金緑石の腕輪

第ニ期:二度目の巡りで

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ふたりを繋ぐ、大切な宝物。
アノチェセル 18k0

(孤児院に戻る前に人気の居ない平野で彼女は座り込んだ。知られてしまった。言葉にしなくても、伝わってしまえば同じ事)
き、きっと、逃げてしまう…。
(誰がだろう。彼が?彼女が? 少なくとも、今逃げたのは彼女だ)
ど、どうしよう…わ、わたし、ひっ…
(膝に顔を埋めてひとしきり泣く。戻るまでに腫れを戻さなければ、アルバに心配されてしまう。落ち着くまでそこにいると、漸く立ち上がり、ゆっくりと歩き出した)

アノチェセル 18k0

た、ただいま…。
(何とか川の水で冷やしてきたが顔色はあんまりよくないようだ)

サファイア 18k0

随分酷い顔ね…振られた?(くすりと笑う)

アノチェセル 18k0

え…?!
えと…わ、わかんない…。

孤児院へと戻ったアノチェセルを迎えたのは、サファイアという女性。 シスターの姿をしているが、深くスリットの入ったそのスカートからは太ももが扇情的に覗き、 およそ聖職者という雰囲気とは程遠い。
それもその筈、彼女はアノチェセルが夜の酒場で、……テルプと共に歌ったあの酒場で、 客の視線を釘付けにして踊っていたダンサーだった。 訳あって、身を隠さねばならぬ状況に陥ったらしく、アノチェセルとの縁で、ここに住み込んでいるらしい。

サファイア 18k0

ふぅん…じゃあ逃げてきたのね。 あーあー、今頃他の女が掠め取ってるかもしれないわねー。 あー、勿体ないもったいない。

アノチェセル 18k0

そ、そんなこと…。

サファイア 18k0

ないって言えるのかしら?  アタシは逃げるのは嫌いよ。 逃げるぐらいなら奪い取るわ。 アンタは逃げたことでチャンスを逃したのよ。 あー。勿体無いもったいない。 アタシならその隙狙って落とし込むわね。
(言うだけ言うとつかつかと歩いていってしまった)

アノチェセル 18k0

部屋に戻りベッドに倒れるように転がる。 左腕を見れば、ブレスレットに嵌った石は、今は燭台の光で赤くなっていた。 そっと撫で、今までのことを思い出せば、彼女の唇から彼の名前が零れ落ちて。 …彼女の瞳からも涙がひとつ、零れ落ちた。

さて。次の日。 孤児院の前には、腕輪を身に着けたままおずおずとやってきたテルプの姿。

テルプ・シコラ  1btg

(孤児院の周りをうろうろと、たまに中をちらりと覗き込んだりしている。自分から声をかけるのを躊躇っているようだ)

アルバ 18k0

(赤い頭が見えたかと思えば、彼女の片割れが声をかける)
…何やってんだ? 不審者みたいだから用があるならさっさと入れよ…。

テルプ・シコラ  1btg

あ、うん…お邪魔します…。
(おずおずと周りを伺うように)

アノチェ、いる?

アルバ 18k0

…今日は部屋から出てきて無いよ。 仕方ねえからそっとしてる。 …それでも会いたいっていうなら部屋教えるけど…。

テルプ・シコラ  1btg

(躊躇が、見て取れる)
……俺ね。 アノチェが悲しい顔してるの、嫌なんだ。
────。
(しばしの逡巡の後、小さな声で)
教えてくれると、うれしい…。

アルバ 18k0

そうだな。俺いつか言ったな? 「妹を悲しい目に遭わせたらぶん殴る」って。
────歯くいしばれ。 (拳をぎゅっと握った)
その後教えるよ。

テルプ・シコラ  1btg

…痛いのも、嫌だって、俺言ってるじゃん…。
(そう言いつつも、抵抗はせず。衝撃に備えて口をしっかり閉じて)

……ごめんな。

アルバ 18k0

(ああ、届かない身長が恨めしいと、アルバは背伸びをして。がしっ!と両の拳でテルプのこめかみを挟むとグリグリしだした)
おまえなーーー!なんつー顔してんだよ!
そんなんでアノチェに会うつもりかボケぇ!!
俺より年上だろ!しっかりしろよ!

