モシュネー

第三期:彼の落としてきた記憶の欠片

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ついにテルプの故郷へとたどり着いた3人が見たものは。

赤坂 天矢 1btg

テルプさんの住んでいた村の名は、モシュネー族集落 マッカ地方の砂漠に囲まれた山。地図で言うと黄色の印が付いた辺りらしいです。

「精霊と約束した」という昔話が残るモシュネーの民は、 精霊の守る宝石を手に入れる事ができる唯一の一族…らしい、です。 あくまで伝説だそうですが。
その集落を半支配していたトト族は、不公平な約束によって モシュネーの民を働かせ、その富を得ていたとの事でした。

モシュネーを支配していたというトト族ですが… 彼らの言い分では、トトとモシュネーは兄弟村であり 富と引き換えに食糧などを都合していたとの事ですが ……村は食うに困るほどに貧しかった、と語るテルプさんの話を聞く限り、 きらびやかな装飾品で身を飾ったトトの人達が、モシュネーの民と対等であったとは ……僕は、考えにくいかな……。

赤坂 天矢 1btg

テルプさんの父親であるメルポネさんに会いに行った緑の町。

メルポネさんはテルプさんの事も、奥さんの事も忘れていて、 新しい家族を作って、幸せに暮らしているようでした。 幼いころのテルプさんが一度彼の元を訪れているようなので、 その時にかけた、という呪いの効果の一部なのかもしれません。 ここでテルプさんは、メルポネさんに「彼の息子の髪が赤く見える呪い」を かけたそうなのですが。……意味も意図も分からないまま、ですね。

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赤坂 天矢 1btg

この旅の間、何度も広げた地図を、指して。
──さて、ここ。赤の印の町に戻ってきたのは トト族のカマラさんとの約束を… テルプさんの村へと連れて行ってもらうという約束を果たすためです。

赤坂 天矢1btg

カマラさんはトト族の長の娘であるのですが、 テルプさんが水色街にいる時、彼女が村へと手紙を届けていたというくらいには 親しいお付き合いをされていたようです。

彼女の話によりますと…。
15年前の飢饉で、トト族からの食糧が途絶えたモシュネーへ支援したのが 西方教会の宣教師であり吟遊詩人でもあるネダさん。

彼の作った鐘の力で、モシュネーはトト族の支配から逃れ、 テルプさんはネダさんと共に、水色の印のついた街へと。 そこで、文字や歌を教えてもらっていたらしいです。 街で3〜4年 暮らすうちに、テルプさんはこの街の裏社会に足を踏み入れて。 催眠術の効果を持つ歌を利用した犯罪行為に手を貸したり、していたらしくて。

その後。
テルプさんとネダさんの作ったという鐘の音が故郷の村人を狂わせて、 「精霊との約束」を破らせた。 掟に背き、無理に鉱山を広げたせいで、坑から毒が出て…村の人たちは死亡。 それを見たテルプさんが…ネダさんと何か言い争った結果 ネダさんを、……恐らくテルプさん自身で、殺害?

本人は少し気が触れたようになってしまい、 保護しようとしたトト族の前からも姿を消してしまう。と。

テーブルの上に広げられたノートには簡単な年表のような物が書かれている

651 :大凶作のあった年に、ネダに連れられたテルプが水色の街へ。カマラに頼んでモシュネーに仕送りをしていた

653 :テルプが父であるメルポネに会う? 呪いをかける

〜次第に素行が悪くなる〜

655 :モシュネーの鉱山から出た毒により村人は全滅。テルプはネダを殺し、その後行方不明

656 :赤い印の街の郵便屋にテルプからの小包が届く。前任配達員が見たモシュネーは既に無人

663 :配達員ダイナに代替わり。モシュネーの死体はミイラ化

664 :テルプ かげつきのクランに入る。出会ったのはアティルトの冒険者ギルド。小包を送り続けているがおそらく全て戻ってきている

665 :←
666 :←↑今このへん

赤坂 天矢 1btg

というわけで、砂漠の街に戻ってきたワケなんですけど。

フェリクスさんは、日焼け対策万全ですか? サングラスみたいなの売ってたので買ってみましたけど、使われますか?

