あなたをゆるします

第三期:巡る、めぐる

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孤児院の主の元から戻ってきたアノチェセルは、真っ先にテルプの元へと。

アノチェセル 18k0

(トントン!とやや慌しく扉を叩く音が聴こえる。扉の向こうには息を切らして肩を上下させている少女。興奮で扉を開ける相手もよく見ずに飛びつきかねない勢いだ)

テルプ 1btg

……あまのっちいないのー? んー、はいはーい、今開けまーす。
長い髪を乱雑にまとめて、疲れた目をほぐしながら。作業場で何やら細工物を作っていたらしい。扉を開けたテルプは、勢い良く飛び込んでくる彼女に面食らって
あ、アノチェ。わ、わっと。(飛び込んできたら受け止める体勢で)

アノチェセル 18k0

(勢いよく飛び込んでから、受け止めた相手がテルプなのを理解して)
…あ…、よ、よかった。ま、間違って天野さんや赤坂さんに飛び込んじゃうところだった…。 (それから、ぎゅうっと抱きついて)
あ、あのね…!おじさんとおばさん、目を覚ましたの…!! う、嬉しくて…! そ、そしたら、テルプに凄く、会いたくなって…。 つ、伝えたかったの。真っ先に。 だ、だから、走ってきちゃった…。 (額から滑り落ちる汗を拭う事もせずに、顔を上げて笑った)

テルプ 1btg

…!
目が覚めたのか! やった! やった!! やったーーーあのちぇーーー! アノチェの笑顔を見て、心配することは何も無いのだと理解すると 脇の下に手を入れて抱きしめて、抱き上げて、踊るようにぐるぐると回る
あ、あのふたりに抱きつくのは、……複雑な心境だな。 何だか女性関係の話からは程遠そうなふたりではあるが

アノチェセル 18k0

うん!ま、まだ病院で静養してるけど、回復したら孤児院に戻ってくるよ…! (抱き上げられてぐるぐる回って、びっくりしながらも嬉しそうに)
テルプのこと…はやく紹介できたらいいな…。 へへ、二人共、びっくりしちゃうだろうなあ…。 す、数年留守にしていた間に、こ、婚約者…(照れてるのかか細い声で)が出来てるんだもん…。

(改めてテルプの顔を見詰めて) …会いたかった…! (ぬくもりを確かめるように、顔を埋める)

テルプ 1btg

そ、そうだった、あいさつ。 緊張した面持ちで一瞬固まる。が、すぐに笑顔に
結婚式、見せられそうだ。 アノチェが最高に綺麗な日になるんだもん、絶対見てもらわなきゃ! よかったねぇ。アノチェもアルバも、よくがんばったねぇ。
長年孤児院を守ってきたふたりへ、 おじさんおばさんを助けたいと奔走していたふたりへ、 ねぎらいの言葉をかけて、しっかりと抱きしめる。 たっぷりそのぬくもりを確かめると、そっと彼女を床におろして

なんか怪我とかしてない? だいじょうぶ? 頭から足元まで、両手でぽふぽふしてみたりしている

アノチェセル 18k0

うん…!あ、ありがとう…!
へへ、大丈夫だよ、おじさんもおばさんも優しいから。

け、怪我?うん、大丈、夫…っ!
(怪我をしてないかと確認された手が、左腕のある箇所を捉えると少しだけ顔を顰めた。気付かれないよう着替えてきたが、傷が多少残っていたようだ)

テルプ 1btg

! ……お見舞いに、行ってきたんだったよね?
左の腕をそっととって、その掌を両手で包む。 冒険で傷を追うことはよくあるけれど。

だいじょぶ? ……見てもいい?

アノチェセル 18k0

え…あ…。
(腕を捲くられると、左腕の二の腕部分に大きな青痣が出来ている)
ど、どっかでぶつけてきたのかな…。 は、早く会いたくて急いだから…。 だ、大丈夫だよ、すぐ治るよ…!

テルプ・シコラ 1btg

…気をつけてよ? 痕になったら、大変。
痛まぬよう、触れるか触れないか程度、痣の上に口付けて、 ついで、と言わんばかりに、前腕から手首にキスを這わせる

んー、まだ、療養中、って事は……、
俺っちが会いに行くのは、おじさんおばさんが孤児院に戻ってきてからの方が、いいかな。 手首が気に入ったらしく、何度も唇を寄せながら。

ふと思い出したように顔を上げて

──あ、ごめん、何か飲む?

