妖怪浴衣置いてけ?
第四期:祭り囃子が聞こえる
天野輝樹がお祭りを楽しむようです。
浴衣を着て楽しそうに出かける人々を、何人見送っただろうか? どうやら浴衣の貸し出しも、一区切り付いたようだ。
……さて、と。
客足が途切れた所で、小屋から出て行き交う人を眺める。
己(おれ)も少しぶらりとするかな…。
やってきたのは、先ほど、遊びに行くと約束したぬいぐるみ屋。 大小たくさんのぬいぐるみが並び、少女の横には大量の布と小さな裁縫道具が置いてある。
おずおずと、屋台を覗き…。可愛らしい雰囲気に一歩引き。
改めて、恥ずかしそうにゆっくりと、覗きこむひとりの男。
クーさんが視界に入ると、歩を進める。
あー、此処か。約束通り参ったぞ。邪魔をする。
しかし、可愛らしいもので埋め尽くされておるな。
場違いではないだろうか。己(おれ)が居ると、他の者が入って来にくくなるのではないだろうか。
きょろきょろしつつ
……売り物は、これか。ぬいぐるみを物色して。
ここでは好きなぬいぐるみを作ってもらえる他、 自分で作ってみることも出来る、という。
つ、作る?!
いや、己(おれ)は、何というか、手先の不器用さには自信がある感じゆえ…。
というか、これらのぬいぐるみは人の手が作ったもの、なのか。
……勿論誰かが作らねばこの世の中に生まれ出る事は無いのだが、
改めて聞くと、何というか、人の作りし物の無限の可能性を感じるな。(何を言ってるのか)
しかしぬいぐるみ…ぬいぐるみか。
しばらく考えて、ふと思い出したように。
…………くま、のぬいぐるみを、作っていただけるだろうか。
己(おれ)の趣味ではないぞ! 断じて!
……大きめで、こう、抱えられる感じで、
首元に、桃色のりぼんをつけた感じで、頼みたい。
必要なら、がっつ(お金)は追加で支払おう。
ここにあるぬいぐるみはすべて彼女の手作りの品であるという。 追加の料金はいらない、と言いながら 華麗な手さばきで、あっという間に仕上げた、とても愛らしいくまのぬいぐるみ。
…全て、か! すごいな!
どれほどの時間がかかるのか、と思っていたところの爆速縫いに、おお、などとため息に似た感嘆の声を漏らし。
素晴らしいな。想像していた通りの出来であるよ。有難う。
大きめなので布地などがたくさん必要かと思ったが…お言葉に甘えさせていただこう。
300Gを支払いつつ
天野の横でぬいぐるみを買った客が、それがかわいらしく踊リ出す姿に歓声を上げていた。 魔法の力なのだろうか。 望むならば、ぬいぐるみを動かす事が出来るという。
う、動くのか! ここに来てから驚き通しである。
出来上がったくまを手に持って、しばらく考えて。
……否、動かすのは、やめておこう。
このくまの……もでる、というのか、まぁ元になったぬいぐるみも動くのだ。
2体で動くと、どちらがどちらやら、ややこしくて仕方ないかもしれぬ。
自分のぬいぐるみ、などを手に入れたのは、初めての経験であるよ。
──有難う。
かわいらしいもふもふのくまを抱えて立ち去る着物姿。娘にプレゼントを買って帰る父親にしか見えないかもしれない…。
ぬいぐるみを一旦浴衣小屋へと座らせて。
再び祭り囃子を楽しみながら、ふと遠くに目をやると、サファイアの姿。
はだけた浴衣から白い四肢が艶かしく伸びる。
健康な男子ならば思わず喜んでしまう光景であるが、堅物な天野の事。
眉間に大きくシワを寄せてずかずかと大股で近づいて。
さふぁいあ殿!
浴衣を大きく着崩したままの彼女を、追い詰める。
さぁ、見つけたぞさふぁいあ殿、いざ尋常に。……勝負だ。
己(おれ)が勝ったならば、その胸元、しっかりとしまわせていただこう…!
