貴方の望みを歌に乗せて
第四期:過去から重ねたもの
クランかげつきの拠点から。……あるいは酒場で、あるいは街角にて。
吟遊詩人の奏でるリュートの音がする。この音色は赤毛の彼、テルプ・シコラの魔法の歌声。
ただ、いつも、楽しい歌を好む彼の音とは少しだけ違うような。
優しくて、少し切ないそのメロディーに、貴方は何を、見るのでしょう。
*・゜゜・*:.。..。.:*・゜
貴方は夢の中で
【貴方自身の本当の望み】に出会います。
貴方の望みは何でしょう。
富、名誉? それとも愛? あの時果たせなかった約束を果たすこと?
あるいはほんのささやかな、ちいさな夢なのかもしれませんね。
魔法の歌が見せた白昼夢は、あなたを幸せに、するでしょうか。
*・゜゜・*:.。..。.:*・゜
術の主であるテルプが歌う歌はあなたを幸せにするためのもの。
あなたの心のなかに秘めた望みを、あるいは大きな声で叫ぶ願いを、
せめて夢の中でだけ、でも、叶えることが出来る歌。
音楽を聞いた貴方はその夜、夢を見るでしょう。
その夢の断片はおぼろげに、吟遊詩人にも響くかもしれません。
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・キャラクターの強い望みが夢の中で実現します
・夢である、という事を認識しててもしてなくてもOK
・直接的なR-18表現は、こちらの掲示板では控えてくれたまえ!
・交流板では無いのでキャラ同士の直接の絡みは無いですが、あなたの見た夢をテルプはなんとなく同じ様に見て、何かを心に残すかもしれません。
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───あの街だ。
昨日の隣人が今日は動く屍と化して牙を剥く。
残った人間同士で食糧を奪い合い、争い合い。
それでも苦楽をともに、生き抜き、心許せる友人が居た、あの街だ。
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天野輝樹の見た夢
風は凪いでいた。
いつもの喧騒は遠く、銃声も聞こえない。
ふたりで歩く足音が、さくさくと。ぽつりぽつりと思い出話をしながら。
ヘリポートが見えてきた辺りで、あぁ、あの日だなと思い至った。
己がこの屍人の世界を離れる時だ。
準備が出来ているというヘリの音の代わりに、何処かから歌が聞こえる。
懐かしい歌に、少し似ているが、これは…。
これはてるぷ殿の、歌声だ。────ああ、成程。夢か。
遠くこの世界から離れて、思い出の日は遥か遠くて、
しかし寸分たがわず思い出せる、この光景を目の前にして。
友人はあの日と同じ様に笑う。柔らかく笑って、己の門出を祝福するのだ。
そう、確かあの日はヘリの音が煩くて、彼の声が聞こえにくかったのだった。
この夢の中では優しい声は何者に邪魔されることもなく己の耳へと届き。
……そうか、夢だ。これはてるぷ殿の魔法のうた。
己の望む通りに、あの日が、繰り返されているのだな、と、自然に理解した。
己の望み通りに、彼の祝福の言葉を聞いた、あの日。
「いつかもう一度会える日まで、俺の名の加護がありますように」
笑っていた。ふたりとも笑っていた。あの日と同じ。
それを望んだのだ、ふたりとも。
だけど君よ、己は往くのだ。君の心を裏切るために、進むのだ。友よ。
君への懺悔の言葉が頭をよぎる。しかし。
「有難う。」
それでも笑っていることを選んだ。望んだ。あの日も、現在も。
「──何処までも、行ける。」
君に背を向けて進むことを望んだのだ。
「ありがとう。」
あの日、例えば、君の声が己を引き留めたなら、恐らく己の足は鈍っていたのだろう。
彼は最後まで笑顔だった。今日の彼も笑顔のままで。
「幸」の名を持つ彼に背を向けて、振り向かず進む自分もあの日と同じで。
振り向けば頬に流れる涙を見られてしまう。
きっと君の、笑顔以外の顔を、最後に見てしまうから。
そうだ、望んだまま、己の選んだままに進んだ道だ。
彼に祝福された道なのだ。後悔など、ありはしない。
今日の、……己の望みのままとなるこの夢が、
あの日と変わらぬままであることが何よりも嬉しくて。
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歪む視界に見慣れた天井が映る。
夢の中と同じ様にぼろぼろと零れる涙に、苦笑して身体を起こす。
「いつかもう一度会える日まで」
ああ、それはきっと永遠に己を祝福する魔法。
往く道に彼の加護があるかぎり。 天野輝樹は、幸福でありつづけるのである。
イラスト:かげつき