普段ならばトト族は、もう町の外にキャンプを張っている時間帯らしい。 日は傾いて砂漠は赤く燃えるように。 この先の道のりを想像してすでにうんざりとした顔をしつつ、 毛布のような布に身体を包んだ赤坂は、ふたりの方を見る。

フェリクス 1avd

あ、ありがとよ。目元がヒリヒリしてきてさ… 早く夜になってほしいぜ。寒い方が全然マシ。 これが苦手だからオレ、あんま砂漠には営業来ねえんだよ。ノイゼンの方がずっと多い…。 (日差しが相当嫌いなのか、肌を隠して布がぐるぐる巻きになっている。その上にサングラス(みたいなの)を着けた様は不審者そのものだ)

赤坂 天矢 1btg

フェリクスさん、何かこういうのすごく似合いますよね…。 うん。似合うかなって思って買ってきたんですが。うん。

アルバさんにも買ってきたほうが良かったでしょうかね。 砂漠で鎧ってすごく熱くなりそうなイメージがあります。目玉焼きとか作れそうな。

フェリクス 1avd

…プロデューサーって呼ばれたい気分になるな…。

(アルバの方を見つつ) 大変だよな、鎧は…。オレは着れそうもねーよ。機会も多分ねーけど。

アルバ 18k0

ああー、暑い、熱い。鎧は熱い。 だから俺砂漠渡る時布めっちゃ巻いてただろ? 直射日光当たるとマジ焼けるから…。蒸れるけど焼けるよりはましだ…。
あー俺この旅終わったらめっちゃ風呂はいりてー…。

赤坂 天矢 1btg

……遅いですね。約束の日は今日の筈なのですけれど。 メルポネさんの言うとおり「嘘吐き」のトト族なんでしょうかね。 温かいお茶のような何故かスパイシーな飲み物を飲みつつぶつぶつと文句を言ってる
アルバさんは……カマラさんへのおみやげOKなんでしたよね。

アルバ 18k0

中々こないトト族にぶつぶつ文句を言っている赤坂に 「嘘ツキ」かあ…。カマラのヤツは少しは信用してもいいと思うんだよなあ。 他はわかんないけど…。 だからロザリオ渡したんだし…。

──ああ、お土産はさ、これ! 買ってきた。 イズレーンに近かったじゃん、あの街。 多分これイズレーンのお菓子だと思うんだよな。 ほら、土産用と別で買ってきたんだ。食ってみろよ。 そう言って小さな箱を開けると干菓子が綺麗に碁盤の仕切りの中で鎮座している。 色とりどりの淡い色彩で花や動物の技巧が施されていて、見た目も美しい。 のに、アルバは思いっきりばりぼりと噛んで食べている。情緒が無い。

フェリクス 1avd

土産、そういうのにしたん?茶と一緒に食う奴だよな。 東の菓子ってあんま甘くないんだよな。 砂糖が貴重なら菓子みたいな贅沢品には一杯使うもんだと思ってたけど、 所違えば味覚も様々だよなあ…。(こちらも情緒なくぼりぼり)

ま、時間にルーズな奴の方が多いんだぜ、こういう地方ではなおの事な。 待ってりゃ来るだろ。こんくらいでイライラしてっと禿げるぜ?

赤坂 天矢 1btg

アルバから差し出されたお菓子をつまみながら
こういう技工を凝らした食べ物ってほんと、芸術品ぽいですよね。東西かかわらず。 作るのにどれほど時間がかかってるんでしょうね。 横のぼりぼりかじっているふたりの代わりに、菓子職人に謝罪を入れたい気分にかられつつ

……は、禿げ…。

父親の頭髪をふと思い出す。遺伝が大きな要因を占めるというが、それならば行き着く先はあれだ。 この、てっぺんの分け目から、「来る」のだ……。突然憂鬱な気分になる。
どんよりとした気持ちに合わせて空も次第に暗くなり。 篝火が灯り始めた頃にやっと、巨大なトカゲのような生き物を駆るカマラが現れた。

