それは世界への裏切りだ
第四期:巡る季節に終わりが見えて
天野輝樹は世界に背を向ける。
家族との決別の後。
このクランが僕の居場所であるのかもしれない。そう思ったのだけれど……。
テルプさんは新居へと。
今頃はアノチェセルさんと思う存分、いちゃついていることだろう。
天野さんはこのところ頻繁に出掛けるようになって
……もう一週間は姿を見ていない気がするな。
天野さん。天野さーーん?
いないんですか?
今朝早くに出掛けたきり……、今日も帰ってこないのだろうか。
何だか寂しさを覚えて、とりあえず珈琲を淹れて。
机の上に無造作に置かれた紙束に目を通す。
……いつもの、手紙。時折目にする「何者か」とのやりとりだ。
いつもいつも、こんな風に目につく場所に置いてあるのが悪いんだ、と。
少し変われたはずの僕は、相変わらず責任を他人に押し付けながら。
上位の存在、と、天野さんが称するものからの。
荒唐無稽に見えるこの手紙は、……それでもいつも真実を伝えていた。
この「何者か」は、明らかに、僕達とは違う視点を持っている。
僕達「巡りを認識出来る人間」が、町の人々とは違う視点を持つ様に。
今回の内容は、天命喰らいによるものではない【世界の終わり】について。
そして、【最後の仕事】について。
…………な、ん。
珈琲が冷めるのも構わず、読みふける。
そのせいで、彼が戻ってきているのに、気が付かず。
──赤坂殿。
赤坂が手にした自分宛ての手紙を、返すように、と、手をさしだしている。
──天野さん。
驚いて大きく身じろぎするが、努めて冷静に。
手紙、すみません。読ませていただきました。
最近よく家を空けてらっしゃいましたが、…これの、準備と言う訳ですか?
無表情に手紙を揃えて片付けようとする天野さんを、手で制す。
──噂に聞いた程度なんですけど…。
嘘。これも、以前広げて置いてあった天野さんへの手紙に書いてあったことだ。
天命喰らいによる世界の終わり、それを避けるために、セフィドが島をひとつ、シェルターにしているという噂がありまして。それに、何故か天野さんが関わっていると。
何故うちの本拠地がいつもセフィドなのか、疑問に思っていたんです。
あなたはこの幾度の巡りの間に、この国の偉い人にパイプを繋いで…
準備、してたんだ。この、最後の、時に向けて。
セフィドの人々にも、国王であるヘリオス王にも、冒険者仲間にも…、
僕たちにも、何一つ真実を告げずに。
うむ、最近冒険が疎かになり、ぎるどには申し訳ないと思っていたところだ。
これから、ここを離れねばならぬから…
……てるぷ殿の、晴れの姿を見られた後で、よかった。
離れねば、の言葉の通り、赤坂の横を通り過ぎると、手早く荷造りを、始める。
……否定、しないんですね。
絶望を交えた無表情で、うつむいて。
ギリ、と、歯が軋んだ。
……ねぇ! 天野さんは!
自分が何をしようとしているのか分かってるんですか?!
これは…
これはこの世界への!
ここに生きる全ての人への裏切りです!
……で、赤坂殿。実家は、どうだった?
涼しい顔で、目の前の男の剣幕など意に介さぬ風に。
その態度に眉間の皺を深める赤坂に向かい、笑みを。深く。
イラスト:かげつき
──どうだ? 赤坂。
決別、して来たのではないのか?
右手を、差し出して。
己(おれ)と共に、……来い。
------------------------------------------ → 第5期へ続く