家族の絆

第四期:祈り

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傷付いたビリーと、赤坂のワガママと。

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ビリー 1cmb

「・・・・・・」

男は起き上がらない。

リノ 1svp

ゆっくりと、扉を開き顔を覗かせる少女  手には小さな籠と 中に果物

暫く扉の影で眺めていたものの 痺れをきらしたのか小走りで横たわる男の下にまで駆けつけ  その隣にちょこんと座った


…ふぅ  表情は気だるげで面倒事をやらされている様な雰囲気

ビリー 1cmb

「・・・う」
気配に気付いたのか身をよじる。薄目を開けると、視界の端に青い何かが見えた。
「・・・誰だ?」
嗅いだ事のない匂い。見舞いだろうか。

リノ 1svp

彼の顔をペタペタと触り …メデスが、これもってけ って…  果物…りんご、小ぶりなめろん、おれんじが詰まった籠を差し出して

ねぇねぇ どうしたの…?傷だらけ?? 痛そうだね… そう言いながら遠慮もせずぺちぺちと ただただぺちりと頬を叩いている

ビリー 1cmb

顔にはケロイド状になった傷跡が見える。 口の端は一部がくっつき、大口を開けることは叶わなさそうだ。 「ああ、あいつ、か」

顔をリノのほうへ向けると、籠の匂いを嗅ぐ。・・・熟した果実の香りが鼻を通った。 「ありがとう。その辺においてくれ。・・・痛いのは慣れてる、大丈夫、だ」

ひやりとする手が心地いい。

・・・チェイネルの見舞いはもうすぐだろうか、 自分と話すよりも彼女と話をしたほうが楽しいかもしれないな などと考えながら されるがままに顔を触られている

リノ 1svp

なんか戦争があったんだって…小耳に。 リノへるはうんど… いっぱい倒したとき嫌なにおいしたから  でも、どうにかなったのかな?

白髪のおじさん 強そうだから それでも 大変だったんだろうね… 彼の頬をむにむにしながら、楽しそうな笑顔

ビリー 1cmb

「・・・戦争と呼べるほど、大規模なものじゃなかったが」 一呼吸、ため息。表には出さないようにしているようだが、苦しいことには変わりないらしい
「今は落ち着いたと聞いてる。人伝に聞いただけだから、よくは知ら・・・」 不意に顔を持ち上げる。廊下から何者かの足音がしたようだ。

リノ 1svp

そっか…よかったね… 戦争はよくないから…
無垢な笑顔でビリーの頬をムニムニする

チェイネル 1cmb

数刻して部屋のドアが開く。栗色の髪に桜色のセーター。リノの記憶にある人物だろうか 「調子はどー・・・う?あれ?」

ビリー 1cmb

「ほはえひ。」
夫の頬が見覚えのある少女にムニムニされている光景は、なんだか親子を思わせて微笑ましい。

リノ 1svp

開いたドアの方角へ顔を向けると  いつしか話し合った女性の姿
…チェイネル!  …あれ?…どうしてここに?

チェイネル 1cmb

呆けたチェイネルの顔がはっとする 「り、リノ、ちゃん?その人は私の夫で・・・あれ?二人って知り合いだったの?」

頬を掴まれたままのビリーが首を振り、事情を説明する 「そうなんだ・・・?世間って狭いんだね~・・・ お見舞いに来てくれてありがとう、リノちゃん。」

リノ 1svp

チェ、チェ チェ チェイネル!  ぴょいっとビリーから退くと、チェイネルの元へ駆けつけた
ひさしぶり…元気そうでなにより… そっか この白髪のおじさんがチェイネルの…  難しそうな顔でビリーを見つめてからチェイネルに向き直る

よかったね ちゃんと逢えたんだね  …リノ は 番を 守れなかったから  二人が すごく 心配だったけど…  二人とも 無事なら 本当によかった  大口を開けて笑う 心底嬉しいとでも言うような

チェイネル 1cmb

「ひさしぶり、うん、うん、私は元気だよ」 駆け寄ってきたリノに手を差し出す。心なしか表情が和らいだ

「そうだね、やっとあえるようになったんだ。 ・・・うん、リノちゃんが心配してくれたおかげ。感謝しないと」
「ね、ビリー」と横たわったままのビリーに声をかける。反応は微弱だったが同意と捉えていいだろう

リノ 1svp

微笑ましそうにチェイネルの言葉を聞いていたが、 突然ハッ と表情を変え とてとてとビリーの元へ  だぼだぼのレインコートの裾からどこに閉まってあったのか 黒い短刀を取り出し

果物剥く!
と一言 拙い動きで林檎をむき始めた
…白髪の、ビリーが元気 なれるように  林檎もめろんも おいしいから 早く良くなるはず!

