白狼の来訪
第ニ期:世界の異変


ある日、目覚めると街の様子がおかしい。
いや、街どころか、【世界】の様子が。
先月閉店したはずの店がまだ営業していたり、
先日亡くなったばかりの近所のおじいさんがピンピンしていたり
……元気に歩きはじめていた筈の子供が、乳飲み子に戻っていたり。

天野さんが言うには。
【時間が巻き戻された】そうだ。
──何だろう。この世界は。
転生とか。巻き戻しとか。何度も繰り返させられる、その意味ってなんなんだろう。
一体「僕達」に、何をさせたいんだ。

街の人々は、この不自然さに気が付いていないようだ。
僕達と、……冒険者の一部の人間が、巻き戻る前の記憶を持っている。
それどころか「今の時点」では持っていなかった筈のアイテムを……
本来ならばもっと未来に手に入れた筈のものを、この手に持っている事すらあった。
記憶の残り方も人によってまちまちで。
一部の記憶を失くす人、記憶は持っているが「巻き戻し」そのものには気付いてない人、など
同じクランの中でも、その記憶には大きく差がある場合が、あるらしい。
幸い僕らのクランは皆、総じて共通した記憶を持っていた。
──仮にふたりが記憶を失くしてしまい、この時間の流れの不自然さを相談出来る人が誰ひとりいなかったら……、
そんな事を考えると、本当に恐ろしい。

君達は、神に近い目線を持っているのだよ。
……そこらの無貌の民とは違う。

天野さんの言う事は、僕にはよく分からない。

とりあえず、街の様子を、見てきます…。
言い知れぬ不気味さを感じながら、
それでもとりあえず。情報を集めないと。
そう思って扉を開けると、そこには

あ…
えーっと、いらっしゃい?
何だろう、もふもふの知り合いは少なかったと思うんだけど、何か、何処かで見たような。知ってる様な。
思わず、マジマジと顔を眺めてしまう

(急に出てきた顔見知りに驚き、耳をぴん、とたて)
・・・
(声を発することができずにそのまま立ち尽くす。どうするべきか。
礼の品でも置いて帰ろうか、それとも何か、アクションすべきか。)

不躾な視線のまま、顔から、目線を下に移し。
──この、格好。よく共に冒険に出掛けた、あの人の。
再び見上げたその表情は何か言いたげな、困ったような
……ビリーさん?
思い当たったその人の名を、小さく呟いた。

(刺さる視線に戸惑いつつも、ぽつりと聞こえた自分の名前に尻尾が揺れる。
同意の言葉を述べたいところだが。声は出ない。)
・・・、
(何かを思い出したのか再度耳を立て、
ズボンのポケットにねじ込んでいた紙とペンを取り出す)
"久しぶりだな”

……えっと。
い、イメチェンですか?
(馬鹿な言葉しか出てこない。
ぴこぴこ動く耳を触りたい。もふりたい。
いや、落ち着け、僕。)
──と、とりあえず、よろしければ、奥、どうぞ。
(部屋の奥へと促して、いまだ混乱した頭で。……ああ、この口の形では、コーヒカップじゃ飲みにくいだろうか、などと考えていた)
-------------

(紙とペンを用意した)
珈琲は…カップで大丈夫です?
底の浅いほうがいいのかな…。
(ごそごそと戸棚を物色しながら)

(ふと思い出したように)
そういえば、ビリーさん、昔も一時期、皆さんの前から行方をくらます…というか…失踪されてた事があるってお聞きしてましたね。
冒険の時だったか、あちらのクランに行った時だったろうか。…暫く、チェイネルさんや仲間の前から、姿を消していた時期があったと、
そんな話を聞いたのだった。
その時は、「身体の調子が原因で」って、おっしゃってましたっけ。
可愛い恋人を泣かせて悪い人だ、なんて、その時には笑っていられたのだけれど。
すっかり変わってしまった彼の外見を見やる。魔物、とも見紛うような。
身体の調子の変化。姿を消す、……消さなければいけない理由。
──こういう、事なんです?