アノチェセル 18k0

う、うん…。 気を、つけ…っ…る、よ。 (唇が肌の上を滑る感覚がくすぐったいようで、途切れ途切れに返事をする)

そ、そうだね…。 お、おばさんの、体力がまだ、戻ってない、みたい。 年内までには、も、戻ってくるんじゃ、ないかな。

(何か飲むかと聞かれて)
え、ええと…。 じゃあ、テルプと、お、同じものを…。

テルプ・シコラ 1btg

ん、じゃ………んー、赤坂が確か氷買って、置いといてくれてた筈… あったあった、アイスチョコレートにしよう。 出来るまでそこ座ってて。よかったらコレ飲んで待っててね♪
冷たくしたレモン水は、もともと用意してあったものらしい。 グラスに注いでテーブルに置くと、自分は簡易コンロの前で牛乳やら何やら用意している。 作業中も常に鼻歌など歌いつつ、楽しそうに

アノチェセル 18k0

(深くそれ以上聞かれなかった事にほっとしながら、椅子に腰掛ける) うん…。お、お邪魔します。 …あ、レモン水美味しい…。 ここ、本当に色々あるね。
(テルプのまとめ髪を見て) な、何か、作業してたの?

テルプ・シコラ 1btg

ん、あぁ、色々……、んっと。
色々作ってんの。金属とか石とか加工してー、今のところアクセサリー類がメインかな。 そこの、奥の部屋(顎で小さな扉を指して)、散らかってるけど、見てもいいよ。
あ、道具類に触らないでね、結構尖ったものもあるから。

アノチェセル 18k0

え?いいの? …え、えと、それじゃ…。 (そっと奥の部屋を覗いて)
わ、わあ…!これ、何の石かな…。こ、これは何作ってるんだろう…。 (道具には触らないようにして、邪魔をしないように中をきょろきょろと探索し始めた)
(楽器を奏で、歌う彼とは違う、金属の匂いのする部屋に)
…な、なんだか、テルプの違う一面を見てるみたい…。 (嬉しくなって、ゆっくりと目を閉じると、この部屋で作業している彼をイメージした) …えへへ、カッコイイ…な…。

テルプ・シコラ 1btg

カップに砕いた氷を入れて、チョコレートを注ぎながら

今は火、入れてないけど、その奥に火を入れると、地獄の暑さだぜぇ。
愉快そうな声が指した先には、ススで汚れた一角が。 大きな暖炉の様な…石組みのストーブの様なものが見える。 バーナーやら、様々なサイズのピンセットや細工棒がそこらに 乱雑に放り出してある様に見えるが、並び方にそれなりの法則はあるらしい。

アノチェセル 18k0

わ…。こ、ここで金属溶かしてるの?
み、見た目、私がパンを焼く釜と似てるね…。

テルプ・シコラ 1btg

楽しいモンだねぇ。自分のイメージが形になるっていうのは…… 歌と違って、消えてなくならずにそこに残る物ってのは。なんて言うんだろ。 地に足が付いてる、とでもいうのかなぁ。 ──何だろ。今までは何となく、そういうの避けてた気がするんだけど。
……俺はアノチェと、ここに居たいんだな。きっと。 彼女に聞かせるでもなく、独り言のように。

さ、アノチェ、出来たよー♪

アノチェセル 18k0

(自分のイメージが形になるのが楽しいというテルプに) わ、わかるよ…! こ、こうしたいな、って思った物が出来ると嬉しくなるよね…!

…「歌」って、想いが人から人に渡って、変化していって…一期一会なところがあって…。 そ、それも素敵で、私は好きだけど…。 で、でも、形に残るものは…想いを留めてくれる気がするの。見るたびに、思い出すんだ。その時のことを。 ……だから、私は、それも、すき。 (指輪にそっと照れたように口付けて)

う、うん! 今行くね…! (呼ばれた声に反応し、部屋から出るとテルプの元へ。先程いた椅子へ座った)

テルプ・シコラ 1btg

クラッシュアイス多めのアイスチョコレートにミントを浮かべたものを アノチェの方へと差し出して
この飾りの葉っぱは食べなくってもいいんだってさ。 俺っちは何かこのすーすーする味が好きで食べちゃうけど。 自分のそれをストローでガシガシとつぶしながら