カマラ 1btg

すまない! 待たせた!
途中で少しトラブルがあってな。あぁ、大したことじゃない。 なので私ひとりで来たが、……まぁその方が色々動きやすくて、好都合だろう。

……ほら。確かに、返したぞ。 アルバにロザリオをぽんと手渡す。

アルバ 18k0

お!きた!おーい!カマラー! ブンブンと手を振って。 トラブル?大丈夫なのか? まあ確かに他の奴らくるよりカマラだけの方が気持ちは楽だな…。

ロザリオを返されて お、おう、ありがと。 そだ、カマラ、はい、これ。 イズレーン産の菓子だよ、此処じゃあんまりみかけないだろ? と土産をカマラに渡す。

カマラ 1btg

イズレーンの、か。 アルバから受け取った箱の蓋をずらしてちらりと中を覗くと その美しい造形を目にしておもわずにんまりと。 しかしすぐに表情を引き締めて。

カマラ 1btg

有難くいただいておこう。……急いだ甲斐があった。
箱を大事に仕舞いこむ。

フェリクス 1avd

…トラブルって、あんたが抜けて大丈夫なやつだったんか? まあ約束を守ってくれてる以上、変に首は突っ込まねーけど。

(日が沈み辺りが暗くなると、何故か名残惜しそうにサングラスを外して)

カマラ 1btg

ああ、問題ない。後始末まで終わっている。 行程が少し遅れてしまってな。私ひとりで飛ばしてきた。 こいつが頑張ってくれたよ。感謝するといい。 砂竜の首元をぽんぽんと叩くと彼?彼女?は心なしか嬉しそうに目を細めて。

すぐ出発するぞ。準備はいいか? 少し水を補充してくるから、これに乗って待ってろ。

以前はキャンプから少し離れた所に待機させてあったらしいトカゲ。 トトの一族が砂竜と呼ぶ生き物だそうだが、見上げるほどにでかい。 背中に、馬車に似たキャリッジが取り付けられていて、何人かで乗れるらしい。

アルバ 18k0

これにのって…て…。 でか…! こんなの乗りこなすのか、流石戦闘民族(関係あるのだろうか)
結構かわいいなー、こいつ。 そっか、こいつが頑張ってくれたのか。 ありがとなー、トカゲっち。 トカゲをツンツンしたそうに見上げながらキャリッジに乗ろうとする。

フェリクス 1avd

おう、さっさと動きたいとこなんでな、上で待たせてもらうぜ。

(乗り物には慣れているのか、特に戸惑う様子もなくキャリッジに乗り込んだ) アルバ、ちゃんと乗れるか? 赤坂もはよ乗ろうぜ。こいつが乗れなかったらオレ一人じゃ引っ張れねえ。

赤坂 天矢 1btg

ぼ、僕、控えめに言って比較的どんくさい部類に入りまして。 乗ろうとしてずるずるとずりおちている。悪戦苦闘。

アルバ 18k0

ほら、行こうぜー。 キャリッジには問題なく乗れたようで後から来る赤坂を引き上げて手伝ってやる

カマラが戻ってきた頃には、3人しっかり準備が出来ている事だろう。 キャリッジの両脇には何やかんやと大荷物。 砂竜が走りだすと馬車に乗っている程度の揺れで。 急激に下がっていく気温に、毛布にくるまって丸くなる。

カマラ 1btg

寝心地は悪いが、しっかり寝ておけよ。バテるぞ。

アルバ 18k0

ああ、大丈夫、連れて行ってくれるのに贅沢はいわないよ。
そうは言いながらも今度は鎧の金属が容赦なく体温を奪っていくようで、 毛布に丸まりながら身を震わせていた。
こいうやって寒さの中で毛布に包まってガタガタしてるの、ガキの頃思い出すな…。 あんときはアノチェと身を寄せ合ってたっけ…。 うとうとと眠りに引き込まれていく。

赤坂 天矢 1btg

身を寄せあいましょうか。勿論冗談ですけど。

……アルバさん達はノイゼンの方出身なんでしたっけね。 テルプにちらりと聞いた記憶があるような。…いや、直接アルバから聞いたのだったっけ。 記憶を辿りつつ、同じ様に毛布にくるまって、目を閉じて。
僕も、ノイゼンの方だったんですよね。出身。…あのまちは、さむくて、さみしい……
ぽつりとつぶやいて。言葉の最後の方はそのまま寝息へと変わり。 浅い眠りと揺れの中、砂漠を進む。
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イラスト:かげつき

赤坂 天矢 1btg

カマラさんは砂漠慣れているせいか、 土産の干菓子をぽりぽりと上品に齧りながら飄々としたものだったけれど、 旅は決して快適なものとは言えず。 出発の後夜通し駆け、日差しの強い日中を砂竜の影で休み。 次の夜を越えて、夕刻にやっと山の麓に辿り着いたのだが。