(しっかりと目を見据えて、さらに続ける)
…俺はあんたのこと、逃げるし忘れるし正直腹が立ってるよ。 でもあのアノチェが認めたんだから、俺は「信じる」事にしてるんだよ! ちったぁ応えろよこのアンポンタン!
(すっと拳を下ろすと二階を指差した)
二階の右奥の部屋!鍵開いてる!はよいってこい!

テルプ・シコラ  1btg

(アルバさんの勢いに、はじかれるように回れ右)
う、い、行ってきます!

(「信じる」という言葉がじわじわと)
──殴られるより、痛ぇわ…。

(その痛みに押されるように、彼女の部屋へと、足を、進めた)

アルバ 18k0

(その姿を見送ると溜息をつく。我ながらお人よしで、甘いと思う)
ああ、でも…おじさんも、そうだったよなぁ…。
(棚引く赤い髪、はためくマント。優しくて強い、金の瞳。 それに寄り添うように…そこからピントがボケたように隣の女性の姿が思い出せず。思い出に暫く浸り、そして現実にもどる)
あー…酒のみてぇ気分だ…。

教えてもらった、孤児院の二階。彼女の部屋の前。

テルプ・シコラ  1btg

(ごく普通の扉がひどく重く大きいものの様に感じる。 しばらく、立ち尽くして、扉に触れてみて。意を決しノックを、コン。コン。と、2回。)
…アノチェ…。居る? 俺、だけど。

アノチェセル 18k0

(布団に包まり丸まっていた彼女がぴくん、と反応した)
…て、テルプ…?  な、なんで…え、どうして、こ、ここに…?

テルプ・シコラ  1btg


アノチェ、ねぇ、開けていい?

アノチェセル 18k0

(暫しの沈黙)
…ひ、酷い顔…してるもの…。 あ、会わせる顔がないよ…。
(ふとんつむりになったまま動こうとしない)

ふとんつむり。イラスト:とある孤児院より さま

テルプ・シコラ  1btg

(同じ様に、扉の前で動けずに)

あの、さ。あのさ。
あのさ、俺、今日さ! 風呂、入ってきたんだぜ! (突然何か言い出した)

いつもは、俺、すごく嫌なんだ。 鈴の音がないと、不安で、仕方なくなるんだよ。 だけどさ、アノチェが居てくれたら、俺、大丈夫だったんだ。
──この石、ね。 アノチェが見つけてくれたやつ。これ持ってたらさ。 アノチェが、同じ様に持っていてくれてるって思ったら、 繋がっているみたいで、君の音がするみたいで すごく、すごく嬉しかったんだ。うれしかったんだよ。
ねぇ、頼むよ、顔見せて? 声聞かせてよ。歌が聞きたいよ。 ねぇ、入っても、いい?

アノチェセル 18k0

(被っていた布団から出て、ベッドから降りる。髪の毛はぼさぼさで瞼も腫れているだろう。涙の跡はそのままで酷い顔だ。でも。声が聞きたいという。歌が聞きたいと…顔が見たいと。その言葉を聞いただけで心臓が煩く跳ねた。そんなことをテルプに言われて応えないわけがない。そっと、ドアノブに手をかけて、小さく、扉を開けた)
…うん。

テルプ・シコラ  1btg

アノチェ…!

開けられた扉にぱっと笑顔を浮かべるが、その涙の跡を見て言葉を失くした。 アルバが、その半身がいなくなった時にだって、気丈に笑っていた彼女だったのに。
君の笑顔が消えないようにと、たくさん歌って。お守りの音も君へと分けて。んなの意味が無いと思うくらいに彼女は強いと思っていたのに。ねぇ、どうすれば笑ってくれる? 忘却の歌をうたおうか? 違う、違う、そうじゃない

……アノチェ、ね、ありがとうね。お揃い、たくさんで、嬉しい。
ブレスレットと、自分の鈴とを指して、アノチェの髪に触れて、少し微笑む。

アノチェセル 18k0

(来客を招き入れて、パタンと扉が閉まる。微笑んでくれたのに、笑って返したいのに、笑顔を作ろうとすればするほど泣きそうになる)
…お、お礼を、いうのは…わ、私…だよ…。 そ、それに…ご、ごめんね…。 わ、私、怖くて、逃げ出したの…。 ど、どんどん、き、気持ち、おっきくなって、ど、どうしたらいいか、わ、わかんなくて。 て、テルプを困らせ、たく、ない、とか、つ、伝えたら逃げちゃう、とか、う、うそばっかり…。 わ、私が怖いだけ、だった…。
だ、だって、つ、伝えたら、か、変わっちゃう…。 も、もう「忘れてもいいよ」なんて、言えないよ…!
(宵闇の瞳に、また雨が降る。目の前の人を想う、雨が)
て、テルプ…。わ、わたし…。わたし…。

