ミセイコジンの民草

第四期:いつもの

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異世界に吹き荒れた「風」の物語

先日セリオンで行われたイベント、 【大活躍レース】 に参加したかげつきのクラン。 イベントに繰り返し参加するうち、気の合うクラン、というものに出会う事もある。

同じチームとして戦った、【ミセイコジンの民草】という名のクラン。 天野のように、異世界からやってきた異邦人である彼らとは、 イベント終了後もよく冒険を共にしていた。

気の弱い青年、ダスティ。兎に似た耳を持つマーリオ。 半分?植物の身体を持つケント。ケントの兄であるランド。 風変わりなメンバーだが、さて、ある日クランかげつきの玄関にやってきたのは……。

マーリオ 29er

マーリオ参上!!
大活躍レース、あれ今回は違う名前だっけ? とにかくなんかお祭りで同じチームになった皆にご挨拶だ! マーリオだよ!! あっさっき既に名乗ってた!! とにかくよろしくー!!

前にもこの近く通ったコトあるんだけど、 時々なんか歌がきこえるよねー。多分楽器のお兄さんのヤツだよね! 今度オレたちミセイコジンの里でコンサート開いてよー、皆娯楽に飢えてるんだー。

お祭りもあと少しだし頑張ろうね! それじゃあねー。

天野 輝樹  1btg

おお、よく来てくれた、まーりお殿。 祭は楽しいな。全力で、楽しんだもの勝ちだぞ。 …などと言わぬとも、君は、楽しんでおる様だな? うむ。良いことだ。

──ああ、てるぷ殿の歌、だな。良い歌であろう。 てるぷ殿と共に暮らしていると、いつもあの歌が聴ける。 其れが非常にこのくらんの素晴らしい所であると、思っているよ。

──君たちの里、が、あるのか。…この、ぶりあてぃるとに、か? 確か彼らは異世界からやってきたと、そう聞かされていた気がするのだが。

テルプ・シコラ  1btg

えー、行く行く、いっぱい歌うよ! ミセイコジンのうた♪、とか作って行く!
にーさんたちのいたトコって、どんなトコなんだろうね? こう、インスピレーションが沸く話、色々聞かせてよ! ね!

いいたい事だけ言ってぴょこんと去ってしまうマーリオの後ろ姿を見送って。

……里の話の続きは何日か後、また突然に現れた彼の口から聞ける事となる。

マーリオ 29er

マーリオ参上!! お邪魔しまーす!
別段込み入った話するワケでもないんだけど、 玄関で立ち話するには長いかなーって思ってどこ行けばわかんなかったから なんかどっか勝手に入るね!
***
半獣人は玄関を使わずに客間の窓から室内へ飛び込みつつ、大音声で訪問をアピールしている。
***

赤坂 天矢  1btg

わ、びっくりしたぁ!

マーリオさんじゃないですか。いらっしゃい。 とりあえず珈琲をどうぞ。さぁどうぞ。 なかば強引に珈琲を勧めている。

マーリオ 29er

どんなとこって聞かれてた気がするからお話にきたよー。

ブリアティルトにもミセイコジンのヒトらで作った集落があるよー、 あちこち場所変えながら見世物小屋やってるんだー。 教会のヒトが怖いから西にはあんまり行かなかったり、行っても息を潜めたりしてるけどね。 小屋にはケントも時々いるよ! 檻の中にパンツ一枚で座り込んでじろじろ見られるのは嫌だって普段は冒険稼業してるけど!

げてものが嫌いじゃなければ見に来るといいよー。あ、そうそう、 楽器のお兄さんがそういうのダメだったらコンサートは目隠しして開いてね!

赤坂 天矢  1btg

見世物小屋、ですか。

……自分と違う外見を面白がる一定の人がいるのは否めませんけれど。 ある意味、排除しようとするよりよっぽど、……何ていうか。好きじゃない、ですね。 顔を曇らせる。

冒険者の皆さんは、外見なんて気にせず接する方が多くて、 ここの居心地がいいと感じる点のひとつですね。 ケントさんにとっても、冒険者という人間が。冒険の場が。 そうであればいいのですけど。

テルプ・シコラ 1btg

ま、見世物って言ったら吟遊詩人の歌だって似たような部分はあるけどね。 俺はプロとしてやってないからぬるーい感じだけど、何て言うかな。 心を裸にして切り売りしてるような部分もあるから。歌ってのは。 そんでも、それは多くの場合望んでやってる事だからね。誇りをもってさ。