ビリー 1cmb

「・・・」 何か言いかけるも、一生懸命なリノを見て口を閉ざす 「ありがとう、怪我、しないように、な」

せっかく戻ってきたひと時の平穏。それを自ら乱すなんて野暮だろう・・・ そう思ったのか、違う理由なのか。小さな手をずっと眺めていた

リノ 1svp

形は不恰好で、剥いた皮には実を余らせているが  恐らく足りない技量の中でも丁寧に捌いているのだろう
わたた… 思ったよりも、難しい…  露な姿を見せる林檎は何故か霜が降っている

……大丈夫? やはり心配なのか剥き終えた林檎の皿を付近において、ビリーの額に手を翳した  ……ちょっと、熱い…のかな? ね? チェイネル ビリー は 大丈夫かな??

チェイネル 1cmb

無理なアドバイスはせずに、双方リノの皮むきを見守っている。 凍りかけた林檎に気をとられたのかぼんやりと 自分の名前に反応してアホ毛が跳ねる
「…えぁ、うん!リノちゃんがおいしいもの持ってきてくれたから、もう大丈夫。 新鮮?な林檎なんだねー。ひやっとしてそう…あ、私が食べたくなってきちゃった」
「あんまり口をあけれないけど、齧れるかな、どうビリー?」 呼ばれた当人は首を傾けて考えるそぶりを見せる。リノが切ったサイズならなんとかなりそうだ。

リノ 1svp

恥ずかしそうに顔を俯かせ短刀を仕舞い 彼の隣で体を小さく丸める
大きく余った裾で口を隠し、二人を見守ることにしたのか 座ったままの体勢でずりずりと距離を置いた

チェイネル 1cmb

ボールになった少女にはにかむ。背丈で言えば子供と同じくらいだろうか。
「リノちゃんも一緒に食べない?  あ、あとね、食堂のほうにたくさんお菓子を余らせてて、さっきも配ってたところなんだけど、どうかなあ。同じ歳くらいの子がいっぱいいるし、遊び相手になってもらえると嬉しいな」

フォークに果実を刺すと、あーん、と言いながらリノの口元へ。 霜の降りた果肉は時間経過でほどよく溶け、再び甘い匂いを放っている。

リノ 1svp

「食べる!!」
差し出された林檎を一口でもぐり しゃくしゃくと咀嚼する おいしい

「おな、いどし?…………ちいさいこ?  りの、遊べるけど」
首を傾げて食堂のある方向を探そうと 首を左右に振る

チェイネル 1cmb

リノが林檎に夢中な間、続けてビリーに林檎を差し出す。 まだ食べ方がおぼつかないのか、顎まで果汁が垂れた。 「お母さんやお父さん達が怪我してる人、多いからね。子供達が退屈してるの。」 窓の外、石柱から子供達の頭が見え隠れしている。珍しい風貌の少女に興味深々なのだろう

「私も手に負えない人数だし。忙しかったらまた今度でもいいんだけどね。 さて、と…そろそろ薬、飲む時間かな?もうちょっと身体起こして」
ビリーの口元を拭うと、背に手を廻し始めた。…彼はというと みっともないところをあまり見られたくないのか、目をそらして眉間に皺を寄せている

リノ 1svp

ふーーーん…
窓の外を見やる 子供の一人が手を振ってきた様で 笑顔で振り返した …リノ 時間いっぱいある だから来た

ビリーの心情を察したか、そうでないか 彼から目を離し 場から離れる  しかしやはり気になるのか 子供の相手をしつつも外の窓からビリーを眺めている


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  1btg

さて。
夫婦を、少し離れた距離で見守るリノの元へとやってきたのは 貧弱な体つきの、眼鏡の。

赤坂 天矢  1btg

チェイネルさんから貰った地図を片手に。天野さんから持たされた林檎をもう片方の手に。 ビリーさんのいるという建物、多分この辺なんだけど…。 きょろきょろと辺りを見渡すと、外で楽しそうに遊ぶ、子どもたち。

あ、のー、えっと。こんにちは、はじめまして。 こちらに向けられる幼い目にたじたじしつつ。
あ、あ、あやしいものじゃないんです、赤坂っていいます。(あやしい) あの、さ。この、地図に書いてある建物って、これでいいのかな。 教会を指しながら…、その教会へと時折目を向けていた、青い子供に声をかけてみる。