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「友人」と、歩く。ここは…、どこだったっけ。街だ。どこかの。
コツコツと、石畳の音。靴の音。俺の、靴の音だ。
隣に居るのは誰だっただろう。思い出せない。
全部忘れてしまった俺は、悲しいという事も忘れてしまったけれど、
忘れられた友人の方はどうだっただろう。
(そもそも俺に友人がいたのかどうかは分からない。これもただの幻なのでは。)
言い争っている。声を荒げて。
ああそうだ、悲しくて。悲しくて、忘れたのだった。多分。
忘れたはずなのに、こうして夢に見ると、その時の気持ちだけが蘇ってくる。
──大丈夫、目が覚めたら、忘れるよ。
俺は楽しい歌が、好きなんだから。
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「よく出来たわね、アルトスク」
「よくやったな、アルトスク」
久しく聞かない名前。久しく聞いてない声。
そして、現実では一度たりとも聞いたことのない言葉に、
……貰い物じゃない僕の名を呼ぶ眼の前のふたりに
夢の中の僕はおどおどと、微笑んだ。
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赤坂天矢の見た夢
父と母の強力な黒魔法。
その能力を一切受け継がなかった僕は、
贔屓目に見ても両親に愛されているとは言い難かった、気がする。
心底うんざりしたような、吐き捨てるような二人の声音を
今でもよく覚えているのだけれど。
夢の中の彼らは……兄達に向けるのと同じ笑顔で僕を見るのだ。
これが、望んでいる事、だって?
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音楽がそれを肯定する。
この夢は君の望みを映すもの。
目覚めれば消えてしまう不確かな幻だけれど、
君はその幻に、何を思うの?
夢の中の僕もそれを、肯定する。
両親の優しい声が信じられないという風に、嬉しそうに。
自分のちからに驚いたように。微笑んだ。
そんな僕の、足元には、魔物の血だまりが出来ていた。
成程と、僕は思う。
そうか成程、僕が戦いを厭うのは、そのための力が無いからで。
その力によって褒められることが無かったから、であって。
そうか。仮に力を持ったならば、……僕というのはそういう人間なのだ。
望みなら、他にもあるはずだった。
例えば僕にこの名をくれた友人を助けることだって。
あの時僕が彼女を庇うことが出来ていたならば。
……学園全体の暴走を止めることは出来ないまでも、
それでも何か変わった筈だったのだ。
例えば死にゆく彼女の心の孤独を、少しでも癒せたのかもしれない。
そんな小さな、……だけど彼女にとっては至極重要な。
それこそ彼女の人生の意味全てが変わるほどに
大きなものだったに違いない事。
だけど、成程。僕はそれよりも、ほんの些末な。
僕自身の満足を、優先するのだなと。
僕というのはそういう、人間なのだ。──知っていた。
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目覚めた僕の、鏡の中の冴えない顔に酷く苛立って、
それを殴りつけたい衝動に駆られた、のだけれど。
恐らく手が痛いだろうとか、片付けが面倒だろうとか。
──そういう人間なのだと。
思い知らされただけの。そんな夢を見たのだ。
イラスト:かげつき
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とーちゃんの記憶はあまり無い。
幼い、遠い昔。覚えているような気がしている事も、
かーちゃんの話しているとーちゃんをもとにして
俺が勝手に頭のなかで描いている幻なのかもしれない。
俺に似ていて、優しくて、よく笑う人だったらしい。
かーちゃんの為に村を出て、そして居なくなっちゃったんだって。
きっと生きているとかーちゃんが願うから、俺もそういう事にする。
嘘だって、信じれば本当になる。俺はそれを、知っている。
そしてそんな幻でしか知らないとーちゃんと
かーちゃんと3人で食事をしていたのだった。
クロキビを練って焼いたぺらぺらのパンの様なものを分けて食べた。
かーちゃんはにこにこと笑っていて。恐らく顔の見えないとーちゃんも笑っていて。
俺もとても嬉しかった、そんな、夢だった。
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玄関のかぼちゃがころりんと転がる。
どうやら眠っているらしい?