さ、武器を構えるがいい。
何処に用意していたか、いつもの槍を手に。
天野:15P
あら、わざわざその為にきたの?
アンタだってこっちの方が役得でしょ?♡
ちらりと胸元を開けて
いいわよ、アタシが負けたら従ってあげる♡
強いものの言う事は聞いてあげるわ。
…勝ったらの話だけどね♡
何処から持ってきたのか剣を構えて。今日はボウガンではなく太腿に付けられた投げナイフだ!
サファイア 残HP:15P
珍しく剣を斜めに構えて真っ直ぐに天野に向かうサファイア。
その理由は…。
まずはアタシの浴衣よりアンタの心配をしたほうがいいわよ♡
脱がせるつもりらしい。
槍の間合いに入って傷付く事も全く気にない勢いだ。
肝心の浴衣に傷がつくんではないだろうか、もしくはそれを気にさせてのあえての突撃なのか。
ハイヒールで動きなれているからか下駄を履いてても動きは機敏で。
ただし突っかけている特性上、もしかしたらふとした躓きで動きが鈍くなるかもしれない。
若い男っていいわよねぇ♡
逃げて。
サファイア HP:15P
む…。
「捕食される」という状況には、屍人相手に晒され慣れた筈だったが、
全く意味するところの違うその「欲」に、少々怖気付いて。
突撃に半歩、引きつつ、槍の柄で迎え撃とうと。
……残念ながらそんな、に、若くは無い、のだが。
君の期待には添えぬと思うぞ。色々な意味で。
天野:15P
柄で剣を弾いて、そのまま返す刃で、今度は突きを。
……少々。怪我をする覚悟はあるという事で構わんな…?!
天野:15P
若干鈍くなった動きで剣は相手に届く前に弾かれる。
へぇ?
もしかして…弄られたクチ?
体を、頭を、心を。異世界でもどこでも、人を実験に弄る奴らはごまんといるのだ。彼女はそれを知っている。
年取らない系なのかしら?
あら、遠慮はいらないわよ。ヤるつもりできなさいな♡
サファイア:15P-1P=14P
………………。………。
……。
まぁそんなところだ。
明らかに説明が面倒になった風な。
では! 遠慮無く行かせて貰うぞ!
先程突き出した穂先をそのままぐるんと回転させて。
真っ直ぐな筈の槍の軌跡は竜巻の様に広範囲を巻き込もうとする!
天野:15P
ふうん、まあいいわ、年取ってても構わないもの。
搾り取っちゃえば一緒よ♡ アンタも搾り取られなさいな♡
節操がない!!
へえ、面白い動きね。
穂先に乗って乗り越えるのは得策ではないと
一度距離をとり、左足に仕込まれたナイフに手を伸ばして。
遠距離から攻撃をしようとする。
サファイア:14P
ただ突くだけでは、能が無い、……だろう?
柄が大きくしなり、轟と音を立てる刃の渦は、小さなナイフを弾き、
そのまま彼女の身体をも巻き込むだろうか。
どうした。年寄りを労ってくれておるのか?
距離が開いたのを幸いとばかりに、大きく踏み込み、勢い良く槍を突き出した。
天野:15P
そうね、がむしゃらに突くだけじゃ脳が無いわヨネ♡
おそらく違う「突く」である。
…やるわね「妖怪浴衣おいてけ」
「妖怪浴衣着ていけ」だ!
突き出された槍を除けようとするが…。
適正に着付けていない着物はどうやら彼女の動きを鈍くしているのだろうか。
もしくは先ほどまで状態異常にさせられた<液体>のせいだろうか。
ずるずると、襟と帯がずれてきている。
ちょっとぉ、浴衣に穴が空いちゃうじゃない。
着付けなおすんじゃないの?