アノチェセル 18k0

こ、これ、ミントだよね…! 私もお菓子に使うよ…! えへへ、ありがとう…!いただきます…。 (見よう見まねでミントを潰して飲む)

テルプ 1btg

ミント! そうそれそれ、何か赤坂がそんな名前言ってた。 珍しく工夫した作り方をしてると思ったら、赤坂の好みだったらしい。
……んーっと、こうしたいな! って思ったものが出来る…っていうと、 アノチェにとっては、お菓子とか料理とかが、そんな感じなのかな。

アノチェセル 18k0

うんと…、お菓子も、料理もそうだし…。 あ、あと…これ…とか…。 (自分のブレスレットを指差す)
も、もう少し、上手くできればよかったかなって思うけど…。 じ、自分で石を探したかったのと、か、加工はできないから、紐部分だけは自分で作ってみたくて…。 そ、それが「こうしたい事」だったから…。嬉しかった。出来上がったときも…、受け取ってもらったときも…。

テルプ 1btg

一気に飲んでしまって、落ち着きなく氷をつついたりしていたが アノチェのブレスレットを目にして。

形に残るものは。見るたびに思い出す、その言葉がまさに現実に。 あの時の彼女の恥じらうような、朱に染まる頬が、 震えたような声が、すぐそこにあるような気がして。 指された宝石に、自分のそれを合わせるように、手を重ねて。


──これ以上なんて無い、最高の、たからものだよ。 俺と、……ノチェを繋ぐ、たいせつな。 愛しさに、たまらず、重ねた手をぎゅうっと握る。

アノチェセル 18k0

うん…!宝物、いっぱいだね? (服の下にいつもしまっている宵闇色の鈴を、もう片方の手で取り出してシャランと鳴らす)

ぶ、ブレスレットと、鈴と…あと…。(重ねられた手を見て)繋がってるもの沢山で、うれしい…。 (二つの金緑石が光ると、ブレスレットを渡した時の事を思い出して、顔を赤らめた。 伝えたら負担になってしまうという自制と、相反して溢れ出る感情に揺れていた事を)

て、テルプ、よく「なんか」って言ってたよね…。 (にっこりと笑って) 「なんか」じゃないんだからね…! わ、私は、「そんな」テルプが大好きなんだから…! (あの時と同じ場所で、まるで再現するように告げられた言葉と表情は、あの時のように震えても、俯いてもいなかった)

テルプ 1btg

「なんか」って。あんま、「よく言ってた」って自覚はなかったんだけど… 多分どこかで、今のままじゃダメだって、思ってたのかもしれないね。

──俺はさ。
ずっと、色んな事忘れて、…俺には何も無いんだって思ってた。 歌と、笑顔と、……楽しいことがあればいいやって。 忘れてしまえば、逃げられると思ってたんだ。色んな事から。 確かな絆なんて、邪魔なだけだって。

そんな道のりでも、君とこうして居られるという事だけで 君が好きだと言ってくれるそれだけで、全部許せるような、そんな気がする。 ……いいのかな。 こつんと、額同士をぶつけるようにして、手はぎゅっと繋いだままで

でもこれからは。 君とは。ずっと、ずっと忘れたくない。離れたくないんだよ、ノチェ。 君と一緒に確かなものを築き続けたい。 それは「家族」とか…「人生」とかそんなものなのかもしれない。 ずっと。君と一緒がいいんだ。

──ね。あいしてるよ。

アノチェセル 18k0

…私、ね。

い、一度忘れられちゃってから、また忘れられちゃうの…本当は不安だったの。 す、好きになればなる程、「消えてしまうこと」が怖くなって…。 て、テルプが痛いこと、辛い事が嫌で、そういうの忘れてしまう事も、わかってたから…。 「それでも大丈夫」なものばっかり、作ってた。 に、日記とか…ブレスレットとか…形のあるもの作って…。 も、もし忘れられても、それを見れば、繋がっていた証になるからって。

わ、私、忘れられちゃうのは怖くても、て、テルプのこと許す許さないとか、お、思ったことないよ? …私、こ、怖くても、ちゃ、ちゃんと、そういう所も分かって、好きだよ?