リノ 1svp

声の方向へと首を捻る
見慣れぬ 眼鏡の彼  青く僻み歪んだ瞳を向けて、ニコリと微笑んだ


はじめまして… 眼鏡のお兄さん 地図…それはわからないけど

鼻を何度かひくつかせ 教会を指差し
チェイネルなら、あそこ。 地図はリノ 読めないから… チェイネルに 尋ねてみると いいかも? その地図 チェイネルの 匂い した。
大きな裾で口元を押さえ 不気味にくすくすと笑った

赤坂 天矢  1btg

に、におい。 鼻の良い種族なのだろうか。思わず自分のコートが気になって、くんくんしてみたり。

君も、チェイネルさんの知り合いか。 ここの教会の子かな? と、勝手に納得する。
ああ、いや、チェイネルさんがあそこにいるなら… 多分ここで間違い無いみたいです。──ありがとう。 リノさんに片手を上げて、おずおずと。入り口から中を覗いてみる。

目を凝らせば、チェイネルの後姿とベッドにもたれかかるビリーが見える。 目を伏せたままのビリーは、まだ赤坂に気付いていないようだった。
「…お見舞いに来てくれる子、沢山いるね」
「ああ。」
「いっぱい元気もらったんだもん。きっと元気になるよね」
「そう、だな。」

「…ナナさんは、なんて?」
「教徒の数…戻ってきたそう、だが、祈り子が、足りないのと、あと…」


ビリーの顔がふとあがり、赤坂と目が合う。 「あ。」

赤坂 天矢  1btg

あ。
ビリーさんの声だ。ビリーさんの、人型の顔だ!  戦いの混乱の最中ではしっかり実感出来なかったけど。

ビリーさん、お久しぶりです…! ばたばたと、建物の中に転がり込むように、ベッドの横まで駆けつける。
こ、これ、お見舞いにっ。また林檎だ! 籠にやまもりに盛られた林檎を差し出して。 近くに来ることで目に見えた傷の具合に息を呑む。

…………あぁ、あの。お話の邪魔して、すみません。傷に障らぬよう、声を落とし。

ビリー 1cmb

「あか、さか」 かすれた声が少年の名を呼ぶ。

「ああ。…いつぶりだったかな。…ふ、はは、またリンゴか。手土産に、リンゴっつーのは、鉄板なのか?  気に、しないでくれ。見舞いに来て、くれた、のは、嬉しい。」

隣のチェイネルが振り返り、挨拶を返しつつリンゴを受け取って 「赤坂さんも食べていく?」と首をかしげる。

赤坂天矢 1btg

……お見舞いに珈琲じゃ、ちょっと駄目かな、と思いまして。 と、軽口を叩いて笑ってみるが、……彼の傷の様子が思ったよりもひどくて。 表情を曇らせながらも、チェイネルさんにお礼を、ひとこと。

ビリー 1cmb

「あー…なるほど」 薄目を開けて天井を仰ぐ。そういえば自室で育てていたコーヒーの苗は枯れてしまったな。

身体に巻かれた包帯は定期的に取り替えられているとはいえ、うっすら血がにじんでいた。 人間としての自己治癒能力すら、全く機能していないように見て取れる。

リノ 1svp

子供達と遊ぶ中 やはり何度か教会を確認する  あのお兄さんは誰だろうか 彼は大丈夫だろうか、と  しかし背後から襲い繰る子供達に敢無く倒され、小さな体はぺしゃりと潰れた

チェイネル 1cmb

窓の外のリノに手招きしようと立ち上がる。 人数が多いほうが楽しいだろうと思っての行動だったが、 ぺしゃんこになった彼女に思わず笑いが零れている。

赤坂天矢 1btg

あの、あの、ビリーさん。 チェイネルさんが立った隙に、側に寄って

……『契約』は、どうなっているんですか?  獣の姿が解除されたということは、契約のちからが弱まっているのではないかと。 それは、ビリーさんの……生きる力が弱くなる事と同義で。
……さっきちらりと聞こえた。信者の数は戻っていると。