サファイア:14P-3P=11P
お望みならば新しいものを用意してやる。
一突きからの引きは速く。そのまま上へ、下へと的を散らして三突き。
……反応してくれねば此方も攻める甲斐が無いぞ。
こちらも分かって言っている様な。軽口を叩きながら。
天野:15P
あらやさしい♡
…これ、邪魔ね。
袖から右腕を引き抜く。ぽろり、片乳が揺れた。本人は全く気にしていない!
剣を握りなおし、残ったナイフを左手に握る。
突きを剣で弾き、相手の間合いに入ろうと―
サファイア:11P
相手の間合いに入ってからの、左ナイフでの水平切り。
効果が低い。天野の浴衣を掠める程度に終わってしまう。
ち、脱がそうと思ってたのに♡
懲 り て な い
更に一歩、前へ、襟元に手を伸ばそうと―
(相手に1Pダメージ)
サファイア:11P
たわわに揺れるスイカ大(?)! 夏だ。
……あまり大安売りするでない。価値を下げるぞ。自分の。
少々げんなりした様な顔で。
伸ばされた手に、逆に大股で前へと進む。
半身になって、肩から体当たりをする動きだ。
天野:15-1=14P
伸ばされた手を弾き、そのまま彼女と背中合わせに。
振り向きながら、槍を大きくぶん回す
秘め事、と言うだろう。何事も、……隠されていた方が魅力的、であろう?
天野:14P
あら、意外に動じないのね。
それを多少狙っていたようだ。
やぁね、生まれたままの姿の、何が安売りなのかしら。
人間だって本能のままに、獣になるのよ?
それにね、アタシの価値を決めるのはアンタじゃない、アタシよ。
かわされた手が空を切って、背後を取られた事を察知するとしゃがんで槍を避けて足払いを。
うまくいけばブレイクダンスのように。
サファイア:11P
……っ、く。
相手の頭上を掠めるように槍が宙を切り、片膝を付く。
価値とは、世界に於いて。他人に依って決定付けられるものだ。
この世界の誰も、ひとりで生きられぬであろう? 現に、君とて。
槍の石突きを地面に突き立てるようにして、彼女の動きから一時、身を守るように。
「相手」を、求めているのではないのか。
天野:14P-5=9P
振りぬいた足を上空に。くるりと体勢を立て直す。
そうね、セックスは相手がいないと出来ないもの♡ ああ、一人でも出来なくはないわね(ピー)とか(ピー)とか
放送禁止用語のオンパレードだ。
奪う対象って意味なら求めてるわよぉ?あ・い・て♡
悪いわねぇ、他人に決定付けられてる生き方してたらアタシ死んでるの♡
共感できないわぁ♡
そのままそっくり返して上げるわよ、アンタだって他人を利用して生きてるんでしょ?
ぐん!と近づいて。もう一度、間合いの中へ。
サファイア:11P
その通りだ。
求め、奪い、利用し、……善きにせよ悪しきにせよ、
その輪の中から逃れることなど、出来ぬと、そう申しておるのだ。この世界に在る限り。
石突きを地面から、弾くように真上に打ち出す。
細かい石つぶてと共に槍の柄が跳ね上がって。狙うのは正中。
君に値札を貼るのは間違いなく。──君では無い。
天野:9P
ああ、そういうこと?
逃れられないなら奪い続けてやるわ。
何度敗れて踏みにじられてもね。
そう、アンタの言うとおりだったとして?