…う、うんと…。
(許して欲しいのかな…?と逡巡したのち、繋げた手の上にもう片方の自分の手を乗せて、上に持ち上げる。祈るようなポーズで、くっつけた額はそのままに)

な、汝を許します(ありったけの好意を言葉に込めて)

…なんて…ね。
し、シスターの真似事、しちゃった。 (やっぱりどもっちゃうね、とイタズラが見つかった子供のように舌を出して)
わ、私と居て、「忘れたくない」って思ってくれるの、嬉しい。 「一緒にいたい」って言ってくれるの、嬉しい…。
…あいしてる。テルプ。
い、いっぱい、築いてくれる?私と、一緒に。

テルプ 1btg


  ゆるします

その言葉に不意に。虚を突かれたように。
驚いたような、無表情の様な、呆然と見開かれた瞳から突然にぼろぼろと涙がこぼれて。


…………? あれ?
それに気付いて不思議そうに自分の両目から落ちる液体を、眺めて。

アノチェセル 18k0

(ぼろぼろと涙を流すテルプに)
ど、どうしたの?!わ、私変な事しちゃった?
(と、狼狽して)

テルプ 1btg

……どしたんだろ。これ。ああ、君があんまり、優しいから、きっと嬉しくて。
ぎゅうと強く繋ぎなおした両手が雫で濡れる。 止まる気配の無いそれに、困ったように微笑んで。

イラスト:かげつき

アノチェセル 18k0

…あ、あのね…。
わ、私達…私も、小さい頃に悪い事しちゃってて、自分が嫌になったりとかして。 そ、そんな時、いつもおばさんが「許す」って言ってくれたの。 「悪くない」じゃなくて、「許す」って。 だ、誰かに…言われる事で…大好きな、おばさんに言われた事で、私、自分を嫌にならなくなったの。 …きっと、アルバもそうなんだと思う。

だ、だから…あの…。

テルプ 1btg

……うん。
確かなものが壊れないように、そこに無いものを忘れぬように。 君が怖い思いをしなくていいように。 君が笑顔で居られるように。たくさん、たくさん、重ねていくよ。 あいしてる。俺のすべては、君のものだ。

まだ涙で濡れたままの頬を、唇を、寄せて。 一度、キスをして離れると、もうその表情はいつもの笑顔。 格好悪いところを見せたと、少々罰の悪そうなものではあったけれど。

アノチェセル 18k0

(どう言ったらいいか分からなくて、もじもじしているとキスをされる。ぱちくりと瞬きをすると、彼はいつもの表情に戻っていた)

…わ、私も。
全部、あげる…。
も、元から、そのつもり…だったけど…。

…あ、涙、拭かないと。 えっと、は、ハンカチ…。
(ごそごそと腰の鞄からハンカチを出して拭ってあげようと…)

テルプ 1btg

ハンカチを持ったその手を止めるように上から握り、そのまま啄むように何度もキスを。
君と、アルバの強さの理由が、多分、分かった気がするよ。 許されること、許すこと。……忘れなくても、大丈夫なんだ。

俺もね、ノチェ、君のこと、────ゆるします。 俺なんか……じゃなかった、えっと、俺、がそんな事言っていいのか分かんないけど。 昔のことも、これから先も、全部。痛いのも、一緒に持って、歩いて行くから、ね。

アノチェセル 18k0

ゆ、ゆるしてくれて、ありがとう。 て、テルプに…大好きな人に、そう言って貰えるの、嬉しいよ? そ、そういえば、私、ちゃんと…昔のこと…私がしてきた事、話してなかった気がする…。 うん…。昔も、今も、先も、ちゃんと話すね。
そ、それで…。 分け合って…私と、テルプで半分こして一緒に、もっていこうね…。 (いつかの、水と火を…足りないものを分け合う話を思い出して、花のように微笑んだ)

テルプ 1btg

──うん。はんぶんこで、ひとつになって。…………だから、ね。
ね、君が、今、欲しい、我慢出来ない俺も許して? 愛おしさが溢れて堪らない。抱き寄せて、耳元にキスをしながら。 ねぇ、断れないの、分かっててこんな事言うずるい俺のことも。

アノチェセル 18k0

(耳元で囁かれて…びくり、と反応すると、その花は朱に染まっていく)

