テルプの部屋
第ニ期:恋人
あ、アノチェだ! いらっしゃい!
どしたの?
(にっこにこで出てくる。アホ毛が跳ねる)
ん、んとね…。
ま、前に誕生日聞いたでしょ?
こ、これ…。
(沢山のお菓子を、色とりどりの包み紙でラッピングして。もちろん手作りだ)
…お、お誕生日おめでとう…!テルプ。
(自分のことのように微笑んで)
わ、ありがとう…!
(喜色満面、受け取ったプレゼントからは甘い香り)
俺っち、こんな風に、誕生日だって言って何か貰ったの初めてだぁ…。
わ、わ、お菓子だ。開けていい? 食べていい?
そ、そうなの?
あ…そっか、村のみんなが同じ誕生日みたいなものだって、前言ってたよね…。
じゃあ村でお祭りとかするのがお祝いになるのかな…。
そ、そっか、そしたら個人で誕生日とか、祝わないかも…。
う、うん…!食べて…!
ど、どこで食べようか…!
そうそう。皆で、おっきい鍋を囲んでさ。
パンとチーズとが配られて、皆で歌ったり、踊ったり、一日中!
……えっと。
俺っちの部屋、来る?二階の自室を指して
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どーぞ。狭いけど。
(床に座るスタイルらしい。部屋の真ん中には絨毯が引いてあり、壁際には数個のクッションが、ソファーの様に使える様に数個積んである。木のトレーに貰ったお菓子を乗せて絨毯の上に置き、自分はクッションを一つ抱いて腰を落ち着けて。)
そこ、どーぞ。
床に座りにくかったら、椅子もある。
(部屋の隅に小さな椅子がふたつ置いてある)
う、うん…!
だ、大丈夫。床に座れるよ。そ、それに、め、目線…合わせたいし。
(一つクッションを借りると隣に座った)
ほ、本当はおっきなケーキ持っていこうかなって思ったんだけど…。
た、沢山の方が嬉しいのかなって。
え、えと…おめでとう…!テルプに会えて、私、本当に嬉しいから…。お祝い。
(綺麗にラッピングされたお菓子は食べやすいように一口大になっていて、ケーキ、タルト、クッキー、パイ。包み次々開ければ数種類の違うお菓子が出てくる。ビックリ箱のように。小さくても手間暇がかかっているようだ)
う、うわ、うわ、わぁ。すごい。
え、これ全部アノチェが、作ってくれたんだよね?
(箱を開けるとたくさんの。自分には菓子の作り方など分からないが、これらがとても時間と、思いを込めて作られたことくらい)
あああ、ありがとう…。
綺麗で、食べるの勿体無いくらいなんだけど、
ああもう、匂いも美味しそうだし、うう。
(半分涙目になりながら感動している。手に乗せて眺めて、食べようとしては、やめてみたり)
うん…!
お、お菓子はね、おじさんからよく教わってたの。
おばさんも作れたけど、おじさんの方が上手で。
わ、私、作れてよかったぁ…。
こ、こんなに嬉しそうなテルプの顔見られるんだもの…!
た、食べて…!い、何時だって作るから…!
(感動してる様子に微笑むと食べさせようと… 二人きりでちょっと大胆になっているようだ)
(促されるままに口を開けて、ぱくり。さくりと心地よい歯ごたえといっぱいに広がる香り、上品な甘み。それが全部自分のために、目の前の彼女が作ってくれた物で)
ああ、くそ、美味しいなぁ。幸せだなぁ。
(噛み締める様に、だいじに、もぐもぐと味わって。
ふたりの間に置いてあったトレーをそっと移動させて
、彼女の隣へと座り直す)
ねぇね、もう一個、ちょーだい?
(顔を寄せて、食べさせてもらうのを待つ姿勢だ)
(予想外の反応に、逆にこちらが急に恥ずかしくなってしまって、耳まで赤くしながら口を開けて。知らなかった側面を、新しい顔を見る度に、どんどんこの子に惹かれていっている気がする)
…あ、何か、俺さ。
駄目だ。…アノチェにドキドキして、味分かんなくなってきた。
(我ながら性急に過ぎる。身体を密着するほどに寄せると、この早鐘が伝わるだろうか。甘いお菓子の香りも、彼女から薫る、それこそ頭を痺れさせてしまうような甘さの前にかすんでしまって。誘われるように、キスをしようと)
(引き寄せられ、熱が伝わる。このまま甘い空気に飲まれてしまいたい。けれど…)
(キスをする直前)
あ、あの、ま、まって…!