テルプ・シコラ  1btg

ねぇ、ねぇ、アノチェ。ねぇ、聞いて。
自分自身で自分の気持ちをはぐらかしていたけれど。もうとっくに知っていた。俺は、君が

逃さぬように、両手で頬を挟み、こちらへと顔を向けようとする。濡れた目に真っ直ぐ見つめられたら、もう逃げ場なんてなくて。 自分自身で、それを断ち切ろうと

歌を、紡ぐ
それはありきたりな愛の詩で)
愛してる。愛していると何度もリフレインされる甘いメロディー


…君と一緒に歌ってから、俺はもうずっと恋の歌しか歌えない。 何をしてても、どんな景色を見ていても生まれてくるのは君への歌ばかりだ。 ねぇ、一緒に、歌って。音が、ずっと、足りないんだ。 君の声が、欲しいよ。君じゃなきゃ駄目なんだ。俺だって、ずっと。
切なそうに表情を歪める。もう、戻れないのだと。俺なんかに、恋して
ねぇ、ほら、俺の歌覚えて。…なぁ、一緒に歌ってくれ。
(繰り返す、繰り返される愛の言葉を、歌う。目を逸らさぬように)

アノチェセル 18k0

彼の唇から甘い歌が紡がれている。それも自分を想った。耳に慣れない言葉が体中を駆け巡って、胸の奥で甘くときめかせる。彼の言葉に、自分と同じだと…想っていたと)
て、テルプ…私、想い続けていいんだよね…。伝えても、いいんだよね…。
(アルバは言葉も音だと言った。サファイアは逃げるなと言った。だから)

だいすき。だいすきだよ、テルプ。
(「なんか」じゃない。私は、貴方が大好きだから。雨は止み、瞳に虹がかかる)

う、うん…。歌う…!
一緒に、歌って…!

(彼の歌にあわせて、彼女も歌った。目を逸らさず。二つの歌声は、一つの歌に。何度も何度も、愛していると)

イラスト:とある孤児院より さま

テルプ・シコラ  1btg

(そう、その笑顔が、見たかったんだ。 繰り返される言葉の度に、想いが大きく、溢れてくる様で、その衝動のままに顔を寄せる)

ねぇ、俺も。……いいのかな。
(歌の間に紡がれる言葉)
俺のものにしちゃってもいいの?
(彼女の唇から生まれる歌声が自分の唇へと届くのを感じながら)

ねぇ。こんなに幸せで。 たくさんのもの、手に入れて、幸せで。笑ってて、 いいのかな。いいんだよね。
──いいんだよ。ね。

(いつも、自身に言い聞かせている言葉を。縋るように、両手に力が込められる)

アノチェセル 18k0

(その言葉を全て理解するには、彼女は少し幼なかった。それでも。少し苦笑して)
テルプは…か、悲しいの嫌なのに、う、嬉しい事も尻込みしちゃうんだね…。
う、うん…いいよ。
わ、私を、て、テルプに
あげる…ね。

(込められた手にそっと自分の手を重ね、真っ赤になりながらも、そう答えた)

テルプ・シコラ  1btg



(歌が、途切れる)


イラスト:かげつき

アノチェセル 18k0

(歌が途切れた理由がわからず、ぱちくりと瞬きをした。 彼の顔が間近にあって、いつも歌を口ずさむ唇同士が重なり合っている。瞬のような、長い時間が流れて、そうして唇が離れ、また目が合う。途切れた歌に追いつくように体中の血が駆け巡った)
…て、てるぷ…あ、あの…、え、えっと…。

(心臓の音が煩くて、歌になんてなりやしない)

テルプ・シコラ  1btg

(震えるようなその声を止めるように何度も唇を落として、離れる度にまた歌う。愛してる、愛してる)
…ノチェも、歌って?
(唇が触れたまま、歌が紡がれて、また途切れて、何度も。あいしてる。あいしてる。)

俺のために、歌って…?