他人に貼られた値札でアタシの価値を決められることに何の意味があるのかしら。
値札ごと、壊してあげるのに♡
…随分拘るのねぇ。そんなものお構い無しだと思ってたわ♡
細かいつぶてが目に入る可能性もかまわずに。
身体能力の高い彼女なら正中に柄が来る前に弾くなり高く飛び上がるなりできそうだが―
(相手に2Pダメージ)
サファイア:11P
跳ね上がった石が、彼女の肉付きの良い足に細かい赤を散らす、が、
それを物ともせず伸びた脚が槍を弾いて。
繰り返し弧を描くナイフが少しづつ、確実にこちらの皮膚を裂いていく。
壊して、奪って、何も無くなればそれは死と同じ。…無意味だ。
至近距離の、苦手な距離を余儀なくされて、柄で押し返しながら。
己(おれ)は意味を見出し此処に居る。
──君の意味は、何だ。
天野:9-2=7P
なくならないわよ…、悪意はなくならないわ。
ふうん、聞こうじゃない、アンタの意味って何。
アタシの意味はね、快楽と痛み♡
言ったでしょ、アタシは死んでるようなものよ。
だったら意味も関係ないじゃない。
アンタの世界にいたゾンビと同じよ。
…殺してみる?アンタのにくーいゾンビと同じよ、ほらほら。
至近距離は彼女にとってダンスを踊るも同じ。
剣と柄が押し問答をするように。
ぎりぎりと、しのぎを削って。
サファイア:11P
己(おれ)の意味は、『人』を、生かすこと。
……君が其の様に死と同義の生き方をしているというのならば。
ガキン、と、激しい衝撃と共に相手を押しやり、武器を弾いて。
次の一撃は、どちらが先に動けるか。
確かに己(おれ)の倒すべき相手かもしれぬなっ! 君は!
天野:7P
価値を、決めるのだろう、君は自分で。
……では君を『人』たらしめるのは君自身だ…!
距離が思うように取れず、柄での攻撃であったが、
ある程度のダメージは与えられている筈、だが…。
突出してしまった獲物の、戻りに、必ずスキが生まれる。
すり足で横に動き、体勢を整えようと…。
(相手に6ダメージ)
天野:7P
みぞおちに柄が沈んで一瞬息が止まる。
少し引いて、つかえた息を吐き出して。
流石に呼吸器やられるとクるわねえ…。
ふうん、ご立派な事。
人を生かすために、人じゃないものを殺すのかしら。
ああいいわねえ、アタシも混ざりたいわぁ♡
そしたらアタシはどちらにつくのかしら♡あちら側だったらお手柔らかにねぇ?
そうよ、アタシが決めるのよ。「アタシ」であることを。ね♡
「人」であるかどうかはわからないわぁ、もう壊れてるから♡
せいぜい生かしてあげなさいな♡
引いた柄が再び突きを出す前に。
掴んでしまえばいい、二度と繰り出せないように。
サファイア:11P-6P=5P
悪いが、「あちら側」ならば。
歩幅は十分。溜めに溜めた突きを、回転と共に。
容赦は、せん。
天野:7P
繰り出される攻撃を半回転して半身をずらす。ぎりぎりの距離だ。
突きが彼女のたわわな胸をえぐって、鮮血が噴出す。それでも構わない、目的は―
左手が柄を掴んだ。
つかまえた♡
(相手に5Pダメージ)
サファイア:5P
武器の自由を奪われて。肉を斬らせる戦い方に、その笑顔にこちらも笑みを返す。
彼女の刃が脇腹を裂いてゆくその間、目を逸らさずに。
血は、出ない。
肉に食い込んだ感触がした筈の刃は、
引こうとすると金属に埋まったような抵抗を感じるだろう。
情熱的だな。
武器さえ無ければ抱き合っている様に見えるふたりの影の、
その一方が変化する。右手の袖から伸びるのは蔦の様な、しかし硬度を持った、刀の様な。
天野:7-5=2P
先の鋭いその刀を、押し付ける様に、そのまま前へと。
反撃宣言
天野:2P
感触で直ぐに分かる。
ぷちぷちと、肉の裂けるそれではない。
…なぁんだ、アンタも同じじゃない♡
にたり、嗤って。
彼の右手から伸びているナニカも気付いている。
だが、除ける事はしない。
むしろ喜ぶように。
彼女にも隠し武器はあるのだ。
爪が、硬度を増して赤く赤く伸びる。悪魔の爪のように。
反撃宣言
サファイア:5P
互いに、攻撃を避けようとしない。
自分の刀が血の赤で塗れて、それと同じ色が自分を切り裂こうと、貫こうと。
迫り来る爪にこちらも、にやりと。
そうか? 己(おれ)は、何処までも……人であるよ。
言葉とは裏腹に、めきめきと音を立てて、また新たな蔓が彼女を締め付けようと、伸びる。
(相手に2ダメージ)
天野:2P
そう…。アンタがそういうなら。
そうなんでしょうね♡
久しぶりの痛覚に自然と笑みが漏れる。
アハ♡そっちこそ情熱的じゃないの♡
ぎりぎりと締め付けられる、抱擁に恍惚の表情を浮かべて。
痛いのは、好き?
