ギシの鑑定屋
第ニ期:二度目の巡りで
クラン「ジョブチェンジャーズ」
冒険者は仮の姿……皆なりたい職業の為に修行中、という3人である。
イラスト:ジョブチェンジャーズ さま/クランホーム画面
ギザ歯のアタッカー、プレーンはいつかアティルトで料理人に。 音痴のダークエルフ、オルゴーは、あこがれの吟遊詩人になりたくて。 そしてグラスランナーであるギシは、いつかアイテム鑑定屋に。 そんな夢を持った3人なのである。 正直、オルゴーが夢をかなえる日は遠そうだ、という感想を抱かざるをえないのだが…。
さて、アイテム鑑定の目を鍛えるため、あるいは単に珍しいアイテムを見たいが為に。
ギシは冒険者仲間に対して、無料でアイテムの鑑定をしていたのだった。
そこに、ある日テルプがやってきた。
ちわーっす♪
にーさん、何か色々目が利くって聞いたんで、ちょっと見て欲しいモンがあんだけど。
まぁ俺っちも、吟遊詩人なんてやってるけど、
正直ちゃんとした舞台とか、富豪さまのお相手とか、
どーも向いてないと思うんだよね。性格的に。
せいぜい街角で日銭を稼ぐ程度でさぁ。
って訳でさ。歌の他に出来ることで、稼ぎの足しにでもしようと思うんだけど。
錫で、オーナメント的なものを作ってみたんだけど、こういうの、どうかな。
デザインとかあんま分かんないんだけど、どかーんと高価な値段とかは…つかないモンかねぇ?
まぁ、プロの目で、容赦なく見てやってくれよ。
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<錫細工のオーナメント>を手渡した。
こりゃどうもテルプさん。
吟遊詩人ていっても、街角で歌うだけじゃなくいろいろやらなきゃいけないんスねえ。大変そうっス。ますますあのエルフに務まるかどうか不明っスね。
で、これテルプさん作っスか。ふむふむ、器用なんスねえ。
そんじゃ見てみるっスよ。
<錫細工のオーナメント> R(レア) ☆☆☆
む、こりゃなかなか、っつーかプロ級っスよ。本当に素人なんスかテルプさん?誰かに師事されたことがおありで?
何処の店に並べても恥ずかしくない逸品に仕上がってるっス。このデザインも今、都会で流行ってるやつ風っスから、オシャレな裕福層もお買い上げになりそうっスよね。
そこらの地べたで売るにはちょっと勿体無い感じっス。まぐれでなけりゃ売り込みもアリっスねえ。
いやあ俺っち天才だな!!(ウザいドヤ顔の後、不思議そうに)
──村のじーさんに色々教えてもらっただけだけど、あのじーさん実はすげーんかなぁ。
んー、正直なとこ、品質が安定しないから、一番いい感じと思ったやつ持ってきたんだけども。
そーか。にーさんから見てもいい感じか。うん。(にこにこと、上に掲げて見ている)
冒険の合間に、だけど、ちょっとマジメに勉強してみっかなー。
あ、マジメにとか、恥ずかしいから皆には内緒な。えへへ、ありがとねー♪
ほー、テルプさんの村の爺さんっスか?その土地ならではの技術でもあるんスかねえ。
品質が安定するようになって、それで大儲けしたら奢って下さいっスよ。
マジメが恥ずかしいってのはまたテルプさんらいしいこってスねえ。
わかったっス、内緒っスね。そんじゃまたイイモノできたら持ってきて下さいっスよ。
また別の日にやってきたのは、アノチェセル。
こ、こんにちは…。
あ、あの…。その…。
こ、これを…みて欲しいの…。
<数種類の鉱物、天然石>
そ、その。
も、もし、それなりのいい物(レア以上)だったとしたら、こ、これを加工してくれる人、もし、知ってたら教えてくれると…嬉しいな。
も、もしダメだったらまた持ってくるから…!