見る夢はそれはそれは幸せな、愛する人と子供たちと部屋とYシャツとわたしと犬。みたいな。そんな。
\アナター/ \パパー/
??の見た夢
\パパー/ \アナター/ \パパー/
\パパー/ \パパー/
\パパー/ \パパー/
\パパー/ \アナター/ \パパー/
子だくさん
玄関のかぼちゃがころりんこ、と床に落ちたのを、 首をかしげて元の位置に戻している。 ……かぼちゃは果たして起きているのか、眠っているのか。 かげつきのクランの象徴として、これからも、 いつもの場所で来客を迎え続けるのであった。
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イラスト:かげつき
「おめでとうございます! 元気な赤ちゃんが生まれましたよ!」
待ち望んだ声に扉を開けると、そこにはベッドに横になった恋人の姿が。
……いや、今は、妻だ。妻の姿が、疲れたように、誇らしげに。
「お疲れ様、……ノチェ」
ねぎらいの言葉をかけて、子供の姿を探す。
「テルプ…、げ、げんきな、男の子…」
大きな声で泣く赤子をアノチェから受け取って。
か弱く小さな生命を抱く手が、震える。
「あ、あとね…、げんきな、女の子と…」
「へ?」
アノチェがもうひとり、赤ん坊を俺に手渡して。
「そ、それから、げんきなおとこのこと、あ、あと、げんきなおんなのこ…」
「ちょ、ちょっとまってアノチェ…! そんなにいっぺんに抱けないって!」
ソコじゃない、と、ツッコミを自分自身にした瞬間に目が覚めた。
──多分この間ローラとバラクを見たせいだな…。と、大きく息を吐いて。
夢を、思い出して。しばらくひとりでにやにやと、笑っていたのだった。
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「他の誰かより…
…その、君が…
…なんだ
男でも…女でもなく…」
困惑する僕に、青い瞳の騎士は照れて困ったように笑う。
何よりも歌う事を大事にしたかった僕は、その好意に応えられなかった。
気付かない振りして逃げた結果、彼は居なくなってしまった。
皆をだまし続けて、酷い人間だと思う。
それでも歌を取りたかった。
歌い続けたかった。
この道が自分の道だと。それしかないと。
ローラの見た夢
…歌が聞こえる。男の人の歌だ。
その先に自分の性を偽っていない、私が居る。
朗々と歌い上げる「私」に誰かが寄り添っていて。
ああ…そちらの「私」は本当に幸せなんだね…。
優しい騎士の手が差し伸べられる。
その手を取ったなら、何か変われただろうかと思う。
でも…。
「ご、ごめんね、私は…君の気持ちを踏みにじった。
許される…ことじゃない。でも…わ、私は…進むって…決めたから…行くよ…」
あちらの「私」は「私」じゃない。
私の道は、私が選ぶしかない。
流れる旋律と歌声が「道はひとつじゃないと語りかける」
この先どんな形になっても、私は歌い続けるだろう。
「何処までも付き合うよ、アノチェ」
双子の片割れが、力強く微笑んでくれた。
今は、それだけで…。
夢から醒めて、身支度を整えて…。
丁度かち合った片割れに、僕は笑いかけた。
イラスト:かげつき
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異世界のアノチェ。という存在に出会ったせいだろうか。
俺は何処か知らない国に……知らない、世界にいる夢を見た。
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恐らく戦争の痕なのだろう。
兵士と見られる物々しい装備の人達が沢山倒れていた。
ハゲワシが死体を突く、砂の荒野に響くのは沈鬱な鎮魂歌ではなく、
場にそぐわぬ明るく楽しい音楽で。
黒く汚らしい羽が舞い散る中で、『俺』が、歌ってる。
その光景を歓迎するように、楽しむ様に。
「いーんだよ」
『俺』が口にする。俺の口癖だった、俺の言葉を。
「だって、あいつらだって、俺たちを」
面白そうに笑う、その笑みは。
何だか全てを嫌っている様で。
誰かの幸も、不幸も、自分の幸せさえも踏みつけるようなそんな憎々しげなもので、
何だか酷く乾いているように、感じた。
──ああ、俺とは違う。
俺たちは彼女らの様に同一の存在であるとは言えない。
他人の様な自分自身の中で、…だけど何処かで俺自身も、『俺』と同じ想いを抱いたような。
彼のその笑いが、自然に、本当に自然に俺の仮面に張り付いている。
一方の、この世界の『俺』の方も、俺を認識したらしく。
楽しくて、幸せで、世界が大好きな俺の事を、
ふぅん、とでも言いたげな冷たい目で一瞥すると、ただ、笑ったのだった。
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あの『俺』と、彼女が出会ったなら、どんな話をするのだろうな、と。
目覚めた俺はぼんやりと、天井を眺めていた。長い間。
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葬列が行く
カーニバルの見た夢
灰色の道の上、棺を墓地へと運ぶ人々が波の様に揺らめいている。
啜り泣きと慰めの水声の底に音楽が聞こえた。
男の声で語られる優しく切ない歌だ。
親族達の囲いを拔けて棺を覗き込むと、皺だらけの老いた顔に化粧を施した恋人がいる。
装いはこの日のために誂えた白いドレスだ。
とても綺麗だ、と声を掛けても恋人が応える事はない。
紅をさした頬に触れても身動ぎもなく、愛の囁きに笑い返す事もない。
額に口付けて問う、オレは君を満たす事が出来ただろうか。
恋人はぱっちりと目を開けてウィンクした。
それでオレも満たされる
…… ……
目が醒めて向かった場所は夢に見た恋人の所だ。
七十八歳の恋人は寝台の上にいる。
促されて座る席にはペンと紙が置かれていた。
恋人は訴える。
親族の誰に連絡入れるなとかたとえ来ても追い返せと、
また他の誰は迎えても良いが遺産は渡すなと、随分と元気な様子だ。
その興奮を宥めながらも視力が衰えた恋人に代わってペンを取る。
紙面に書く文字は訃報を送る相手の名前だ。
いつの日か来るだろう恋人の葬式が望んだ通りの形で行われるように、書き付ける。
イラスト:かげつき
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炎の中に、黒い人影が列を成して、少しづつ遠ざかっていく。
周りはすべて赤く燃え、自分もまた炎に包まれているのに、熱さは感じない。
大地へと還ろうとするその葬列を、俺の歌が引き止めた。
焼かれ続ける黒い影は、苦しそうに、蠢くように。叫びとも呻きともつかぬ声を漏らす。
この場所に誰もいなくなったら、神様が寂しがるだろう?
