墓守
第ニ期:何気ない日常への
ロビーから扉を隔てた奥の部屋。
ビリーさん、大丈夫です?
おなかいたいなら、珈琲はやめておいた方がいいんじゃないですかね…。
(湯冷ましをグラスに入れて、テーブルに置いた。一応、珈琲を淹れる用意もしている様だが…)
まだ痛むのか腹をさすり部屋に入ってくる。顔色はあまり悪くなさそうだ
”悪い そうしておく”
テーブルのグラスを取り口をつける。
毎度こんな調子ではいけないとわかってはいるものの、体質的に無理そうだ
(自分用のグラスにも水を注いで、席につく)
えっと、じゃあ、聞かせてもらっても、大丈夫ですか?
精霊の、力のこととか。そこから…逃げ出す方法とかが、あれば。
”どこから説明したものか・・・そういえば、年季明けはあるのか、とか言ってたか?”
少し落ち着いてきた腹を押さえながら図を描き始める。
墓マークの下に犬や猫等、動物と思しき絵が付け足される。犬の横に”ビリー”と書き
”役目が終わるのは、他の墓守の力が戻った時。俺は補欠のようなモンだ”
7つの図形の下に風や火などの属性が書き込まれ・・・「月」と書かれた円をペンで叩く
”俺の命を繋ぎ止める為に精霊と契約した、ってのは前話したよな。それがこいつ。こいつの結晶が今俺の頭に入ってる。・・・そのせいで右脳はほぼからっぽなんだがな”
右側の額をトントンと指し示す。毛に覆われていて見えづらいが、
よく観察すればうっすらと手術痕のようなものが見て取れるだろう。
……頭、の、中。
(思っていた以上に根深い、というか。絶望的な状況に目をみはる。この枷が同時に命綱であり、ならばそこから逃れる術など)
えぇと、補欠っていうことは、他の墓守はビリーさんとは違う、という事ですか?
生まれながらにして墓守、というか、ビリーさんみたいに人間から無理やり墓守にされた訳では無いのかなっていう。
(真面目に話をしながら、ビリーさんの描いた動物の絵が気になって観察している)
”そうだな。本来の墓守は俺みたいに半端じゃない、獣そのものだ”
手持ち無沙汰なのかぐりぐりと動物の落書きを増やしていく。
童話や絵本に出てくるような可愛らしい絵が並んでいる・・・
”精霊といっても、万能ではないんだ。人の信仰心が具現化したようなモンだしな。だから教徒が減ったり、信仰が薄まれば奴らの存在も希薄になる”
ふう、とため息をつき椅子にもたれかかる。絵を描くのに飽きたらしい
イラスト:かげつき
(かわいい。このメモは取っておこう。そう心に決めた)
…………精霊の力が弱まると。ビリーさんはどうなるんです?
例えばその精霊が消えたりしたら。
その呪縛から解放される、ということは、
ビリーさんの生命を繋ぐ力も、消えてしまうということ、ですか?