──祈り子って、なんです? 契約に、何か関係ある事なんでしょうか。

ビリー 1cmb

チェイネルをちらと見る。…聞こえる位置にいない。

「契約は…切れてる。つーのも…ここら一体の町の時間…ほら、俺の、子供…巻き戻っていないだろ? 精霊の力、だったんだ。外と、中を、時間だけ、切り離して。今はもう、同じ時間が、流れているようだが…多分、力の限界なんだろう。」
自分の前を切るようなジェスチャー。 それが時間に対してのモノなのか 自分に対してのモノなのか 判別はつかない。

「…?祈り子ってのは…シンボルみたいな、もんだ。俺の契約に直接関係が、あるわけじゃない。 …信仰の…心っていうのか、まあ、そんなあやふやなモノを、束ねてもらう役割、だ。例の事件で、何人か、生き埋めになった、みたいでな。救助が入ったらしいから、まあ、そっちは、なんとか…なる、だろ、長い目で見りゃ。」
疲れたのか、妻に気を遣っているのか、静かに長い息を吐き声を落とす。

赤坂 天矢  1btg

……祈り子が足りないっていうのが、契約に関係ないんだとしたら、一体。

……契約が切れた原因、というか、理由って、何なんです?  力の限界って? 信者さんは戻ってきてるんですよね?  逆に本来の墓守が復活して、ビリーさんは用済み、とか、そういう事ですか?  ……純粋に。期間の終了、って事、ですか?  何だか腹が立ってきて、思わず立て続けに問いかけて ……話すことすら辛そうなビリーさんに気づくと、こちらも息を吐く。

つい声が大きくなってしまったかもしれない、と、チェイネルさんの方を伺いながら。

彼女、どこまで知ってらっしゃるんでしょう。 ていうか彼女も、お子さんたちも、……何もご存知無いのでは。

リノ 1svp

チェイネルーーー?
駆け足で教会へと戻ってくる 砂埃を掃いつつ

呼ばれたような気がして と言わんばかりの顔だが 耳をピクリと動かすと なるべくビリーとは離れた場所へと移動し チェイネルに向けて首を傾げた

チェイネル 1cmb

頭に残った砂埃を払ってやりながら、笑いかけ
「わんぱくでごめんね。あのお兄さんも沢山リンゴをくれたから、 みんなで食べようかと思ったんだけど・・・」

ふと目をビリーのほうへ戻すと、何か話し込んでいる様子
「なにかお話しているみたいだね。のみもの、入れよっか」

リノ 1svp

飲む…。
コクリ 頷いて地べたに座る 丸く成る其の体はとても小さい  聞き耳を立てるように いつもよりもピン と耳を尖らせて 虚空を眺める
チェイネルと目が合えば きっとえへへと笑うだろう

ビリー 1cmb

「……理由…俺が、墓守の、穴埋めだってことは、言った、よな。 もともとの役割を担っていた、守護獣が、な。今までは、かろうじて生きていた、そうだが、一度磨り減った教徒は戻れど、束ねられない信仰心は、力の供給を失い…。」
あとはわかるだろ、と肩をすくめると、自分の膝に手を置いた
「お役目御免、て、訳じゃない。役目を与えるだけの、力がない、それだけ、だ」

祈り子が助け出されたとして、それに自分の身体が間に合うか。 そもそも守護獣がいないとなっては、どう転ぶかもわからなかった。
「子供は…そうだな、なにも、知らない、だろ。 チェイネルは…多分、気付いていそう、だ。…アイツには、すぐ、ばれちまう」

赤坂 天矢  1btg

ばれちまう、じゃないでしょう…。 どうしてこんな…こんな時にまで内緒にしてるんですか?

黙ってることが契約の一環だっていうなら、仕方ないですけど…。 ちゃんと、話をして、理解してもらって…。 だって、だって…。もしかしたら、残りの時間も少ないかもしれないのに?

話しても仕方ない、とか、すごく、悲しいし寂しいんですからね…。 声のトーンを抑えられなくなってきている。 チェイネルさんやリノさんに聞こえてしまうかもしれないが、 ビリーさんが声を落として欲しいポーズを取れば、しぶしぶだが、従った事だろう。

ビリー 1cmb

遠くへ行ったチェイネルをぼんやり見送りながら
「……弱るとどうも、口が緩みがちだな。 本当は、最期まで、誰にも話すつもりは、なかったんだ。こうなったのは 俺の我侭で 自業自得で。

  …あと少しの命、かもしれない、とわかって、そのあとは? 今みたいに、お前みたいに、無用な心配を、かけるだけ、だろ」
赤坂の言葉に抵抗の反応示すわけでもなく、ただぼんやり首をもたげている。

チェイネル 1cmb

「もうお茶の葉も残り少ないんだよねー・・・かといってコーヒーは苦手な子も多いし。 リノちゃんは好きな飲み物、なあに?」
視線はティーポットに注いだまま、リノにはなしかける。 緋色に染まったお湯は、やわらかい匂いを含んで蒸気を飛ばしている。

リノ 1svp

リノ?リノはね えへへ オレン…
言葉を終えるか終えないかのうちに。

赤坂 天矢  1btg

思わず、声が大きくなる。
……無用、ですか? いらない、ですか? どうせ、何の役にも立たないですし、何も出来ないですよ…!