"失踪のことは、そうだな。同じような理由だ"
(一通り書き終えると、赤坂の瞳をちらりと見た。
・・・この少年は、ちゃんと自分の話を聞いてくれるようだ、と、
安心したかのように静かに息をつく。)

どういう、状況になってるんです?
……チェイネルさんやお子さんには、心配かけるような事になってません?
もし帰れない理由があるならば……、何か、皆に伝言とかあれば、協力出来ますよ。
(そっと熱い珈琲の注がれたカップをビリーの前に置き)
すみません、大変な事情が、あるみたいなのに、僕。
からかうような事を。
(奥さんに心配かけて悪い人、などと揶揄した自分の言葉を思い出し、俯いた)

(―――どういう状況なのか。 という問いに、首を傾けて思考する。)
・・・
(正直、自分の正体を他者・・・妻以外に明かすのは、初めてだ。
今まで顔を見ただけで魔物と判断されて、
対話することも無しに矛を向けられたことが幾度あったか。
ああいや、関係ない事を考えるのは止めだ。)
"昔、精霊と契約を交わしたんだ。
俺の命を繋ぎ止める代わりに、精霊を護る獣の役割を果たせ、という物でな"
"妻は知っている。けれど、子供には秘密にしている"
(一旦手を止めたところで出された珈琲に気付き、
耳をぴこん、と ひと跳ねさせた)

ああ、どうぞ。飲みにくかったらカップは変えますよ。
今日の豆は、海の向こうから取り寄せたものなんですって。
何ていう国だったかな。ワイルドな、ガツンとくる感じの味で…。
(いや、今は豆の話をしている場合じゃない、と途中で言葉を切る)
お子さんにも、内緒、にしなきゃいけない…ですか。
(秘密で失踪せねばならぬ状況、を、思い浮かべる)
そちらの方では、なんていうか。
そういう、姿では、住人からの風当たりとかキツいのですか?……
いえ、僕の故郷の方は、そういう、…人と違うモノに対してすごく敏感で。
(極力言葉を選ぼうと、思案しつつ)
狩り、と、称される、ひどい、暴動や、私刑みたいなものがあったりとか。
…そんな感じだったので。

(カップの形状は特に問題ないようだ、
軽く会釈をしてカップを持ち、珈琲をすすり始めた。)
ズズズ・・・
(親指を立てている。気に入ったようだ)
"俺は後天的なものとはいえ『純粋なヒト』とは呼べない。
傍から見れば『狼男』だ、親が狼男だと広まれば・・・"
(赤坂の言葉に頷き)
"そうだな、お前さんの故郷と似ているかもしれない"

(苦い表情で唇を噛む)
そういうの、変えるの、難しいのはよく知ってるんですけど…
追いやられても、それでも、あなたが「狩られずに」ここに居てくれているというのは
……せめて生きていてくれた事は、喜ばしいと幸運に思えば良いのでしょうかね…。
この先、というか、これから、どうされるんです?
以前の失踪の時もこの姿になって、その後戻ってらっしゃったと言う事は、
…姿を戻す、アテがあるって言う事なんでしょうか。

"まあ、やれ殺せだ 討伐だ、なんていうのはある宗教団体の過激派くらいだ。問題ない"
(心配をかけたな、と、申し訳なさそうに俯く)
"行かなきゃならない所はある。いつ家族の下に戻れるかは"
(もし奴らが、故郷だけでなくこの都市にも拠点を置いていたら?
・・・赤坂たちにも、庇った、匿っただの言いがかりをつけて危害を加えるのではないか・・・?)
(考えたくない最悪の事態が頭をよぎる。そこで手は止まってしまって・・・。)

──そうですか…。
ああ、じゃあ、時々僕が、ご家族のところに
…せめて安否くらいはお知らせ出来るといいかも…。
何か協力出来ることがあれば、おっしゃってください。
うちのクラン員は…正直、ちょっと、ズレたところありますけど、
しっかり口も固いですし、こういう時は結構頼りになるんですよ。
──うん。僕、なんかより、ずっと。頼りに。
…というか。
僕がもともと居た場所は、「そういうところ」で。
……だから僕があなたに協力したいとか、そんな資格ないのかも、しれなくて。
(最後の方は消え入るような声で)

(赤坂の協力的な言葉に目を細めるも、
相変わらずの 卑屈っぷり がおかしくて鼻が鳴る)
"―ありがとう。なら、その言葉に甘えて。数ヶ月に一度・・・、家族に、俺の手紙を渡してくれないか。電話を使えたら一番なんだが"
(ぐるる、と喉を鳴らせて)
"あいにく こんな喉だしな"
"『そういうところ』・・・魔術師、とか、そういった類か?"

──えっと、そうですね。魔術師の、学校で。
実績を重んじる、校風というか。
……具体的に言うと、どれだけ魔物を狩ったかによって、成績が、決まる形で。
最初は皆、普通の、魔物を、狩っていたのですけど。
エスカレートしてしまったんです。いろいろと。
最終的に、その暴走は、同じ学園の生徒にまで及んで。
魔物の血が混じっているという級友を。
(言葉は途切れ。きつく握りしめられた両手は震えている)
そんな、場所に、僕は属していたから。
力になるとか、おこがましいっていうか。
…どの口が言うのか。
(忌々しげに、ひどく攻撃性を含んだ響き)