(もしそうならば、生命そのものを人質に取られているようで。何だかひどく腹立たしく感じる)
しばらく虚空を見つめた後、ゆっくりとペンを持ち直し
”精霊がいなけりゃ、素の俺は成人にすらなれない貧相な身体だ。だから、・・・おそらく。”
目を伏せた後、ぶるりと首を振り顔をたたく。ずっと前から覚悟はしていたじゃないか。
せめて子供が成人するまでは、なんて甘い考えを抱いていた自分が腹立たしい
…正直、その精霊が、敵、なんだと思ってました。
難しいですね…。
では、ビリーさんが開放される為には、正規の墓守さんの力を何とか、早急に取り戻せれば。
…というかそれ以外は方法は無いのか。
その墓守たちは、今、どうして…力を失っているんでしょう。
(質問しながらペンを手に取り、メモに描かれた精霊の図形や属性を新しい紙に清書している。
学校で、ノートを取るような雰囲気だ)
”奴らはただ種の存続に必死なだけだからな、敵でも味方でもないさ。・・・冒険者の噂をたどってみたが、別の宗教に属する過激派が活発に動いているらしい。・・・こっちの宗教を反発する形でな。その影響で教徒が減っているんだろう”
人の心を操作するなんて無理な話だ、と手を上げた。
真面目にノートを取る赤坂を眺めている
西方教会…、とか、みたいな……でしょうか。
(思いついたひとつの単語を小さく口にする。──あそこを敵に回して信者を、増やすとか? 自殺行為だな、と、すぐに自分の考えを否定して、大きくため息を)
たとえば僕が「はい今日から精霊さんの信者でーす」なんて言ったって、 認めてはもらえないんですよねぇ…。
そうくるとはおもわなかった、と目を丸くして
”入信はそこまで戸口が狭いわけじゃないが、しきたりが面倒だぞ”
先ほどのメモにある蛇のマークを指差し
”たとえばこの影の宗派だと、日光に肌を晒してはいけないだとか・・・”
続けて火のマークを指し
”炎の宗派は生食禁止だ。肉や魚は勿論、サラダもダメだ。”
どうやら信仰意識を高める為なのか、縛りが多いらしい
何かこう、縛りのゆるそうなところ、無いんですかね。
神様ってのは本当、めんどくさいな……(ぼそりと悪態をつく)
形だけの信仰でいいなら、協力してくれそうな人を募れそうな気もするんですが、
とりあえずウチのメンバーとか。
……そんなんじゃ、全然足りません?
”その縛りがゆるいのは、暴れまわってる奴らの宗教だな。こんな調子だから、教徒が増えにくいんだろうが・・・”
頭をぼりぼり掻き考え込む素振りを見せる
”申出はありがたい。・・・、少し、教徒を増やす方法・・・考えておく”
…そーだ、ビリーさん、子供いっぱい作りましょうよ。
(突然何か言い出した)
家族大勢で、みんなで、精霊に力を与えるの。
──いや、でもそれはチェイネルさんが、大変か…。──外に子供…? いや。いやいや…。
(ひとしきりぶつぶつと、悩んでいる様子だったが、しばらくの後、顔を上げて)
すみません、長々と、お話いただいたのに、何も、出来ませんで…。
うまく、力が戻るといいですね…。
赤坂の言葉にたじろぐ。子供の考えることとはいえ凄まじい
”お前、意外とぶっ飛んでるな・・・まあ、でも、そうか、『家族』・・・。”
ゆっくりと首を振り
”いや、案は多いほうがいい。助かった”
ありがとう、と一言書き終わると席から立ちあがる。
なんだかんだで助けられているな。・・・いつかこいつにも、恩を返せるといいんだが)
あ、ビリーさん、すみません。
(慌てて後を立ち上がると、ぱたぱたと戸棚から袋を取り出して)
以前、森にお伺いした時に、マフラーを借りっぱなしにしてまして。
長い間、すみません。 (頭を下げつつ袋を差し出して)
──今回は、何かお届け物とか、伝言とか、ありますか?
呼び止められて足を止める。袋を見ると首を傾げたが、
赤坂の言葉で中身に気付く。
”別にそのまま持っていてよかったんだが”
そういいつつも袋を受け取った
”ない。アルバがこの前 ついでにと 手紙を持って行ったからな。今日は・・・たまにはなんの用事もなく、と思って寄ってみたんだが、・・・結局相談になっちまったな”
居心地悪そうに耳をたたみ目をそらす。
「Спасибо.」
聞き取れるかわからないくらいの声で鳴くと、手をヒラヒラ振って出て行った
いえ、僕の方からお願いしたんですし。
少しでも、力になれるのなら……。
(自信なさげに俯くが、遠ざかる足音に目を上げて)
また、来てくださいね。今度は、ちゃんと珈琲飲みましょう。
(おなかにやさしいパスタとか、調べておこう、とそう思いながら、後ろ姿に手を振った)