……だから、葉っぱのにーさんが「嫌だ」って思うなら、 他に見つけられるといいね。好きなこといっぱい。

天野 輝樹  1btg

うむ、己(おれ)はあの けんと という男には勝手に親近感を覚えている。 己(おれ)もな、身体から生えるぞ、植物が。 生やしてみるとなかなかかわいい物である。

赤坂 天矢  1btg

え、それ初耳ですね…。かなり長いこと一緒にいるのに。

天野 輝樹  1btg

まぁ…生やす機会も無いからな。

マーリオ 29er

ミセイコジンは、ココに来てる他の訪問者のヒトたちの世界に比べると だいぶココに似てたと思うよー。大きな違いはねー、宗教かな! この世界には色んな神様がいるから色んな宗教を認めなさいっていう決まりがあって、 周りに迷惑をかけない限りはどんな信仰を説いても良かったんだー。 だから神様の教えがどうこうっていうのが原因で起こる戦争は無かったみたい。

こっちはちょっと殺伐としてるねー。

マーリオ 29er

あとはー、んー、オレすぐ昔のコト忘れるから詳しくないけど、 お兄さんたちはカンヅメって知ってる? 瓶詰めより強力な食べ物の保存方法でねー、 金属の筒にしっかりがっちり詰め込むから何年って単位で長持ちするんだー。 蓋が無いから開けるのも大変なんだけどね!

で、その缶詰を作る魔法の道具がミセイコジンにあったから、 遠くの果樹園で取れた珍しい果物をいつでも新鮮な味で食べられたりしてたよ! こっちでダスティがよく 「ああーこの素材いいな、缶詰にでもして大事に使いたかったな」 って料理の時に言ってる!
アレどういう仕組みだったんだろうなー。いつかココでも作れるようになるといいよね! それとももうあるのかなー、オレはこっちじゃ見てないや。

天野 輝樹  1btg

缶詰は、知っているぞ。己(おれ)の世界には存在していた。 この世界には…漂流物で流れてくる事も多いらしいが、 此方らでは、作られてはいないのではないか?
ヴァルトリエの方に行けばまた違うのかもしれぬが。

マーリオ 29er

災厄の風が吹いてからのミセイコジンは 逆にブリアティルトとはかけ離れた世界になったけど、 楽しい歌の材料にはあんまりなりそうにないやー。 一言で表すとバケモンの殺し合いの世界だったー。楽しくない歌の材料にはなるかな? もし知る必要があったらダスティに聞いてみてねー。オレはなんか色々忘れた!
***
説明するその表情に翳りは無く、異世界の凄惨さは一切伝わってこない。
***

天野 輝樹  1btg

──成程、それで、生き残った者たちで此方に来た、訳であるかな?
それは、……世界が、何ともならぬのを見ているのは、辛い、な。 自分の事のように、眉間に皺を。

テルプ  1btg

そっか。耳のにーさんは……忘れたのか。

それは、幸せな事だね? 嬉しそうに笑う。

マーリオ 29er

お、そろそろおばーちゃんが家に帰ってくるかなー。 オレも一旦帰ってお手伝いするねー。 お土産持って来ようと思って忘れたから後でダスティが玄関にでも置いてくと思う! じゃあねー
***
話が終わると、来た時と同様窓から飛び出ていった。
***

テルプ  1btg

って、耳のにーさん?! 言いたいこと言ってさっさと行っちゃうんだもんなぁ…。 飛び出した後ろ姿を見送って

赤坂 天矢  1btg

そういうとこ、テルプさんにそっくりじゃないですか。

テルプ  1btg



  …………そう、かもね。

また、何日か後の事。
マーリオの話していた通りに、おずおずと扉を開く男の姿が。

ダスティ 29er

あ……ごめんくださッ……ぐふゥ! ミセイコジンのダスティっス……すみません緊張でちょっと、ちょっ、………… クスリを飲んでくるべきだったかな……。思えばこれまで何も土産をマーリオに、ゲホッ…… 持たせてなかったんで、僕が持ってきました。