もう片方の手も、同じように変化を。
サファイア:3P
イラスト:かげつき
……痛いのは。
ぎりぎりと、締め付けを強くする。
相手が落ちるのが先か、自分の体が動かなくなるのが先か。
──好かぬよ。ふ、と。
いつもの顔で、笑った。
天野:2P
…そう。アタシは好きよ。
そうね、アンタの言葉を借りるなら
生きた心地がするわ♡
伸びた爪が、首筋に。
かっ切ろうか、貫いてやろうか、そんな力が残されているのかどうか。
サファイア:3P
…………お見事。
観念したように、目を閉じる。
妖艶な彼女が少しだけ無邪気に笑った。
…ねえ、アタシ着方一つの物言いでここまでされるの初めてなんだけど?
彼女の姿はボロボロの血まみれだ。
けろっとしてるようには見えるがそれなりのダメージを食らっている。
いや、全く……、少々熱くなってしまった。
それもこれも、君の魅力的な和装姿が見たいから、という事で許してくれたまえ。
相変わらず冗談なのか本気なのか分からない物言いで。
力を抜くのと同時に、今まで流れてなかった血がじわり、にじみ出して、
痛みに眉をしかめる。
さて、君の勝ちだ。……己(おれ)はどうすればいい。
伸びた爪をしまって、髪をかき上げる。
結った髪も乱れてしまった。
眼鏡のボウヤがいるでしょ、呼んできてよ。治療してもらいましょ。これじゃ動くに動けないわ。アンタもアタシもね。
高揚感に包まれながらも、後を追うような痛みに。
ああ、久しぶりに、生きていると感じる事ができたのだ。
口には出さずとも、喜びに満ちた顔だった。
ついでに見繕ってよ。浴衣。
ボロボロのまま、片乳を出したままで。彼女はそれでも気にしないのだが(気にしてくれ)
楽しい時間をくれた礼ぐらいは、してやってもいいとおもった。
アンタ、いい男だから着付けに付き合ってあげる♡ やるならしっかりやってよね?
赤坂殿は……何処にいるかな。探さねばならぬかもしれんぞ…。
取り敢えず、着付けの小屋へと戻ろう。己(おれ)は何とかもう少しなら、動ける。
何か『ちから』を使ったような。黄色い光が身体を包むと、のろのろと立ち上がって。
…君は歩けるか?
動けぬようなら両手で抱え上げて運んでいくだろう。
着付けは、任せろ。己(おれ)好みに仕上げてやる。
歩けるわよ、見くびらないで欲しいわ。
アタシはエスコートされるのは趣味じゃないのよ。
「ついでに体も拭かせて欲しいわね」そんなことをぼやきながら、二人小屋に向かっていったのだった。
祭を楽しんでいたところに、突然血まみれのふたりに呼び止められて、
赤坂はぶつぶつと文句をいいつつも治癒の魔法を。
苦言に、苦笑を返しつつ、さっさと身支度を整える。
奥で色々拭いているらしいサファイアさんを残して
幾人か、ちらほらと、浴衣を借りに来る人々の相手をして。
「ふぅ」
客が途切れて一息つくと、遠く聞こえる祭り囃子に耳を澄まして目を閉じた。
(そわそわ、と影から覗いている…。嬉しそうに浴衣貸出所を後にする人々を何人か、見送ってから、そーっと近付いて)
……天野、今晩 ハ
………(そわそわと、お面の中の目を、きょろきょろさせて、スッと、竹の皮に包んだおにぎりを 天野に差し出す)
イラスト:まふら〜と猫 さま
左から
・しゃけ と みそ の さんかくおにぎり
・たらこ の さんかくおにぎり
・わかめ と 梅干し のまんまるおにぎり
・たらこ のまんまるおにぎり
・ベシャアとなった こんぶ のたわらおにぎり
…のようだ
(受け取ってもいいし、受け取らなくてもいい。お腹が空いていなければ、包み直して後で食べてもいいだろう)
おお、あずび……ヴぃ……あず殿(あきらめた!)、
今晩は。……どうした?