カマラ「ここから歩きだ」
爽やかに笑う彼女の言葉に気が遠くなりそうになりながら。

赤坂 天矢 1btg

荒れた岩山の道は尖った石が無数に散乱し、 所々にひどく攻撃的なトゲを持ったサボテンと野生の山羊が見える他は、 岩肌と、それを申し訳程度に覆う背の低いハイマツの仲間が生えている程度の 山道を黙々と歩き続けて。

よく郵便やさん、こんなトコまで来てくれたな。 鍛え方が違うんだろうか、などと考える。 (後から聞いたことだが郵便局では小型の翼竜を飼っていて、 悪路ではそれを使うのだとか)

空気が薄くなってくると、これを噛むといいと手渡されたコカの葉。 あ、これ知ってる。依存性のあるやつだ、思い出した。 遠慮しつつ、キャンプを提案する。

赤坂 天矢 1btg

……そんな大変な思いをして。
やめときゃよかったと何度も思いながら辿り着いた村は

すべてが砂に塗れていて。

アルバ 18k0

流石に疲労の色が隠せず、着いた直後に座り込んで
鎧…置いてくりゃよかったな…。 この険しい道をアノチェが歩くのかと思うと…違う意味で、止めたくなるわ…。
…それでも、アイツは行くんだろうな…。 容易に想像できてしまって、アルバは笑ってしまう

そのまま。 座ったままで、辿り着いた場所をぐるりと、見回して

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石材と日干し煉瓦の砂色の壁の、 不格好に崩れかけた住宅が岩肌に張り付くように、ぽつりぽつりと並んでいる。

第一印象は蟻の巣、だった。 石混じりの砂に、ぽかりと黒く穴が空いたような。 所々、その穴の上から、恐らく当時は扉の役割をしていたと思われる ボロボロの布が垂れ下がっていて。

中を覗くと、壁と同じ材質のテーブル、かまど、 ベッドらしいものの上の毛織物など、 遠い昔の、生活のあとが見て取れた。

村の中心に、広場と、 …塔(というには背の低い、唯一2階建ての建築物)が建っていて。 それが墓標の様に見えるのは、この累々と並ぶ亡骸のせいなのだろうか。

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話に聞いていた通りの光景が広がっていた。 村の人々は、乾いたミイラと化してなお……互いに手を繋いだり、踊るような姿勢だったり、 恐らく色とりどりであっただろう毛織物の着物で、 小さな粒の石のネックレスは、指で砂を払うと美しい極彩色をそのままに残していて。

赤坂 天矢 1btg

……聞いた話の通りなら。 死んだ人をひとりひとり、こうやって着飾らせていたんでしょうかね。
珍しく、大きな石のはまった指輪をした女性が横たわっていて。 その宝石に触れると、かさりとした音と共に指が崩れた。

カマラ 1btg

──やはり、居ないか。 この真ん中で、歌っていたんだよ。 広場の真ん中には大きな鍋、その横を示して。

テルプは幻の魔法に長けていて…、彼のちからで、ここに彼自身の幻を作っていたようだ。 その魔法が、失われてしまったんだろう。
周囲を見渡すと、何か気付いたように顔を上げる。 そうだ、少し待て。鐘の音だ。あの音が無い。 あれがその術の一部なのかもしれない。 ……少し待っててくれるか。そこらを見て回っていても構わんぞ。 そう言い残すと、塔の中へと歩き出す。 崩れないかどうか、慎重に。

アルバ 18k0

休憩して落ち着くと、探索し始める。 並んだ村の人々に軽く祈りを捧げると衣類や装飾類を調べる。 砂色一色の景色で、死体に添えられた宝石の色だけが浮いているように見えた。

ぐるりと今度は周りを見渡して、 家…と呼ぶにも苦しい、掘っ立て小屋みたいな穴のなかに入って、暫く探索すると次の穴へ

…テルプの生家はどこかなと思ったけど、さすがにわからねえか。

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家の中で目につくのは、石の食器、錆びたバケツ、シャベルやツルハシ。 黒曜石のナイフ。木で出来た道具が非常に少ないが、時折、糸紡ぎ。など。