「なんかコーヒーっていうの推された!」とか言ってたから コーヒー味の粉末です、その……ケントが育てて……混ぜた…… え、えーっと、僕が毒見した限りでは安全だったんで! はい!! お湯に入れると確かにコーヒーの味がするんですよ。 違いの分かる方が美味しく飲めるかどうかまではちょっと分からないんですけど…… 物珍しさだけでも楽しんで頂けたら幸いっス。繰り返しますけどこれは安全ですんで。

◆謎の粉末の瓶のラベル(ケントが書いた)◆
・カップ1杯につきティースプーン2杯の粉でコーヒーの味としか言い様がない
・飲んでも目は冴えない、むしろ沈静作用があるので注意
・淹れたまま放置すると中から妖精が産まれる事があるので、湯に溶かしたらすぐ飲む事

天野 輝樹  1btg

……相変わらずであるな、君は。 まぁ茶でも飲むといい。少しは落ち着くかもしれぬよ。 こちらは緑茶を執拗に勧めてくるぞ。

何というか。あまり安全安全と言いすぎると却って疑わしく感じるな。 しかも毒味したのは君か。 君は既に色々な薬に耐性が付いておって、参考にならぬ気がする。

赤坂 天矢  1btg

…し、失礼ですよ天野さん…。(小声で)
そういえば、麦茶に砂糖と牛乳を混ぜて飲むとカフェオレの味にー、 なんてのもありましたよねぇ。是非いただきます、ありがとうございます。

テルプ・シコラ  1btg

横からラベルを覗き込み えっ 妖精産まれるの? 欲しい! 妖精ほしい! ねえおかーさーーーん!

赤坂 天矢  1btg

駄目です! ちゃんと世話出来ないでしょう!

テルプ・シコラ  1btg

じゃあ聞くだけ! ねね、にーさん。 産まれる妖精ってどんなやつなの? かわいい? こわいやつ? 興味津々だ。

ダスティ 29er

一回見た事はありますけど、 コーヒー色の液体が無理矢理小さな人型とって羽生やして飛んでるって感じの奴でしたね。 見た目は可愛くないけど仕草は愛嬌がありました。低いながら知性もあったみたいで。 ただ寿命が短くて割とすぐ液状に戻るんで、可愛がるのには向かないっス。
元妖精だった奴は不思議と可哀想になって飲みづらくもなるんで…… その辺も踏まえてすぐ飲めってケントは書いたんだと思います。

テルプ・シコラ  1btg

そっかぁ…生命、だもんねぇ。 すぐ、消えちゃうのは、ちょっと嬉しくないね。 コーヒー風味の粉末を手に、残念そうだ。

──そういや、さ。耳のにーさんから聞いたんだけど… 何か、大変だったっぽい? にーさんたちの国。 今度そっちに行って、歌わせてもらおうかと思ってるんだけど… 嫌なこと思い出すような単語とかあったら、それは避けたいからさ。 怪獣が来たとか聞いた気がするけど。……嫌じゃなかったら、ちょっと聞かせてよ。

また、今度さ。よかったら、よろしくね。 緊張ほぐれる事無く立ち去るダスティを、見送った。


何日か後に、再びダスティがクランを訪れた。

ダスティ 29er

……うん……「どこ入っていいかわかんなかったー」とかいう マーリオの気持ちもちょっと分かるな……玄関で立ち話するには長くなりそうだし…… でも窓から勝手に入るのはないだろ……絶対ないだろ……。お、お邪魔します…… その、なんと言うか あの飲み物がむやみやたらと充実してる部屋だと ちょっと緊張が高まっちゃいそうなんで、こちらでお話させて頂くっス。 別段内緒にしたい話ってわけでもないんですけど……

***
遠慮がちに客間を訪ねてくる人影が一つ。 室内に入ると、持っていた小さな缶をテーブルの上に置いた。
***


あ、この缶は緑茶の茶葉です。 前回ご馳走になりましたんで、イズルミの方で買ってたやつを持ってきました。 僕、名前とか見た目はこうですけどイズルミに似た文化の地域で育ったんで 緑茶も割と飲めるんスよ。

赤坂 天矢  1btg

ああ、どうぞどうぞ、奥にどうぞ。 あそこ、扉を開け放してあるから、落ち着かないの分かります。 僕らも、自室に引っ込んでる事の方が多いですからね。

珈琲味のあれ、味は、確かに珈琲としか、言い様が。おいしかったですよ。 飲んだ後落ち着く感じは、ハーブティーにも似て… カフェイン苦手な人にいいかもしれませんね。 うーん、でも妊婦さんはちょっと心配かな。どうかな。 ちゃんと色々からだに与える影響とか調べて、商品化したら売れそうな気がします。