そ、その、今日言うべきじゃないのわかってるんだけど…。
ず、ずっと気になることがあるの…。
て、テルプ…、き、聞いてもいい…?
(唇が触れそうになる距離で、彼女は問う)
…ん? なぁに?
(吐息がかかる。焦らされるもどかしさも、嫌いじゃないけれど、そんな駆け引きが出来るほど、この子は大人だったろうか、などと)
(結論から言えず、しどもどろに聞きたいことの経緯を話す。かかる吐息に時折びくりと震えながら)
あ…あのね…、わ、私、ヴィゾンの所の書庫に…行ったんだ…。
し、調べ物があって…。
で、でね…そ、その…い、いかがわしい本が山積みになってて、そ、それ、テルプが集めて読んでたって、あ、天野、さんが…言ってて…。
そ、その、て、テルプがあ、あんなに沢山集めて読んでたのも…
ちょっと、ショックだったんだけど…。
ほ、本にあったの、む、胸が大きい人ばっかりだったような、気が…して…。
…や、やっぱり、大きい人が好き…なの…?
(色んな感情がない交ぜになって、何をいっているんだろうと思いながら、彼女は涙目になっていた)
…ご、ごめん、誕生日にいうことじゃないよね…!う、うん…!き、聞き流して…!
(話を聞いているうちに、熱がざっと引いていく)
あ、いや、その。違うんだ。(何が違うというのか)
何ていうの? ほら、ああいう本も読み物として完成、されてるっていうか。
げ、ゲージュツ的だよね…
(あはは、と、乾いた笑いで誤魔化そうとして。彼女の瞳いっぱいに浮かぶ涙を見ると、態度を改めてしっかりと向かい合い。正座。)
あの、だな。その。
そんな風に傷付けるなんて、全然思ってなくて、……ごめん。
あの…。たのしいよみもの くらいの気持ちでいました。すみません。
ああいうの、アノチェが嫌だったら、俺ぜったいやめるから。
な、俺、アノチェが悲しい思いしてるの、嫌だから、さ。
(時々目を逸らしかけては、気力を振り絞るようにじっと目を見て)
む、胸って。…そんなに大きさの事気にしてるの? アノチェ。
(責められている部分が、いや、責められているわけですらないのだが、しかし彼女にとって重要な問題が「胸」に集約されているような気がして、やや拍子抜けした風である)
え?…だ、だって、アルバにはからかわれるし、さ、サファイアは…魅力的だし…。
も、元々む、胸は…気にしてたけど…。えっと…。
わ、私ね、テルプと付き合ってから、し、知らない自分が増えていくの…。
も、もっといっぱい、テルプと歌いたくて、一緒に演奏したくて、歌や楽器の練習いっぱい頑張ったりとか…。
こ、こうしたら魅力的にみてもらえるのかなって、み、身だしなみ気にしたりとか…。
そ、それで…、ま、前に、テルプに私の…全部、み、見られてから、
す、凄く小さいのが恥ずかしくなって…。
お、大きくなる方法ないかなって、書庫…探しに行ったときに、その、そういうことが、あったから…。
て、テルプがその本読んでる姿とか、「こういう人が好みなのかな」って考えたら、あ、頭がぐるぐるして、もやもやして…。
な、なんでだろうって………。
(と、自問して、はた、と気付く。それはヤキモチなのではないかと)
…や、やだ…ヤキモチだなんて…。
し、しかも本の人に…。
ど、どうしよう…ドンドン欲張りになってる…。
(歌えるだけで、話せるだけで、側にいるだけで幸せなのに…「私だけを見て欲しい」だなんて)
や、やだ…、み、みないで…。
(欲深い自分に羞恥心でいっぱいになって、顔を隠した)
だ、大丈夫、よ、読まないでなんて、言わないから…。
が、頑張るから…。
そこは頑張んなくていいよ、読まないってば。
俺、アノチェに、悲しい事、苦しいこと、我慢なんてして欲しくない。
(真っ直ぐに、愛しい人を見つめたくて手を伸ばす。
隠したその心を暴くように)
ね、アノチェ、顔見せて。全部俺のって言ったじゃん。
俺嬉しいんだ。君自身も知らない君を、俺、もっと見たいから。
俺で変わってよ。誰も知らない、俺のアノチェになって。
もっと俺を欲しがって、ね、俺を「アノチェの俺」にして?