立ち並ぶ住宅の中心、塔の正面にあたる位置に、一軒だけ大きめの建物がある。 他の家には無い木の調度品が置かれ、明らかにひとつ身分の高い者が住んでいた様子。 蔵らしい奥の部屋には、石の扉に鍵までかけられていて、 食糧が入っているらしき麻袋やチーズ、酒瓶が沢山保存されている。 隙間から入りこんだのか、砂とホコリににまみれてはいるが、 瓶の中身は残っているようだ。……品質の程は保証出来ない。

アルバ18k0

ここだけ他の家と違うな…。 「おかみさん」の家だったのかな…。 アノチェセルから何となく聞いた話を思い出して。 中に入れば明らかに違う、他と恵まれた環境であった様子に、アルバは苦い顔をした。

…鍵までかけて…。 他のやつらにわけてやりゃいいのに…。

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そしてその隣。 他の貧しい家と同じような造りの家に入ると、 先に中を覗き込んだ赤坂が「う?」などと変な声を上げて思わず一歩下がった。

部屋の中。壁一面に、『テルプ』の名前が無数に書き記されていた。 子供の書いたような落書きのような拙い字。 恐らく木炭でか、特に寝床の横の壁は黒く塗りつぶされているかの様に ぎっしりと、その名が刻まれていた。

アルバ18k0

家の中の壁一面に書かれている「テルプ」の文字。アルバも異質さを感じて立ち止まってしまう。

…テルプの家、か…? まさかこんな形で知るだなんてな…。

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部屋を見回すと、同じ様に彼の名が書かれていると思われる小さな黒板がひとつ、 寝床の脇に落ちている。(かなり汚れていて判別が難しい)

他の多くの家と大して変わらぬ生活用品の他に 棚(と言っても壁をくりぬいただけ)に重厚そうな箱が、 とても大切な様子で置いてあった。

中には小さなおもちゃの指輪や不格好な楽器のようなもの。石ころ多数。 お菓子の包み紙らしいきらきらの紙や半透明の紙。 ドライフラワーや押し花と。……多数の手紙が、 その中だけ時間が止まっていたような状態で保存されていて。

アルバ18k0

…開けていいのかなとも思ったけど、 この旅自体がテルプの秘密を暴いていってるようなものだもんな。今更だな。

テルプが落としたものを、自分が…いずれは、妹が見つけるのだと。 アルバは手紙を読み始める。

差出人の名はテルプ。仕送りと共に届けた母への手紙。 字の読めない彼女へと、カマラが全部読んで聞かせていたのだと 旅の途中で聞かされていた、それに間違いないだろう。

几帳面に年代順にまとめてあるらしく、 順に読んでいくと、下手くそだった字は時を追うごとに整い、 自由帳を破ったような紙はいつしか便箋(サボテン柄)になって、 その後花柄を経て、透かしの入ったやや豪華な物へと。


一通目は手紙とは言えない代物で。

手紙 1btg

 人物らしいものの絵。控えめに言って下手くそだ。 かろうじて笑顔なのだろうとわかる。その横に、同じく下手くそな字で 「てるぷ」「おとうさん」 「おかあさん だいすき」

 おかあさんらしい絵が一番大きく描いてある。それだけの手紙。

重ねてある手紙を、おそらく最も古いものから順に目を通していく

手紙 1btg

 もじを おぼえたよ てがみ かくます
 おかあさんも てがみ かいてね
 おてほん おくる から れんしゆう してね
 おれのなまえ かいてね

(おてほんらしい。やはり下手くそな『テルプ』の文字が下に大きく書いてある。綺麗に仕舞ってある手紙の中、このお手本だけが汚れてシワだらけになっていた)

手紙 1btg

 げんきです うた おしえてもらた
 ごはんもいっぱいたべてます たのしいです
 おかあさんも みんなも
 いまは ちゃんと ごはんを
 たくさん たべられるとききました
 おれだけおなかいっぱい なの
 いやなので よかった

手紙 1btg

 ししょうは ものしりで、
 いろんなことを、おしえてくれます。
 おまつりには、あたらしくおぼえたうた、
 うたってあげるね。
 まちは とてもたのしいです。
 パンがふわふわなんだよ!
 おみあげも、もってかえるね!