差し出されたおにぎりに、その香りに、おなかが大きくぐぅと鳴る。
おお! 握り飯ではないか!
そういえば、此方にかかりきりで、汁物をいただいたきり、何も食べておらんかったな。……くれるのか?
といいつつ手はすでにおにぎりを受け取って開けようとしている!
(くれるのか?という問いにこくこく、頷き)
ドウゾ 全部、天野ニ
(おにぎりを渡した後、周りにある沢山の浴衣を興味深げに見て)
…仕事、人 沢山、疲レ テ、ナイ ?
(自分だったらあんなに沢山の人と接して、皆を笑顔にするのは無理…なんて考えながら)
……全部、だと? 良いのか。良いのだな。感謝する…!
仕事というか、まぁ好きな事をしておるだけだからな。趣味のようなものだ。
人と話をするのはあまり得意では無いのだが、……黙っていても味気無いかと思ってな。
──その点だけは、少々疲れた。
ふふ、そうか。 しかし、おかげで腹ぺこだ。早速いただくとしよう。
さて、と手を洗いに立ったところで、奥からすっきりとしたらしいサファイアが現れる。 相変わらずの恥じらいのない格好に、頭を痛くしながら肌着を放り投げて。
ん、あず殿、少し待っててくれ給えよ。 立ち上げると、手早く浴衣を着付けはじめる。
……苦労するな。その胸をしまうのは。着付けも大変だったらしい。
普段からあまり存在しない「女性に対する気遣い」の様なものは
サファイアさんの前では完全に影を潜めている。
ほら、あまりこう、挑発的に歩かずに、しとやかに、な。
──まぁ、あくまで己(おれ)好み、ではあるのだが。
普段の格好な…。まぁ勿論好きな格好をするのは良いのだが。
あれでは……良い男ほど、逃げて行かぬか?
自分の価値、というものはそういう事だ。
君がそういう振る舞いを、すればするほど、周りには「そういう」人間が集まってくる。
自分の生き方が、周囲を、人生を、変えるのだ。
自分はこうである、と、決めてしまっては。何も変わらぬよ。
たまには、別の格好をしてみたりして。……別の生き方にも目を向けてくれ。
すまん、年寄りの、説教みたいなものだ。
手合わせも、楽しかったよ。
……邪魔をしたな。じっくり、楽しんでくれたまえよ。
……それでも、側にいる人間の事。忘れるなよ。 裏切ってもいい。──忘れるな。
ジ、自分モ、気ニ シナイ、デ 自分、木……
(すぅ…と、触れられて。思わずひょっ、と猫肌?が立った。アルバが居れば、思わず後ろに隠れてしまったかもしれない…)
マ、マタネ…(どぎまぎしながら、見送る)
ふぅ。お待たせ、だ。
サファイアを見送った後、いそいそと手を洗い、握り飯の前へと。
……本当に全部良いのか。良いのだな。感謝する…! いただきます!
しっかりと手を合わせて。
大きな口を開けて、おにぎりにかぶりつく。
…ん! しゃけと…これは味噌か! 美味いな…!
共に日本の心を代表する具材であるよなぁ。この組み合わせは初めて食ったが。
うむ、互いに相性の良いものばかりで、美味くない筈がないな!