お、お願いします。
(何処か気恥ずかしい様子だ)
<数種類の鉱物、天然石> SR(スーパーレア) ☆☆☆☆
…む(丁寧に石をより分けている途中、ふと手を止める)
こいつは驚きっスね。姉サン、これ相当価値のあるモンが混じってるっスよ?しかも2つも。ペアを引き寄せるのは双子の特性かなんかっスかね? こっちの大きめのと小さめのやつっス。
こいつは昼と夜とで色が変わる鉱石なんス。正確に言うと太陽の光だと緑、蝋燭の光を当てると、ほら、この通り綺麗な赤っスよ。こんなに綺麗な色が出るものは僕も見るの初めてっスね。珍しいし、凄い値がつくっス。
加工してくれる人、っスか。うーむ、この宿屋の3軒先に腕のいい職人が居るっスけどもねえ。
大きさが違うんでイヤリングとかにゃ向かないかもしれないっスけど、若い女の子の頼みならなんでもやってくれると思うっスよ。
いやーアノチェさん、ラッキーっスねえ。僕もイイモン見れて幸せな気分っス。
(ギシの説明で色の変わる石を見ると驚きの声を上げた)
わ…わぁ…!
綺麗…。ひ、光の種類で色が変わるんだね。
3軒先の職人さんだね?わ、わかった…!
よ、よかったぁ…!す、凄く嬉しい…。
こ、こっちこそありがとう…!
アノチェさんの場合、日頃の行いが良いからとも言えそうっスね。
途中でスられないように気をつけて下さいっスよ。
(アノチェセルの後ろ姿を見送り、安いコーヒーを啜る)
んん?なんだか青春の気配を感じるっスねえ。
テルプに、何か贈り物をしたい、と。
冒険にて色々と探していたアノチェセル。
ある日の冒険で見つけた美しい大小ふたつの鉱石が、鑑定の結果、どうやら随分と価値のあるものらしい。
想いを込めて。
──恋人でも無いのに、お揃いのもの、なんて。
「変じゃないかな」
その言葉に双子の兄アルバが背中を押す。
「別にペア作って渡せばいいじゃん。行って来い!」
ギシから教えてもらった職人に鉱石と…せめて自分の作ったものを加えたいと色とりどりの皮ひもで編まれた組紐を渡し、>頼み込むと快く引き受けてくれた。
出来上がった装飾具を聖水に浸し月光に晒す。
彼の心が平穏であるようにと祈りの歌を歌う。
…その平穏には「忘却」も含まれているのだろうか。
(私は…)
(私は、どんなに痛くても覚えていたい。でも…)
あの時に覚悟したことは本当の事。
しかし、今の彼女にその覚悟を問われれば迷いが生じた。
水面が囁く。
歌が木霊して、彼女の心を揺らし、震わせる。
石に宿るのは彼女の願いなのか、祈りなのか、それとも…。
今日はバレンタインデー。
意中の男性に、女性が愛を伝える日、だそうだ。
異世界から伝わった風習なので、あまりこの世界に浸透しているとは言い難いのだが、
折角なのでこの機会に、お世話になった人にお菓子を贈る、などする人も多いという。
アノチェセルもお世話になった冒険者にお菓子を配って。
そしていつしか密かに「特別」な想いを抱くようになった、テルプの元へとやってきたのだった。
(角のテーブルで、めずらしく、何やら本の様なものを読んでいたらしいが、聞き慣れた声に目を上げる)
あ、アノチェ、こっちだよ。いらっしゃーい♪
…あれ? 今俺っちだけ? アノチェ、何か飲む?
(部屋を見回し、先程までそこらに居た気がしていた天野が出掛けてることに気付いてぴょいと立ち上がるといつもの飲み物エリアへとやってくる)
まぁ、座って座って。
あ、うん…!
ありがとう…!お、お邪魔します…!
(ちょこんと座る)
え、えとね、お世話になってる人達に、これ、配ってるんだ。
(ごそごそと人数分のフォンダンショコラを取り出した)
く、口に合うか分からないけど、よ、よかったら食べて…!