そんな理由はおそらくそれすら嘘で。
本当はそこに誰かがいてくれないと、自分が寂しかっただけで。
遠ざかろうとする彼らをそこに縛り付けた。
逆光で、誰の表情も見えない。
ひとりが、振り向き……、自分へと何か言葉を投げかける。
轟々と炎の音で邪魔される。おそらく自分への、呪いの言葉。
何度も夢に見て、何度も、それが嘘であることを思い知らされて。
だけどそれだけは、幾つ嘘を重ねても、守りたかった、あの言葉だ。
あなたの笑顔が、大好き。
あなたの歌は皆をしあわせにするうたなのよ
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「そうだよ、俺の歌は」
目覚めた俺の耳に残る呪いの祝福の言葉。
鈴の音が塗り替えた心地よい優しい言葉。
それでまた俺は、笑顔で歌えるのだ。
彼女が好きだと行ってくれた楽しい歌を。
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レヴィアの見た夢
二人は何気ない会話やままごと、人形遊びなど、
何一つ特別な事の無いことをしているだけで ありきたりで平凡な平和な日常風景だ。
それでも……否『それでこそ幸せだったのだろう』
だが永遠とその風景のみが繰り返させるだけ 先に進むことはない。──進みようがなかった。
その幸せも叶わぬものと理解してしまえば、すぎたるは及ばざるが如し……
突然 片方の少女が倒れ、
”もう一人の少女”は彼女の身代わりに他者の首を落とし悪魔に売った。
少女は息を吹き返すも、事実を知るに嘆き自らを責めたて続け、
終いには助かった命を絶ってしまった。
巻き戻る……少女が倒れたところまで。
”少女”はただ彼女を案ずるだけ。
無論その少女は間もなく息絶えた……
巻き戻る…… 巻き戻る…… 巻き戻る……
違う…… 一面が赤で埋め尽くされ巻き戻っているのかすらも もう分からない。
”かつての少女”は戦いの中で全てを忘れていた
イラスト:かげつき
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悲しい色の欠片が積まれていたので、それらを全部捨てて幸せな色の欠片を並べた。
散らばった悲しみは、きらきらと輝きながら落ちていった。
そこに積まれた幸せ色は、いつの間にか色褪せて見えて、俺はそれも捨てた。
きらきら、落ちていく。
別の色の欠片を積んでみたら、それは上から降ってきた悲しい色に染められて。
それもまた崩した。きらきら。
どんどん高くなっていく皆の塔に、追いつきたくて、
なんとかでっち上げた嘘ばかりのはりぼてで、
てっぺんには、何とかよく見える色を塗りたくって。
ね、きれいでしょ?
それが全部嘘だってこと、俺はしっているけれど、
なんとかでっち上げた俺の塔は、それでもそのてっぺんで、てっぺんから。
きらきら輝くみんなの塔を、見たんだ。
蒼く暗い空間に、無数の塔が立ち並んでいる。
たくさん、たくさん、悲しい色もいっぱい積まれたみんなの塔は
まるで大切な幸せを彩るように、きれいで。
俺の塔なんて哀れに思えるくらい、きれいで。
それでもなんとかここまで登ってきて、よかったなって、思ったんだよ。
きれいなもの、見れて、よかった。
不格好な塔の、上で、笑った。そんな夢だった。