手紙 1btg

 ときどき さみしくなったときは■■■
 ちゃんと、かーちゃんのことばを
 おもいだして、えがおでいます。
 えがおでいれば、しあわせって、
 おれもそう思います。
 町はすごくたのしいから、だいじょうぶだよ。

誤字を消したのだろうか、ところどころ黒く塗りつぶされて読めない部分がある。

手紙 1btg

町はとても楽しいです。何でもあります。お祭りの時にしか食べられないさとうのぱんもまいにちある。すごい。おれの歌をみんなよろこんでくれて、お金をくれます。みんなをしあわせにする歌なんだって。かーちゃんが言ってたこと本当だった。いっぱい稼いで、美味しいものを送ります。えいよう付けて、元気になってね。

手紙 1btg

俺のうた、たくさんの人に聞いてもらえる。 俺のうたは、みんなを幸せにする歌なんだよね。かーちゃんがそう言って笑ってくれるのが、俺いちばんうれしかったんだ。楽譜っていうのがあって、それは歌の文字なんだ。それを読めばどんどん新しいうたが覚えられる。かーちゃんにも聞かせたい! 聞いてほしいよ。一番聞いてほしい人に聞いてもらえたら、俺はそれだけで最高なんだ。■■■お祭りには、帰るよ。いっぱい聞いてね。

 とげとげサボテンの便箋に、どこかサボテンに似た力強い文字が並ぶが、これ以降、便箋は美しい花をあしらったものへと変わっている。 …

手紙 1btg

砂糖を送ったよ。皆に甘いお菓子を作ってくれって、おかみさんにお願いしてほしい。お祭り以外でこんなの食べられるの、初めてだね。山のかみさまは俺たちを守ってくれるって言ってるのに。おいしい食べ物も楽しい事も何もくれない。どうしてみんな、掟を守っているんだろう。

手紙 1btg

師匠に身だしなみに気をつけるようにと、かっこいい服を買って貰ったよ。すごく立派で吟遊詩人って感じ。みんなにもらったネックレス、捨てるようにと言われたのだけど。俺にとってはとても大切なものなんだ。石の価値とかじゃなく■■■ …そっちに送るから、大事にとっておいて。今度帰る時はびっくりするよ。俺、ずっと街に住んでいた人みたい。かっこいい!

手紙 1btg

文字とか歌以外にも色々勉強して、師匠は色んな事を教えてくれる。ごはんを食べるのに「食べ方」なんてのがあるんだって。歩き方とか挨拶の仕方とか、誰が偉くて誰と誰が友達なのかとか、そういうのが社交界では必要なんだってさ。偉い人達はどうでもいい事ばっかり気にしてる、この人達は一体どんな事が幸せだと思うんだろう。

手紙 1btg

こっちの家畜は俺たちよりいい物食べてる。そんな場所でかーちゃんの病気なんて良くなるわけ無いよね ■■■ 食べ物を送ります。少しは、まともな生活に■■■ 少しづつでもしていこう。俺がしていくよ。ね。
(乱暴に、乱れたような文字)

手紙 1btg

(この手紙の前半は、ペンで囲って大きく乱暴なバツ印が付けられていた。慌てたのか、塗りつぶされた部分が甘く、内容が読み取れる。)
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色んな事を勉強して、色々なことが分かるようになってきた。飢饉の時に師匠から受け取った食べ物は俺と交換だったって。それが「売る」という言葉で表現されることも。ロクに働けない俺は鉱山にいてもお荷物でしかなかっただろう事も。それが仕方ない事であることも。よく分かるんだ。分かるから、大丈夫。身体のせいでかーちゃんが肩身の狭い思いをしていないか、それだけが心配だ。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ あととーちゃんの■■■■■■■■■■■■ 勉強して、たくさんの事を知りたいと思っていたけど、忘れてしまいたい事も増えてくるね。悲しくなんてない、笑顔でいれる。俺はそんな現状を何とかしたいし、そこからみんなを助けたいよ。
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(バツ印ここまで。ここから下に向けて矢印が書いてある。)
かーちゃん、だいすきだよ。俺と離れてさみしい? 俺の歌聞いて?今度帰ったら、いっぱいぎゅーーーってしてほしいな。俺いっぱい笑顔でいるから、ね。
(カマラが言うには、このバツ印は手紙を差し出す直前に彼自身がつけたものだそうだ。「ここは読まないでくれ。下だけでいい。なにか聞かれたら…難しいことが書いてあるとか言って誤魔化してくれ」と)