ああ、でも、力になりたいのは、本当なんです。 その、ビリーさんさえ、嫌じゃなければ。手紙の件は、任せていただきたいです。

(震える手に目を向け、ゆっくりと首を振る)
"学校であれ、企業であれ、団体にはそういう狂気がつきもんだ。お前が属していたからといって、俺に直接危害があるわけじゃない、自分を卑下しすぎるな"
(書き終えた紙を、ぐい、と赤坂の頭に押し当てながらぐしゃぐしゃと撫でる。爪は立てていないから、痛くはない、と、思うが。なんだか乱暴だ)
”手紙の件は、よろしく頼む”

(何か、言おうとしたところに、わしわしと撫でられて)
ん、あ、あの。
──何か、くすぐったいけど。……あったかいですね。
(頭をぐらぐらさせながら、照れたように笑む)
有難うございます。何か、逆に、元気づけられるとか。
えーっと。うちのメンバー呼んできても大丈夫ですか?
知らせておいたほうが、何かと、都合がいいと思うので。

赤坂に呼ばれて奥の部屋にやってきたテルプと天野。
見慣れぬ獣人の姿が、何度も冒険を共にした彼であることを告げられて。

うおーーーー! にーさん もっふもふじゃーーーん!
もふもふさせてよもふもふ! ──ぐぇ。
(ビリーに飛びつこうとしたところを赤坂ががっしりと服を掴んで止める)

失礼な事はやめてください。
ぼ、僕だって、我慢してるんですからね! (もふもふ…)
(一通りの事情をテルプと天野に説明している。ビリーさんの置かれた状況。家族に定期的に手紙を届けること。など。)

ご家族と離れられて、か。心中お察しする。 我々に出来る事があれば全面的に協力させていただこう。 ただ、やるべき事がある場合、此方の仕事を優先させて頂く。 その辺はご容赦頂きたい。 (姿勢を正すと一礼を)

(天野に向き直り)
"俺の用事は後回しで構わない。
もともと駄目もとだったんだ、協力してくれるだけでありがたいさ"
(もふもふと騒ぐ2人を、首をかしげて不思議そうに見つめる)
"別に少しなら ・・・そんなに触りたいか?"
(どうぞ、とでも言うかのように両手を広げた)

マジでマジでー? ほらほらOKだってOK! 赤坂っちもホラ遠慮しないで(もふもふもふ)

そ、そう、そうですか… そう、おっしゃるなら、少しだけ… (もふもふ…もふ…)

うむ。ご理解頂き感謝である。
まぁ我々は、やると決めたことに対して全力で努力させてもらう、
故に、図々しい程に甘えていただいて、構わぬからな。
(偉そうに言い放ちつつ、もふもふ)

イラスト:かげつき

(もふもふ・・・・もふもふ・・・)
"そうだ土産が・・・"
(撫で回されながら乾燥ハーブの詰め合わせを取り出し、机にそっと置く)
"ハーブティーに使うなり、ポプリにするなり、好きに使ってくれ"

はっ、あ、ありがとうございます。
わ、いい香りですね。ハーブティーは詳しくないんですよね、調べてみよう。
…あ、チェイネルさんに聞けば色々教えてもらえるかな…。
ビリーさんには、…邪魔にならなければ、携帯出来るコーヒーミルとかありますけど
持って行かれます? (またコーヒーかよとテルプに突っ込まれて)
あ、ああ、携帯食とかも、色々ありますよ?
準備が十分で無いようなら、是非持って行ってくださいよ。

(小さなメモ用紙を指差しながら、赤坂の言葉に頷き)
"種類なんかはそこに書いてある、
詳細は妻のほうが詳しいだろう"
(コーヒーミル、と聞き尻尾を揺らす。人間の時よりも感情の起伏がわかりやすい・・・)
"いる。飯はいらない、大丈夫だ"

じゃあ、手紙を持って行くついでに色々教えてもらいます。
あと、うちのクラン、部屋余ってるんで
この街に滞在される時はいつでも使ってくださいよ。
幸い…さいわい? 人外っぽい子たちもよく遊びに来るので
ここの周りの住人も、慣れてるんじゃないかな。多分。
ここに来る人達は、皆、いい人ばかりですよ。その言葉は少し誇らし気に。

(ほう、と腕を組み耳を立てる)
"何から何まですまない。手紙は今度来たときに渡すよ。今日はほら。着の身着のまま出てきたところだしな。次はその遊びに来る奴の分も何か土産を用意しておこう。
長居して悪かったな"
(それじゃ、と片手を挙げ3人に会釈する。心は幾分軽くなったようだ)

珈琲が飲みたい時にも来てくださいね。お待ちしてますから。
(珈琲のセットを手渡して、見送る。
どうか、彼に安息が訪れますように。
残った家族に、危険なことが起こらないようにと、願いながら)