そ、そんなこと…て、テルプに言われたら…ゆ、許すに決まってるよ…。 そ、それに…。 (えい!っと自分からキスをして…唇が離れると恥ずかしさで目を伏せる)
わ、私だって…。だ、だから、おあいこ…。 (漂う空気の熱さと甘さにグラスの中の氷がカラン、と音を立てて溶けていった)

テルプ 1btg

もう、ホント、ノチェだって、ずるい…。
離れようとする唇を追いかけて。逃がさないように引き寄せて。 トレードマークのマフラーを外すとのぞく首元の、 白い素肌に噛みつくように何度もキスを。
──おいで。

椅子の背もたれに、そっとマフラーをかけると彼女を抱き上げて 邪魔の入らぬ自室へと、運んでいこうと

なんか、あんま、余裕ないかも。
──いい?

アノチェセル 18k0

(唇から、噛み付かれた先から、熱が広がる。「おいで」の声に誘われるまま、引き寄せられるままに、身を任せて)
うん…。
(他の二人が戻ってきたらとか、兄や養父母の事など、既に考える余裕もなく…。一度だけ頷くと真っ赤になって俯いた)

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テルプ 1btg

愛する彼女を抱き上げたまま階段を上ると、片手で無理矢理に扉を開けて、 …ゴツンと何処かぶつけた音がする。
……ごめん。
気を遣う余裕もあまり無くて、簡単な、素っ気ない謝罪だけ。 アノチェを降ろして、ドアをしっかりと締めたなら そのまま柔らかな身体を壁に押し付けるようにして、深い深いキスを繰り返す。

アノチェセル 18k0

いた…っ。…テルプ?

ドア枠に頭をぶつけて擦っていると余裕のない声。 降ろされて、彼が振り返ってドアを閉める間が、とてもゆっくりに感じられた。 これからされる事を想像してしまって、顔が熱くなる。 そんな興奮した頭の片隅で、警告のように冷静な考えも浮かんで。
(…そういえば…もしかしたら…今日…)

そんなことを考えていると、覆いかぶさられる。 炉に火が着いた様な、熱い視線。 繰り返される深い口付け。
ま、まっ…て…!てる…んぅっ!
始まってしまったら、火が着いてしまったら、きっと燃え盛って、灰になるまで止まらないと思った。 押し付けられて自由の利かない身体を何とか動かして、腰の鞄から小さな包みを取り出して、テルプの前に。 本来の行為の…営みの目的を、妨げるもの。

これ…つけ…て…。

彼女の手に握られたそれも。 無理に喋ったせいで、あどけなさの残る唇から零れる唾液も、言葉も。 いたいけな少女には似つかわしくなくて、それがかえって卑猥に見えた。

テルプ 1btg

恥じらいながら差し出されたそれは、その手は震えているようで。
……ずっと、持ってたんだ?

ね、ノチェ、俺を待っててくれたって思っていい?
君もずっと欲しがってくれてたって、思ってもいい?
差し出されたものに逆に煽られたのか、身体の熱は上がる一方で。 その手に、指に、舌を絡ませる。

俺ずっと、我慢してて。それでも「前」の、初めての時まで待とうって。けど、もう、無理。
君に会う度、話すたびに、たまらなかった。 君とひとつになりたくて、ずっと待ってたんだよ? ……だからさ、ちょっと、だけ、このまま……。 衣服に邪魔されてもどかしそうに、布の上から身体を掻き抱く。
途中、で、ちゃんとするから。ね、最初だけ。無しで、……いい?
今までに無いほど欲望に支配された表情で、それを信頼など出来るのか。 そんな事も考えられないくらい、熱に浮かされて。

アノチェセル18k0

「欲しがってくれてた?」の言葉に、ふしだらな自分が恥ずかしくなって顔を一層赤らめる。 そ、それは…。

指に這わされた舌にぞわぞわと、肌が粟立つのを感じながら。
ご、ごめんね…はしたなくて…ごめん、なさい…。 わ、私…。 だ、だって、私、テルプのこと、こんなに、好きで…。 熱っぽい、潤んだ瞳で見つめ返せば肯定と同じで。

わ、私、テルプの…テルプとの子供が、欲しい…。 けど、ま、まだおばさん達にも紹介してなくて…。もし、子供が出来たら、さ、流石におばさん達びっくりしちゃう…。 わ、私、今日、………そういう日かも…しれないの…。だ、だから…今日は…着けて…。
お願い…。
揺れ動く想いの中、恥ずかしさに睫毛を震わせて懇願する。