アノチェセル 18k0

…て、てる、んっ…!
制止の声も彼の唇に吸い込まれてしまう。歌と、口付けの音の、繰り返し。 「俺のために、歌って…?」と求められる。

うん…あい、してる。

(あいしてる。あいしてる)
(彼の為に歌を繰り返しては、合間の口付けを受け入れた)

テルプ・シコラ  1btg

(どれくらいの時間そうしていたのか。もっともっと、と貪るような衝動を沈めるように、ゆっくり身体を離して)

──あいしてるよ。

(自分の言葉で。ちゃんと、伝わっただろうか。彼女の紅潮した頬を優しく撫でる)
ごめんな。泣かせてごめん。ありがとうな。 俺、多分何よりも、アノチェの悲しい顔が、…好きじゃない。 …笑ってな?

アノチェセル 18k0

(少し息が上がった頃、名残惜しく身体が離される。彼の言葉が頭の中で鳴り響いている。「あいしているよ」と)

うん…。…うん!
わ、わたしも、あいしてるよ…!
(まだ少しだけ理解の足りない言葉を、それでも彼の為に告げる)
う、ううん、わ、私の方こそ、ご、ごめんね…。 だ、大丈夫、わ、私今日のこと、ぜ、絶対忘れないもの。 き、きっと、悲しくたって、思い出せば、わ、笑えるよ…! あ、ありがとう、テルプ。だいすき。
(嬉しそうに笑う笑顔は、ほんの少し大人になった気がした)

テルプ・シコラ  1btg

うん。きっと俺も、そう。 きっと…どんな悲しい事だって…、今日を思い出したら。 だってこんなに、幸せなんだもん。きっと、大丈夫。…だいじょうぶ。
(笑ってくれた、愛しい彼女の頭を撫でて)
行こうか。…アルバも、心配してたみたいだし。 ──あんま遅くなると、俺っち別の意味で殴られちまう。
(いつもの調子でにかっと笑うが、その瞳は、愛しい人を見守るような優しさに満ちたそれだった)

アノチェセル 18k0

…うん…だいじょうぶ。大丈夫だよ、テルプ。
(忘れる事に慣れてしまった彼に「だいじょうぶだよ」と。子供をあやす様に、背伸びをして彼女も彼の頭を撫でた)
うん、わ、私もアルバに謝らないと。 …出口まで送るね?

テルプ・シコラ  1btg

ん、謝るなら、一緒に行こうか。
(逆効果かもしれないけれど、と、意地の悪い気持ちもありつつ)

(アルバにも感謝を告げておきたいと思ったのも事実。…それは口に出さぬままかもしれないけれど)

アルバ 18k0

(いつもアノチェがしていた家事を、慣れないながらもこなしていると、二階からトントンと降りる音がする。朝酷い顔で泣き濡らしていた顔はアルバが見たことが無いほど、晴れ晴れとしている)

アノチェセル 18k0

あ、アルバ…

ご、ごめんね、アルバ。心配かけて。

アルバ 18k0

ああ…言わなくても分かる…その顔を見れば分かるよ。

(アノチェの隣にいる男の背中を蹴ったのも自分だ。けしかけたのも自分。…バカじゃないかと思う。逃げるのがお得意のこの男なら、そう仕向ける事だって容易かった筈なのに)

…別にいいよ。アノチェが笑ってくれるなら。
(やれやれと溜息をつくと、隣の男を見た)

テルプ・シコラ  1btg

……世話、かけたな。
(目が合って、居心地の悪さにポリポリと頭を掻いたりして)
中途半端な事してたら、…ブッ殺しに来てくれや。

アルバ 18k0

やだなぁ?言われなくてもそうするよ、おにいちゃん?
(冗談めかしてそういうと)
…じゃ、俺あっち行ってるから、アノチェ見送り頼むな。
(と背中を向けて行ってしまった)

アノチェセル 18k0

あ、アルバ…!も、もう…。 ご、ごめんね、テルプ…。
(孤児院の出入り口まで一緒に向かう)
き、気をつけてね…? じゃ、じゃあ、また…。また、会おうね…。
(名残惜しそうに…最後に少しだけその手を握った)

テルプ・シコラ  1btg

…ん。
(ちらと周囲をうかがった後、握られた手を引いて、額に触れるようなキスを)
ん、じゃ、また、ね。
(照れたように、ぱっと背を向けて、駆け足でその場を離れて。姿が見えなくなる前に振り向き、大きく手を振った)