(もう、とっくに、こんなにも虜になっているのだけれど)
俺がどんなに君のこと好きか、分かる? …ノチェ?
イラスト:とある孤児院より さま
私だけの…テルプ…?
わ、私、もっと欲張っていいの?
(ゆっくりと、確認するように瞬きをする。絡まった感情が解けて、ずっとシンプルに、思いを)
…うん。
あの、ね…。
わ、私、が、頑張るから…。
テルプが、ずっと笑っていられるように、頑張るから…。
て、テルプだけを、見てるから…。
私…だけ…見て…。
(頭がくらくらする。臓から、彼女への想いが体中を巡って、君に届けたくて、弾けそうで)
うん、もう、ノチェ、君が好き。君しか見えない。君のことしか考えられない。
君のこと見せて。もっと。いっぱい。全部見せて、ねぇ。
(顔にかかる髪を掻き上げ、首元のマフラーをもどかしげに外そうと。今は彼女自身を隠すもの全てが余計に思えて)
ね、ふたりとも、夜まで出かけちゃったから。
今日は、ゆっくり。ね?
…ノチェの全部、君が好きじゃないところも、君が知らない場所まで、愛させて。
俺しか知らない君になって。俺も知らない俺を、受け止めて。
(身体を寄せて、ゆっくりと体重を乗せる。愛しい歌を紡ぐ唇が濡れたように、誘っているように、開かれていて。そのまま欲望の赴くままに)
どれだけ君のこと好きか。──おしえてあげる。
(耳に流し込まれた愛の言葉が、脳内で混じり合って…熱を帯びて体中を駆け巡る。ぞくり、と体が震えた)
…テルプの声…好き…。
…もっと、聞きたい…。
…もっと、知りたい…。
(乗せられた体重の流れに沿って…身を任せる。私だって好きなんだよ?とその手はテルプの身体へと…)
うん…。おしえて…。
一緒に、奏でて…。
…あいしてる…。
(初めてのときの様な不安はなく。二人だけのメロディーは深く、深く溶け合っていった)
イラスト:かげつき
*・゜゜・*:.。..。.:*・゜。*・゜゜・*:.。..。.:*・゜。
(不規則な和音が、長くゆっくりとした終結部(コーダ)を奏で終わっても、まだ体中に響く音の余韻に痺れたように酔っている。
両腕の中、抱きしめた彼女の髪を撫でた。幸福で満たされた、満たしあった後の、ゆっくりと穏やかな時間。いつまでもこうしていたいと)
……すき。
(余すところ無く、自分の愛を伝えて、自分のものにしようとして。君の心の奥の、いちばん奥まで、届いていればいいな。密着させた身体のあたたかさに、まどろみの中に落ちていきそうに)
ねぇ、…知ってる? のちぇ。すきだよ。…すき。 ……すき…
………
(終演が、水音を立てて、体の奥を流れていく。一滴も逃したくなくて、受け止めたくて、蓋をするように抱き締め返した。彼の心音が聞こえる)
…うん…。すき…。
(…知らない自分が増えていく。私だって、見たこと無い貴方を見つけたいと、擦り寄るように顔を寄せて、それから、想いを口移しで伝えた)
テルプ…だい…すき…。
(もっと見ていたいのに、引き込まれるまどろみに逆らえず、ゆるゆると彼女は意識を手放した)
「次の君の誕生日には、ね。誰よりも先に祝いたい。日付が変わった瞬間に」
彼女を送り届けて、別れ際のキスと共に囁いた言葉の意味を。
何だか照れくさくなって、彼女が理解する前に踵を返した。
「じゃ、また!」
離れても、彼女と共に居る喜びが、体中でリフレインしていて。
きっと、俺も、変わっていく。