手紙 1btg

師匠に、西の大きな集落へと、連れていってもらった。そこでは宝石を売る事でとても裕福な生活をしている、南部でもかなり権力を持った集落だそうだ。俺の村からトトのおっちゃん達が街へと持って行ってた宝石は随分と高値で売れたらしい。一緒に送った指輪、これ一つで3ヶ月は食えるよ。

カマラが言うには、モシュネーは昔トトと争って負けたんだって。俺達にばかり働かせてうまいとこだけ持っていく。兄弟なんて都合のいいことばかり言って、笑わせる。神様なんて、俺たちを支配するための作り話じゃないか。掟が俺たちに何か得を与えたか?俺達の山には宝石があるじゃない。村をずっと大きく出来るよ。トトと決別した今、後生大事に守る必要なんか無いはずだ。
今度村長さんとも話がしたいと伝えて欲しい。

手紙 1btg

大きな仕事を任されるようになってきた。俺の歌が求められているんだ。かーちゃんの好きだった歌が。いつか村のみんなをあの村の呪縛から解き放って。そして本当に、幸せになろうね。俺の歌は、嘘しか作れない。だけどね、かーちゃん。その嘘を求める人がたくさんいるんだ。俺の歌を欲しがって、俺よりもずっと賢くてえらいと思ってた人が、俺に歌を乞うんだ。滑稽だ。
この歌は、なんだって出来る。
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(大きく、濃く、自信を持って書かれたその文字が表すのは、無邪気さか、傲慢さか、愚かさなのか。  …これを境に便箋はレースの様な透かしが入った高価そうなものに。手紙の文章は淡々と事務的なものになる。)

手紙 1btg

 かーちゃんへ 食べ物を送りました。忙しい。ごめんね。

手紙 1btg

 かーちゃんへ 食べ物を送りました。

手紙 1btg


(事務的な手紙が10数枚ほど続く)

手紙 1btg

祭には帰ります。いい歌覚えたので、皆に歌ってあげる。苦しい生活は終わりにしよう。
俺の歌は皆を幸せにするんだ。必ずね。

手紙 1btg

村長さんに改めて、ありがとうって伝えて。師匠も喜んでた。大きな取引になるって。かーちゃんも町へおいで。水だっていつでも飲めるよ。そんなところ身体にいいワケ無い。もう何にも縛られることなんて無いんだから。


(保管してあった手紙はここまでだ)

アルバ 18k0

…………。

何も言葉が出ない。 テルプが何を考え、何を思ったのか…。 ただひたすらに、母親の事、村をよくすることを思って。 この手紙には、まだ師匠…ネダへの信頼が読み取れる。 そのネダにすら利用され裏切られたのだ。村の崩壊をもってして。

アルバ 18k0

震える手が手紙を握りつぶしてしまいそうなのを、 そして視界が歪みそうになるのを堪えた。
(…泣くのは俺の仕事じゃない。寄り添って泣いてやるのはアイツの役目だ)
なあテルプ、赤坂の言うとおり、本当はわかってるんだよな…。 それでもアノチェを此処につれてくるんだろ…? …お前が落としてなくしたもの、アノチェにしっかり拾ってもらえよな。

…信じてるからな…。

手紙を丁寧に戻して。棚にしまう。 これだけ大事にとっておいていたのだ、母親もきっと苦しかったんだろう。 この壁いっぱいの字はもしかしたら母親が練習で書いたのかもしれない。 そう思うと気味の悪さが少しだけ和らいだような気がした。

赤坂 天矢1btg

────。
同じく押し黙る。

アルバ 18k0

…カマラの方は何かわかったのかな…。

---------------
いつしか、広場の塔からは鐘の音が聞こえてきていた。

カーンカーン、コーン、カーンカーン、コーン……

心地よい澄んだ音が、遠く、村中に響いている。 しかし広場に出てみても、カマラの言う「うたうテルプ」はどこにも見えない。

赤坂 天矢1btg

……もう魔法の効力が、無くなってるんでしょうかね…。 塔を見上げたり、輪になった村人を見て回ったりしながら

この山に来た時から、強い魔力を感じます。 霊山、と呼ばれるような、そういう場所ですね。 むかしばなしの精霊、とかも、あながち作り話とも言い切れないような。

こういう場所はよく宗教本山として栄えたりする場合もありますけど、 ……大抵、不便な場所っていうか、……人を寄せ付けない場所にありますよね、そういうの。 以前、神龍山に鉄を掘りに行った事を思い出して。あそこも険しい山道だった。 成程規模こそ違うが、似た感じかもな、などと思う。