赤坂 天矢  1btg

僕は、そうかもしれないけど、チェイネルさんやお子さん達は違うでしょう?  ちゃんと知って、側にいて、一緒の時間を過ごせたら、それはビリーさんに安らぎとか、そういうの与えるでしょう? 知らなかったこととか、出来なかったことは、ずっと、ずっと、後悔として残るんです! 絶対に!

それを、黙って、ひとりで、我慢してて満足してる方が! わがままです!  感情が、昂ぶるのと共に、ぼろぼろと目から涙が零れる。みっともない、恥ずかしい。

リノ 1svp

誰かの鳴く声 泣き声 悲痛だ  さっきのお兄さんが ないている どうしたのだろと 首傾げ
きっと 何かがあったのだと チェイネルに向けて 困惑の視線
 …どうしたの、かな?

ビリー 1cmb

どんどん大きくなる赤坂の声。涙をぼろぼろこぼしたところで ようやく事に気付いたのか 先より目を見開いて首を持ち上げた。
「……そういう、意味じゃ、なくてだ、な…」

矢継早に言葉を浴びせられ、反論の余地すらない。 自分でも、わかっているつもりだった。彼のいうことはもっともだ。 最期まで 妻の笑顔を崩したくなかった 自分のエゴに過ぎない。

赤坂 天矢  1btg

ビリーさんが何も言わないなら! 僕が言っちゃいます!  チェイネルさんと、ヴァンくんと! マナちゃんに!  ぼ、僕なんかに、うっかり話しちゃったのが、悪いんですからねっ!  チェイネルさんとリノさんのところへと、ずかずかと歩いてくる。 涙は止まらない。

……〜〜〜うぇぇ。座り込んで、泣き出した!

イラスト:かげつき

ビリー 1cmb

静止しようと 腕を伸ばすが、既に赤坂はチェイネルたちのそばで蹲ってしまった。
「……。」
行き場を失った腕をゆっくりと下ろす。

チェイネル 1cmb

温厚な少年から発せられる 叫びにも似た声に驚き、振り返る。 赤坂が目の前で座り込んで 嗚咽を漏らし…なんとも苦しそうだ。
「あ、赤坂、さん?」

何があったのか問おうと 肩に手を伸ばし、 リノの視線に「大丈夫」と告げる。 赤坂へ目を戻して、ぽつり ぽつりと
「なにかあったの? それとも、ビリーがおこらせちゃったかな」
赤坂の表情は見えないが、悔しみ 悲しみ 苦しみ 色々な想いを感じる。

赤坂 天矢  1btg

……ごめん、ね、だいじょうぶ。 ぐすぐすと鼻をすすりながら、こちらを見る少女に告げるが…。 明らかにだいじょうぶじゃなさそうに見える自覚はある。

……ビリーさんの気持ちも、分かるんです。 だけど、……どうしようもない、ところで、事が進んでしまうのは。かなしい。 しゃくりあげながら。チェイネルさんの優しい声に、ゆっくりと気持ちを落ち着けて。

チェイネルさんは…ビリーさんの姿がどうして狼だったのか。 ──狼の姿ではなくなったと言う事が、どういう意味を持つのか。 ご存知なんでしょうか。

ゆっくりと、自分の知っている事を伝えるだろう。 彼が精霊との契約によって命を繋いでいた事。家族に危害が及ばぬよう黙っていた事。 命をつなぐための契約が、切れて。 それにより、……ビリーさんの命が、どうなるのか分からないこと。

赤坂 天矢  1btg

話している途中で、不安になる。本当に、これがこの家族の為なのだろうか。 黙っていれば、これ以上壊れることは無いのにと。 自分はずっとそうやって黙って、壊さない事ばかり願って、……それで後悔ばかりしていて。