天野 輝樹  1btg

おお、緑茶だ。良い物ではないか、有難う。

そうか、どの世界にもいずるみ国に似た文化が産まれるのは面白い事だな。 己(おれ)は和食以外はどうも口に合わぬ故、…しかしどの世界にも和の文化があれば 安心して世界を渡れるというものだ。

ダスティ 29er

それと、歌にすると不味い要素が無いかっていう ミセイコジンの異変についての確認でしたっけ。 いやあ、そこまで気遣って頂けて恐縮です。

怪獣が現れたというか…… 世界に吹き荒れた風を浴びた住人が、続々と怪物になっていったんスよ。 大体の人は体と一緒に心も怪物になりました。
***
一旦話を途切れさせ、視線を泳がせる。 少し言葉を選ぶような調子で再び口を開いた。
***


屋内にいた人なんかは結構無事だったんですけど…… 無事だった人も、その……元 人だった連中に蹂躙されて…… 難を免れた人たちも、安全な場所とか、水とか、食糧とかを奪い合って…… まあ、文明的な暮らしは困難になりました。簡単に言うとそんな感じっス。

避けた方が無難な言葉は、そうだなぁ……「別れ」もそうだし、 「家族」も時々抉られる人がいるみたいです。 怪物になった人間が真っ先に誰を襲うか。で、誰の目の前で死ぬかっていうと、 傍にいる人ほどそうなりやすかったんで……。

っと、せっかくだしこれなら大丈夫じゃないかなってテーマも考えた方がいいスかね。 僕ら残されたミセイコジンの民の大半は、「心」の大切さを身に染みて分かってます。 それから……「安らぎ」を求めてる人も多いと思います。 あとはミセイコジンに伝わってた歌とか……ってこれは難しいですけど。

ダスティ 29er

やっぱり楽しい歌の材料は提供できなそうなのが心苦しいっスけど…… いやぁ、本当、こんな風に心遣い頂けて嬉しかったです。 どうもありがとうございます。

***
謝意を表すその顔には、いつもどこか怯えているような彼にしては珍しい、 心底嬉しそうな屈託の無い笑みがあった。
***

イラスト:かげつき

天野 輝樹  1btg

ふぅむ。風が、か……。

──人の心を失くした者よりも、人そのものの方が時に恐ろしいという事実に… 時に絶望させられる事もあるが。 それ以上に、だすてぃ殿、人は強いぞ。断言しよう。 人の強さが、絆が、新たなる世界を作り出すのだ。

──と、己(おれ)はいつでも思っている。 慰めたいのか何なのか、相手を睨むような挑戦的な目で 真っ直ぐに見据えながら。

テルプ・シコラ 1btg

んー、ありがと。にーさんも……、そこをくぐり抜けてきたんだねぇ。
ありがとね。

テルプ・シコラ 1btg

──俺っちはさ、嫌なことはなるべく忘れて、楽しい歌だけで塗りつぶしたいって ずっとそう思ってたんだけどさ。

いろーんな事があって、ちゃあんとその上に立ってるいろーんな人がいてさ。 そいつらの持つ楽しさって、すごくきらきらしてるんだ。 上辺だけの楽しさじゃなくてさ、何て言うんだろ。 メッキで塗り隠すんじゃなくて、ずっと奥のおくまで透き通った結晶みたいに ……綺麗なんだよ。すごく。

だから、俺は、いつか… にーさんの今みたいな話も、いつか楽しい歌に変えたいな。 ちゃんと、大事に材料にして、歌を作っていければいいなって、思ってるんだよ。 ──だから。ありがとね。

リュートを一度ぽろんと、鳴らして。
歌が出来たら必ず行くよ。楽しみにしてて!  んで、いつでも遊びに来てよね。……窓からでも、構わないよ。

赤坂 天矢  1btg

構いますよ!

あ、でも、いつでも歓迎するのは、僕も。ですので。 また遊びに来てくださいね。 義務的にツッコミを入れつつ、ダスティさんの後ろ姿に手を振って見送った。