(た、多分うまくできてると思うけど…という呟きと共に差し出す)
(熱々のお茶をカップに用意して、自分も席につく)
わっ! 甘い…チョコの香りだ!(嬉しそうに目を輝かせ)
ねぇねぇ、今、食べても良い? ていうか一緒に食べようよ。
(手はすでに包装を開ける気満々だ)
わーーーい♪
(いそいそとお皿を2枚用意して、ケーキを半分に割っている)
え、わ!! 何か中から出てきた!! チョコだ!!
え、これ移せるかな…。
(中のチョコがなるべくこぼれないように、フォークで移動させて、しっかり大きい方のケーキが乗った皿を、自分の方へと引き寄せた)
えへへ、遠慮無く。
も、もしかして初めてみるのかな?
ま、前にね、お店で売られてるの見て、い、いろいろ調べて作ってみたの。
へへ、これ、ちょ、ちょっと作るの難しかったんだけど、が、頑張っちゃった…!
(照れ笑いをし、分けてくれたケーキを受け取る)
うん…!ど、どうぞ…!
(緊張の面持ちで見詰めている)
(とろりとしたチョコソースがたっぷり染み込んだスポンジ部分をひとくち。口に入れた瞬間、傍目に分かるほどにんまりと頬を緩めて、幸せそうに微笑んだまましばらくもぐもぐもぐもぐ)
ん、うん。うん…!
(ケーキを切り、ソースと混ぜてまたひとくち。相好を崩したまま、ただただケーキを味わっている)
(半分ほど食べ進めたところでやっとアノチェさんの視線に気付き)
ねぇ、ちょっとこれ、なにこれ、マジですごい、おいしいんだけど。
ほらアノチェも食べて! ほら!
(最初、少し不安そうに見詰めていたが、幸せそうに食べているのを見て徐々に顔を綻ばせた。幸せそうに食べているのを見てこちらまで嬉しくなっているようだ)
あ、うん、ご、ごめんね、つい気になっちゃって。
わ、私もいただきます…。
(ひとくち食べて、味を確認する。味見したとおりのようだ)
うん、美味しい…。
へへ、喜んでくれて、よ、よかった…!
やーーー…
(お皿に残ってるソースまで、スポンジで綺麗に拭き取るように。
食べ終わった後、余韻に浸っているような声)
いやーーー、ホント、すごく、おいしかった…。
ごめん俺おいしいしか言ってない。けど、ほんとに。おいしかった。
(これ、俺っち詩人名乗ってちゃ駄目だろ…などと言いつつ
なおも、おいしかったな…と呟いている)
ありがとね。ふたりもきっとすごく、喜ぶよ。
ううん、そ、その言葉だけで十分だよ…!
うん…!ふ、二人にも喜んでくれるといいな…。
(暫くの沈黙の後)
あ…あ、それでね…。
て、テルプにはこれも…。
(小さな布袋を差し出す。中には細い皮ひもで編まれた胴体にペンダントトップを通した簡単なブレスレットが入っている。ペンダントトップの台座には青緑に輝いた石がはめ込まれていた)
こ、これ、ぼ、冒険で見つけてきてね、か、鑑定してもらったらす、凄くいい石だったから、か、加工してもらったの。
て、テルプにいいことあるようにって、う、うん、お守りのお返し…なのかな。
ね、念のためにあんまり煩く無いようにしたけど…じゃ、邪魔じゃなかったら…え、えと…。
(言えば言うほど何を言ってるのか分からなくなってきたのか最後は小さく掻き消えそうな声で)
ん? なになに? くれるの?
(受け取った布袋からブレスレットを取り出して、石を目にして手が止まる)
わ。──え、ちょっと待ってこれ、すごく…
(高価なものじゃ無いの? と、慌てたように、目だけで問う)
あれの、お返しじゃ、ちょっと割に合わないっていうか…
そもそもあれって、お菓子もらったお返しだったんじゃなかったっけ?
こんな……
(言いかけて、小さくなって黙ってしまっているアノチェさんに気が付いて、少し困ったように頬を掻く)
(改めて、手にしたアクセサリーを観察する。
光によって色を変える、……一生に一度、見られるかどうか。そんな稀少な石だ。職人の手によるものであろう、石を抱く台座と比べると革紐の部分が、丁寧でありながらも少々拙いのを見つけてしまって。
俯いた彼女の姿が、一瞬、これを一生懸命編んでくれている様に見えて)
──貰っちゃっていいの?