もうあんな想いはたくさんだ。そんな僕の我儘で、この穏やかな時間を、壊すのか?  ぐるぐると巡る自問には答えが出ないままなのに、僕の口は止まることなく、残酷な真実を告げていく。

赤坂 天矢  1btg

……ヴァンくんと、マナちゃんに、話をしてもいいですか? 残された時間が少ないかもしれない、んだったら…。ちゃんと、伝えなきゃ。
僕は、あの子たちに、後悔…してほしくないんです。

チェイネル 1cmb

チェイネルはゆっくりと頷き 赤坂の話に耳を傾けた。 遠くに見えるビリーの顔に影が落ち じりじりと顔をそらしていく

「うん…うん、そう、だったんだね。なんとなく…わかってたよ。まだ死ぬと決まったわけじゃないでしょう?  私にできること、きっとまだあるもの。諦めないよ。
でも…そうだね、子供達にはちゃんと話、しないとなあ…」

困ったような笑顔を赤坂に向ける。 当人へのショックは大きいはずだが ただの強がりか 覚悟が硬いのか。

赤坂 天矢  1btg

えぇ、それは勿論。諦めるなんて、そんなの。
……出来る事を、やる為に。みんなが出来る事を出来る様にするために。話をするんです。 まるで自分じゃないみたいな意見だな、と、どこか冷静に思う。

──どう、しましょう。僕から話すよりも、おふたりから直接の方がいいでしょうか。 ヴァンくんと、マナちゃんと…。僕がここに、連れて来る、とか?

チェイネル 1cmb

真直ぐと 赤坂に顔を向ける。揺るぎない 心と同じ瞳をしていた

「こればっかりは、ね。家族のことだもの、私たちからちゃんとお話するよ。 きっかけはあなたから 貰っちゃったけどね。ありがとう、赤坂さん」
頭をいつもより深く下げ 感謝の言葉。 彼の視点から見えなくなった表情は もしかすると歪んでいたかもしれないが、 再び顔を上げても 先と変わりない表情に見える

「じゃあこれ…娘に、渡してもらうだけでもいいので、お願いできますか?  しばらく家に戻れそうにないから なかなか伝言ができなくて… その間にこちらでも、できることを探してみます」
ポケットから取り出したのは 小さな羽根を模した髪飾り。 手に取れば 少し暖かな温度を 感じることが出来る

赤坂 天矢  1btg

これも、ビリーさんのお手製ですか?
受け取ったそれを大切に、ハンカチに包んで鞄にしまい込む。

えっと、これを渡して……、チェイネルさんからビリーさんの件で話があるから…、 「待ってて」という形でいいですか?

チェイネル 1cmb

「はい、壊れちゃっていたもの・・・なんですけど、随分前に直してくれてたみたいで。
場所は伝えても構いません、今は知り合いのおばあさんが面倒を見てくださってますから、危ないことはしないと思いますし、ね。”全部お話するから待ってて”、と・・・お手間を取らせてしまって、すみません」

再び深く頭を下げると、ビリーのほうへ顔を向ける。 彼はまだ項垂れたままで 口を開かない。 苦笑いをひとつ 投げかけると 赤坂へ向き直った
「もう、ほんと あんな調子でごめんね」

赤坂 天矢  1btg

いえ、とんでもないです。 …………僕こそ、ビリーさんの想いを、無下にしてしまって。 だけど、謝らないぞ! と、拗ねたようにふくれっ面を。

格好悪いところ、見せて、すみませんでした。 君も、ごめんね、お邪魔しました。ありがとうね。 リノさんの方に向かって、バツの悪そうな顔で一礼する。 最後にちら、と、ビリーさんの方を見て、玄関でまた頭を何度も下げて。 そのままの足で、子どもたちの待つ家へと向かうようだった。

山盛りの林檎が、残されて。

部屋が茜色に染まり、沈黙が流れる。 項垂れたままのビリーが、ゆっくり口を開く
「…どこまできいた?」

「ビリーが赤坂さんに話したこと、全部。知らないことも、あったけどね。なんとなく…隠したがることはわかったよ。
…ねえ、私、別に怒ってるわけじゃないの。あなたってば 誰にも言わずに消えちゃうところあるんだから今更何があっても 驚かないもん」

妻の言葉に何も返せず ビリーの顔がゆがむ。
「…ごめん」
それ以上の言葉は出てこなかった。 俯く頭に チェイネルの手が触れ、抱き寄せられる

「ないても いい……?」
抱き締められた頭は ゆっくりと頷いた


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赤坂 天矢  1btg

優しい風がそよそよと草花を揺らして、ふわりと漂う知らない花の知らない香り。 何度か訪れたビリーさんの自宅は相変わらず… 僕が憧れる「家族」を守るように、優しく暖かにそこにあった。

赤坂 天矢  1btg

何かお土産でも持ってこれればよかったかな。口実があれば、無意味な雑談だって出来るのに、などと思いながらも、扉を叩く。

こんにちはー、えっと赤坂です。クランかげつきの。 ……誰か、いる?
預かった髪飾りを、鞄の上から手でそっと押さえつつ返事を待つ。

マナ 1cmb

は、はーい!!

