよかった。

赤坂に。

赤坂天矢 1btg

いつも口数の少ない彼のその言葉に。 自分の後ろ向きな発言に対しても、冒険の度、いつもねぎらってくれる彼の言葉に。

僕、僕ね。ここが、好きです。 ずっと逃げ出すことばかり考えてきたけど。 みんなに会えた、…あなたに会えたこの世界が、心から好きです。

……ありがとう、ございます。 しっかりと、頭を下げる。 そうして顔が隠れている間に、慌てて目に滲んできた涙を拭って。 (取り繕っても、相手にはお見通しかもしれないけれど。)

ビリー1cmb

顔を上げた眼鏡の奥、見えた瞳は やっぱり赤坂で。 変わらないところも あるのだなと どこかほっとした。
くすぐったいな。 礼を言われるようなことはしてないぞ…

赤坂天矢 1btg

思い出したように手を鳴らす。 あ、そうだ。
僕ん家の珈琲豆、まだビリーさんにはご賞味いただいてませんでしたよね。 ……マナちゃんから話は聞いてるかもしれないけれど…その…。 味はそこそこ良いのですが、何故か光を吸い込むかの様な暗黒の飲み物となってます……。 味は! 良いので! 是非持って帰ってくださいよ。 ぱたぱたと、戸棚の中から豆の袋を取り出そうと。

ビリー1cmb

そういえばコーヒー、俺のところは枯れちまったんだよな。 そっちのは無事に育ったのか…しかし、あ、暗黒……? 味がいいなら、まあ…貰っとく。

「じゃあ俺からは また 大量に貰ったマルメロを」と手近なテーブルに袋を置く

赤坂天矢 1btg

ずっしりと重量のありそうな袋を目にして ふふっ、ホント、毎年いっぱい出来るんですねぇ。お隣さんでしたっけ。 「マルメロの人」っていう覚え方になっちゃてますよ。おかしそうに笑う。
ありがとうございます。みんなで、いただきますね。

珈琲の袋はビリーさんへと手渡して。 えっと、よかったら、珈琲の苗、持って行かれますか? 今、挿し木で増やしてて、小さめのでよければ…。 そう言って指した先には、根付いたばかりの小さな苗が5つほど 窓際へと並べてある。
暗黒色属性を引き継いでいるかもしれないもので、よければ…。

ビリー1cmb

ああ。ガキの頃から世話になってる婆さんだ。 息子のように思われているんだろうが…それにしたってこの量は迷惑…
言葉の割には 楽しそうな顔で。

はは、じゃあ一株もらっていこう。 その色を 妻がなんとかできるかどうか はさておき、 折角暇になったんだから 何か楽しみでも増やしておかないとな
コーヒーの入った袋を受け取ったと同時に、落ち着いた香りが鼻を通る。 間から覗く色は なんとも形容しがたい黒さだ。 飲むのが怖くなりそうなので 長くは見つめないでおこう

赤坂天矢 1btg

色、何とか出来たら、是非飲ませてくださいね。

増やした苗の中から、葉色の良く元気そうなやつを選んで、手提げの袋に入れる。 多分、うちよりも良い環境に旅立つこいつの葉をつつくと、 ぴんと、誇らしげに胸をはるかのように、揺れたので。 それを見て、安心したように笑う。

じゃ、今はチェイネルさんと一緒に、ガーデニングを楽しんでらっしゃるのですね。 いいなぁ…、なんだか、やっぱり……理想の家族で。 花に囲まれたふたりが、……言葉少なに並んでいるのを想像する。 そんな家族の片隅に、こいつが…自分の育てた苗が、行くのだな、と思うと なんとなくくすぐったさを感じながら。
さ、どうぞ。

ビリー1cmb

“理想の家族”と言われ 小恥ずかしいのか 首の後ろを掻きつつ 苗を受け取り、コーヒーと一緒に抱えた  ん。サンキュ

同じ石のペンダントを指差して ああそうだ…その石、研磨なら俺でもできるから。

要は もし壊れたら修理も可能なので もってこい と言いたいらしい。 大事に扱えば何年も保ちそうな辺り 要らぬ心配だろうが、 言葉が足りないのは 相変わらず

じゃあ、また、な

イラスト:かげつき

赤坂天矢 1btg

……!  あ、じゃあ、……傷付いたりしたら、持って行かせていただきますね。 会いに行くのに、良い口実をもらったような気分で、嬉しそうにお守りを掲げて。
はい、では…… みんなに、よろしくお伝えくださいね!

このクランから立ち去るビリーさんは、いつもひとりの場所へと帰るのだった。今までは。 だけど今、家族のもとへと帰る彼を見送れるのがうれしくて、誇らしくて。

では、また!  はしゃぐ子供みたいに大きく手を振る自分を、少しバカみたいだと思いつつ…。 ……まぁ今だけは、いいじゃないかと。 彼の姿が見えなくなるまで、そのまま手を振り続けたのだった。