(笑顔を作る。目を覗き込んで、優しく、聞いた)
(高価な石に対して、自分の作った部分が酷く貧相にみえて、そのアンバランスさが恥ずかしくなった。覗き込まれても目を逸らしてしまう)
そ、その石ね、光の種類で色が変わるんだって…。
わ、私もこんなにいいのが見つかると思ってなかったの…。
た、ただ…。
て、テルプ…と、時々…か、悲しそうというか…き、消えちゃいそうな顔…してるの。
(テルプさんにはそのつもりも、した覚えがなくても、彼女にはそう見えることがあるらしい)
こ、こういう石って、癒しの効果あるってき、きいたから…。き、気休めかもしれないけど、な、何かしたかったの…。
…うん…も、もらって…。む、村の仕送りにしてくれても…いいから…。
(逸らされた目はそのままに、顔が真っ赤になっている)
>(仕送りに)
…するわけ、ないだろ。
(暖かく、優しく、ともすれば溢れ出してしまいそうな激しい想いの波を、抑え込むように、それでも声だけは絞り出した。手早く、左の腕に革紐を強く巻きつける。
失くさぬよう、揺れぬようにしっかりと)
…いいのかな…。俺なんかが、こんな…。
(身に付けると、石をアノチェさんの方に見せるように、にっこり笑って)
似合う?
(逸らした目を恐る恐る戻して、身につけられた左腕を見た)
…うん…!に、似合うよ!
(身につけてもらったのでまだ顔は赤いが嬉しそうな顔をしている)
て、テルプは「なんか」じゃないよ…!
う、歌だって素敵だし、い、一緒に演奏するとた、楽しいし、
ちょ、ちょっと世話焼けるのもかわ…え、ええと、と、とにかく…「なんか」じゃ…ない…よ…!
う、うん…ご、ごめんね、わ、私、きょう、い、いつもよりど、どもってるね…。
うん。…うん。
(つかえながら、一生懸命伝えようとしてくれる彼女の言葉のひとつひとつに頷きながら。その小さな手に自分の手をかさね、ぎゅっと強く。握り)
ありがとう。
すごく、嬉しい。
(重ねてくれた手に自分の手を重ね、テルプの手を両手で持つと、陽光のような微笑を向けた)
う、うん…!
わ、私の方こそ、あ、ありがとう…!
だいす…
(はた、とそこで止まる。微笑がぴたりと硬直した。暫しの沈黙の後)
あ、あ、あ…!
え、えと、えと…わ、わたし、そ、そろそろいくね…!
(挙動不審の動作で慌てて出て行こうとする)
え、あ、アノチェ…。
(離れてゆこうとする手を思わず追った。首に触れた指先に、先程身に付けた贈り物と同じ手触りを感じて)
(身に付けられた、それを目にした)
(顔から火が出るような感覚。取り繕えないほどに、耳まで主に染めて。それ以上、追うことすら出来なくなって、ただ、呆けた表情で彼女の顔を。)
(触れられた事で、袖の裾がまくられたことで、自分の手首にも贈った同じものが身につけられていることを知られてしまい、いつも笑顔を、泣かないように努めていた彼女の顔が…赤く、切なく、歪んだ)
ご、ごめん…、わ、わたし…。
(ろくに挨拶もせずに出る事を後悔しながらも、こんな顔をみせられなくて。パタンと、扉が閉まった)
(閉じられた扉に、のろのろと手をかけて。それを開く事が出来ないまま、ただ立ちすくんで)
(最後に見せた泣き出しそうな彼女の表情が瞼の裏に張り付いたように。思い出すたびに、心が)
──痛い…
(だけどこれはひどく幸福な、手放したくない痛みであって)
……何で、俺の事なんか、ねぇ?
(「なんか」じゃないよ! と、左腕の宝石から彼女の精一杯の声が聞こえたようで。彼はそっと目を閉じて、その石に、口付けたのだった)