ばたばた 慌てたように少女が一人 勢いよく玄関を開けた。 ドアを引く勢いがあまったのか 後ろに倒れそうに わたわたと
ママー!おかえりーーーー!?  あ、あ、銀お兄ちゃんだ、おわわわわ  どうやら母親が帰ってきたと勘違いしていたようだ

赤坂 天矢  1btg

……残念、ながら、お母さんじゃないんだけど…。 ごめんね、と首を傾けて見せる。
けど、チェイネルさんから、伝言、預かってきたよ。 ……ヴァンくんは、今日は在宅なのかな。 顔、見られればなぁって、思ったんだけど。

中から聞こえてくる物音に、ヴァンくんのものが無いかどうか、耳を澄まして。 鞄から、大切に、取り出した髪飾りは、まだハンカチに包まれたまま。

ヴァン 1cmb

驚いた表情のマナの奥で、 ふてくされた様な顔をしたヴァンが ひょっこり顔を出す
んー…あ、魔法使いの兄ちゃん。 どうしたんだよ、今日は母さんかえってないし。おばさんいないし。 …オモテナシってやつはできないぜ

赤坂が取り出したハンカチとマナ、赤坂の顔を交互に見ている。

赤坂 天矢  1btg

……あぁ、ヴァン君も。よかった。 えっと、チェイネルさんから、預かり物があります。
そっと開いたハンカチの中に、羽を模した髪飾り。

これを、渡してって、頼まれたんだ。 あと、ね。だいじな話があるから、チェイネルさんから。ビリーさんの事。 ”ぜんぶお話するから、待ってて”……って。 チェイネルさんから受け取った暖かさも、届けることができているだろうか。 ふたりとも、本当に、君たちのこといつも想って。 だから…、信じて、待っててあげてね。

マナ 1cmb

広がったハンカチをまじまじと見つめる。 見覚えのある形―大好きな鳥の、羽モチーフ
あっ、あっ!!これ、私の!なおってるー!!
目を丸くしながらも、赤坂から髪飾りを受け取ると 嬉しそうに肩を弾ませて ありがとうと微笑んだ

だいじな、お話? 
兄妹は顔を見合わせると目を瞬く。 兄のほうは察したようで、眉根を寄せて頷いた  うん、うん、わかった。 お兄ちゃんと一緒に おりこうさんにしてるね。 あ、そうだ、お礼、お礼…

ごそごそ ポケットから取り出したのは何かの原石。 赤坂の瞳と同じ 淡い蒼を反射してきらきらしている
ぶるーむーんすとーん?お守りに使う石なんだって。 これくらいしかないんだけど、よかったら、もらって?

赤坂 天矢  1btg

…………こんな感じの石、見た事ある。ビリーさんの持ってたのと、同じ石かな。 確かチェイネルさんから渡されたっていう…。

いいの?  誰かからもらった大切なものだったり、しない?  戸惑ったように、そっとハンカチの上へ乗せたまま。

マナ 1cmb

赤坂の言葉に首を傾げ 不思議そうな顔

家にある石は みんな埃被っちゃったままなの。 だれかに使ってもらったほうが いいんじゃないかなーって。
受け取ったのを確認すると 口角を上げ にぱっと笑った。

赤坂 天矢  1btg

青い石を大切に手のひらで包み込むと、 思い出したように。ぽつりぽつりと話し出す。

……僕ね、両親と、仲良くなくってさ。 父さん、母さんなんて、知るか! って、家飛び出して来ちゃったんだけど。
チェイネルさんも、ビリーさんも、ちゃんとふたりとお話するって約束してくれたから。 僕もね、一度帰って。話してくるよ。 結果、何も変わらなくても、……何もしないより、きっと、後悔しないから。 ね、そう、思うよね、ふたりも。
不安なような、怯えたような色をにじませて、にこりと笑う。

マナ 1cmb

そっかぁ、銀お兄ちゃん、けんかしちゃったんだ…。

ママがいってたよー、お話しするときは目を見て、向かい合ってーって。 優しい銀お兄ちゃんなら きっと仲直りできると思う!  ね、と兄の顔を振り返る。

ヴァン 1cmb

最初は戸惑いながら 考え込んでいるようだったが、 何かを納得したように口を開いた
何もしないより…そっか、そーだな、すげーや、兄ちゃん。 …お、俺も!俺も仲直りがんばる…まけらんねーし!