こちらは…たらこだ! ふふ、久し振りだなぁ。
此方は何かな。梅干しまで! おお、わかめと共に。
大変嬉しいのか、饒舌になっている。
端っこのつぶれたおにぎりを見て
……ん、これは、……手作りの品か。
このつぶれ具合、プロである酒場のマスターが作ったのではなさそうだ。
…コルトリエさんの料理の腕は……風のうわさか何かで耳にした気がする。たいへんびみょうのおあじの食事が出てくるらしい…。おそらく違うだろう。セトレットさんも、まぁ無い気がする。(なんでだよー、と怒るセトレットの姿が目に見えるようだが。)
顔を上げて、目の前のアズさんを見る。
──君、が?
(君、が?と問われ、少しばかり、びくっとして)
ソ、ソウ… おにぎり、自分、作ッタ 全部…
………ソレ、ハ…失敗、シタ ……食べ、ナイ?
(嫌だったら食べなくてもいいよ?と言うかのように、顔色をうかがう)
全部か! それはすごいな。
己(おれ)は、最近やっと飯炊きと握り飯が何とか出来るようになったというのに。
……失敗? あぁ、形が、か。
構わんよ、美味いのに変わりあるまい。
竹の皮を持ち上げて、零れないように慎重に手に取ってもぐもぐと。
お、こんぶだ。
にこにこと、嬉しそうに口に入れる。
……己(おれ)のな、一番好きな具だぞ。
梅干しとも甲乙付け難くはあるのだが。などといいながら、美味しそうに平らげた。
己(おれ)は、不器用だぞ…。包丁を持つと、周りの人間が総出で止めに来るくらいだった。
……最近は、少しはマシになった、……と思いたい。
料理は出来ると、いざという時困らんから、教えてくれる人が側にいるなら覚えておくといい。あそこのますたーは、きっと色々教えてくれるだろう。
そういえば、あず殿も、今回出店をやっているのだろう? 君も皆を喜ばせているではないか。
冒険でも先頭に立って戦って、立派だ。
何よりもな。この握り飯、大変、嬉しい。有難う。
普段はあまり見ることのない行儀の悪さで、手についた米粒を舐めとったりしている。
ひとつぶ残さずいただくと、丁寧に手を合わせて。
……ご馳走様でした!
ソウ、出店…ますたー ノ、手伝イ 海鮮
…(褒め言葉やお礼に、こくこくこくと頷き。無言なのは照れているからかもしれない)
オ粗末 (形の悪いおにぎりすら綺麗に食べて貰え、嬉しそうに尻尾を揺らし)
ほう、君の店は海鮮か! それは是非、お邪魔させて頂こう。
ふぅ。
……少しこちらも落ち着いたようだし、……もう少し何か食べたい気分だな。
あず殿はもう、色々回ったのか? ちょっと案内、してくれぬか。
食い物屋以外でも構わん。まだほとんど店を見て回って無いのだよ。
回リ…? 自分、くれーぷ、オ面、猫焼キ、ぽっぷこ 行ッタ
(どのお店を案内しようか、しばし小首を傾けて考え)
くれーぷ、ハ つな、美味シ、カッタ …行ク ?
…アト、アト…金魚…
(天野の浴衣の袖辺りをちょんっと引っ張って、お誘いしようと)
ぽっぷこ か。ふむ、それも良い。
ぽっぷこ。可愛らしさに、ときめくが、顔には出ない。
うーーーむ、目移りするな。まず、君のお勧めのくれーぷ屋に行くか。
その後……金魚もあるのか。金魚…すくい、だよな? この祭りなら、金魚焼きとかあっても驚かない。
では金魚すくいも、一緒にな。
人が多くて、はぐれそうだな。あず殿、宜しければ、手を。
つなごう、と、右手を差し出す。
*・゜゜・*:.。..。.:*・゜。
しばらく留守にする、
という旨の書き置きを残し、アズヴィスさんと共に外へと出かけて行くようだ。
*・゜゜・*:.。..。.:*・゜。