テルプ 1btg

はしたない?
ううん、嬉しい、よ。言ったでしょ、俺のこと、君のものにしてほしいんだ。 ノチェはさ、もっと欲張りになってもいいくらい。 震える声で、そんな風に懸命にお願いされては聞き入れない訳にはいかないのだけれど、 恥じらう表情に。…自分にしか見せない潤んだ瞳に、堪らぬ衝動が身体を駆け上る。
俺も、ノチェとの子供ならいつでも、欲しいくらい、なんだけど。 うん、……じゃあ、ちゃんと、つけるから。

それを受け取らぬまま、彼女の手に持たせたままで。 今にも伏せられそうな顔を、両手で包んで頬を撫でるように視線を合わせる。
じゃあ、今日は、子供の出来ない……、キモチイイだけの事、しようか。

アノチェセル 18k0

…え?
ずっと「それ」を握っているから、余計に羞恥心を煽られて…緊張で汗ばんでくる。 そ、それって…どう…いう…?
受け取られない「それ」と、「キモチイイだけの事」が頭の中で結びつかず、首を傾げる代わりに不安げに瞬きをした。

テルプ 1btg

だって、そうじゃない?
本来、生命の営みの行為だった筈なのに、不自然にこんなのつけて、それを妨げて。 そんなのただの快楽じゃん。

扉の前から、彼女を抱き上げて寝床へと移動する。 ふたりで腰掛けると、低く作られたベッドがぎしと軋んで。
それを。
ただ、キモチイイ事を。俺との快楽を。
「ノチェが」望んでくれるのが、俺、すごく嬉しいんだよ。

アノチェセル18k0

―――――――っ!

気付かされる。
いや、突きつけられる。
本当は分かっていたこと。
本来の営みの目的を達せられないのなら、別の日にすればいいだなんて、もう無理だ。 だってもう、火はくべられているのだから。


…うん…。

わ、わたし…。
あ、あの…あの…えっと…えっとね…。
て、てるぷと……した…した…。
…い……。です…。

肝心な部分は口元に耳を寄せないと分からないほどか細く。
羞恥のあまりぽろぽろ涙を零して。

テルプ 1btg

息が彼女をくすぐる程に身体を寄せて、彼女に優しく触れながら 自分の装身具を外して脇へと避ける。

ねぇ、ノチェが、俺に、つけて?
耳元に唇を押し付けながら、頭の奥に、奥に響くように囁いた。

アノチェセル18k0

…え?
……あ…。

無意識に視線を動かした先と、手元の「それ」と、テルプの顔を交互に見詰めて…。 ぼん!と顔の火が爆ぜた。 身体が熱い、まだ始まってもいないのに、巡る血が沸騰しているかのようだ。
…わ、わかった…。 う、うまくできなかったら、ごめん、ね…。
躊躇いながらも覚悟を決めると、彼女は震える手で、そっと封を切った。

テルプ 1btg

……かわいい。可愛い。かわいいよ。
ノチェ、すごく、うれしいよ。
目元に何度も口付け、涙の味を楽しむように舌で転がして、 彼女の髪をすく様に撫でて、余裕の笑みを見せているつもりだけれど、 実際のところ、はやる気持ちを宥めるのに必死で。

彼女の手を引くと、自分の方へ、くつろげた衣服の隙間へと導いた。 腰骨の上、素肌に触れるその手は震えていて、緊張のせいか指先は冷たくて、 そのまま、その手が自分と同じ熱を持つまで触れるようなキスを繰り返して。
顔が離れると、そのままじっとアノチェの顔を、その動きを見守るように。 時々頬に、耳元に、髪に、指先を這わせる。触れるか触れないかの距離で。
どうすればいいのか躊躇する彼女に、脱がせて? と、座り直すように身をよじる。


ほら、……はやく、欲しがって?
こんなに、君を、待ってるんだ。

密着した身体が、欲望の形を布越しに彼女へと伝えて。 彼女が少し手を動かしたならすぐに2人を隔てる布は除かれるだろうけれど、 その手に意志を込めるのは、今でも既に精一杯な風な彼女には酷だろうか。

1btg

幕が上がる様に布が取り払われたなら、そこから始まるのは観客の要らない秘められたダンス。
ちゃんと上手に踊れたかどうかは、ふたりだけが知っている。