赤坂 天矢  1btg

ん、ありがとう。 ふたりにそう言ってもらえると、心強いや。 ふふ、と、笑う。 そういえば、初めて会った時に比べて随分とふたりとも、自分と年が近くなったな、と思いながら。

ビリーさんとチェイネルさんにも、よろしくね。 ……特にビリーさんには。 前言撤回する気はないけれど、……怒らせちゃったかもしれないから。

じゃ、このお守り持って、しっかり、行ってきます!  青くきらめく石を手にして、笑顔で手を振って。 背中を向けた赤坂は、いつもより少しだけ背筋を伸ばしているように見えたかもしれない。

マナ 1cmb

はーい、よろしくします。 パパおこったの?おこった顔こわいよ〜〜、絵本のまじゅーみたいなの。
頭に指を立てて鬼の真似をするも その顔はどこか楽しそうだった

いってらっしゃい!またねー!!
「かっとばせ〜〜!」
赤坂が見えなくなるまで 手を振り返す。 何かを乗り越えたような青年の背中が、子供達には少し大きく見えた。

ヴァン 1cmb

・・・なんか 魔法使いのにーちゃんすげぇな、 ナヨナヨビクビクした やつなのかと思ってたけど。
・・・・・・よ、よし、俺だって父さんにあれこれいってやるぜ!! ばかやろー!とか、ぶしょーものー!とか・・・!

マナ 1cmb

それって けんかにならないかなあ・・・?


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ナナ 1cmb

「あと何日生きていられるか、なんだけどね」

小鳥がさえずり始める早朝、まだ誰も活動していない教会。 穏やかな表情で話を続ける

「今の調子だとあと数日も持たないわよ、貴方」

傍から見れば残酷な余命宣言。 けれど、事実は事実として伝える必要がある

ビリー 1cmb

「…数日…」

咳き込む頻度は日に日に増え、時に喀血もあった。 それを自覚してはいたはずだが…あまりにも短い。 家族への手紙?自分の遺産の整理?何を成すにも時間が足りなさ過ぎる。

「その言い方だと、祈り子は助からなかったのか」

ナナ 1cmb

「いいえ、祈り子は救助が終わりました。 ただ、儀式ができる状態のものは私くらいしかいないの。
…せめてあと一人、補助してくれる子がいたら助かるんだけど。才がある子は、私の知る限り一人、という所ね。」

ビリー 1cmb

「……娘か…」

ナナ 1cmb

「貴方が家族をしきたりに縛りたくない気持ちは 勿論理解しているつもり。…でもよく考えておいて。 貴方にとって家族が大切なように、マナちゃんやヴァン君も、貴方が大切なはずよ。 例え、離れ離れに 暮らす未来であったとしても。」
すっ と 音を立てずに立ち上がる。 傍らに置かれた金属の杖が、燭台に照らされて鈍く光った
「貴方の命はあくまでひとつなんですからね。」

犬 1cmb

わん  わん
扉の奥から犬の鳴き声が聞こえる

ビリー 1cmb

・・・・・・なんだ・・・?
人のまばらな教会内に響く鳴き声に気付き 起き上がる。 肺がぎゅっと 押しつぶされるような感覚に咳を漏らすが、 なんとかベッドから立ち上がった。
・・・どこかで、聴いた、声・・・

ゆっくりと扉を開ける。 木の軋む音 留め具の擦れる金属音。 眼下に見えたのは 小屋にかくまっていた黒い子犬
・・・お前

ナナ 1cmb

おやまあ。この前ここで生まれた ワンちゃんじゃない?  随分あなたになついたのね。

ビリー 1cmb

預かったのは 俺が狼の姿の時だろ?  ・・・匂いで、わかるのか・・・
どこかで、魔獣に食われていないか・・・少し気がかりだったが、 元気そう、だな。 よかっ、た。

犬 1cmb

おとなしく その場に座り 尾を揺らしている