アルバ 18k0

広場に出て、鐘の音を聞くが、赤坂同様何も見えず。
赤坂、そういうの分かるんだ?凄いな! 俺そういうの全然わかんねーや。

神龍山な、俺も行った事あるよ。 あんな険しいのに、そこそこの教会やら神社やらがあるよな。 …まあ、神様が簡単に会えちゃったらありがたみがないんじゃないの? 俺はそんなありがたみ興味ないけど。 十字を背負った仮にも聖騎士が言う発言とは思えない言葉を、しれっと。

赤坂 天矢1btg

……魔法に関しては、すっごい勉強してたんですよ。これでも。 いや。両親に「勉強させられてた」っていうのが正しいですが。 結局、彼らの望む様なまほうつかいにはなれなかったですけどね。

アルバ 18k0

誰かの望みなんて、自分の望みと合致してなきゃ気にしなくていいんじゃないかな。 あー、でも赤坂の性格って人の望みに合わせそうだよな(結構失礼な事を言っている)
いいじゃん、やらされてたことだって、ちゃんと赤坂の血肉になってるんだからさ。

カマラ 1btg

どうだ。駄目か。
塔から降りてきたカマラが声をかける。 彼女が広場へ降り立つと同時に、突如中心に揺らめく少年の姿が現れて。


ああ、ほら、これだ。
……お前たちにも、……見えて……いるよな?

アルバ 18k0

ふわりと現れた幻を見て。
…これが…。

赤坂 天矢1btg

───??
この場にカマラさんがいないと見えない幻、という事でしょうか…。

……儀式に様々な道具が使われるように、 カマラさんの存在が、この魔法の発動条件になっているのでしょうか。 あくまで推測ですが。

アルバ 18k0

赤坂の仮説を聞くと暫く考え込んで
魔力のある人間じゃないと扱えないとか、そういうものなのかな。 赤坂があの鐘鳴らしたらまた違う光景がでてくるとか?

カマラ 1btg

……そういえば、これは、あの時私が見た光景、だな。 現実を、受け入れられずに、壊れてしまった友人の。

10歳とちょっとの赤毛の少年は、楽しそうに歌っていた。 みんなに貰ったという石のネックレスを首にかけて、 師にもらったというリュートを手に、みんなを幸せにする歌を歌う、幼いテルプは。 時々誰かと話をしたりしながら(そこには誰もいないのだが) ただただ、楽しい音楽を奏で続けるのだった。

フェリクス1avd


────。
あいつ……。

アルバ 18k0

カマラが見たままの光景…。

あのさ…10年前に郵便屋がこの村に来た時も、鐘の音が聞こえてたんだってさ。 もしかして村がこうなった後も時々来てたのか?カマラ。

カマラ1btg

…ん? いや、殆ど来てないぞ。あの後…村の命日毎に3回だけ、来たかな。 郵便屋が鐘の音を聞いたのは、…10年前だって? よく動き続けたものだ。 ふむ、あの鐘はな、自動演奏だ。見てろ。
カマラが顎で塔の上を指すと、小さな金属製の風車がからからと回るのが見え…、 一定数回った後、また鐘の音が村に響く。

風車と鐘とを繋ぐ鎖が劣化して落ちていたのを、直したんだ。 ちょっと引っ掛けただけだから…またすぐに、落ちてしまうかもしれないな。
上を見上げながら。塔にもたれ掛かるようにして腕を組んだ。

アルバ 18k0

ああ、成程な…。風力だったのか。 誰か人が来て鳴らしてるのかと思ったよ。

カマラ1btg

元々、この塔はネダが作らせたものだそうだ。 トトの民を退けるために。術者が不在でも風の力で鐘を鳴らし続ける。 彼の作った魔法の鐘の音を聞くと、私を除いたトトの民は皆、 身体に異常をきたして、ここには近づけなかった。名づけてトト避けの鐘と、これは我々が勝手に呼んでいただけだが。と付け足して。
その後…トト避けの鐘に代わり、テルプの作った2番めの鐘があそこに据えられた。 テルプの鐘は、村人の精神に作用して、…掟を。禁忌を破らせて。 それが神の怒りに触れて、この有様という訳だ。 ぐるりと、死体を見回した。

鐘の音は、時折吹く風に合わせて虚しく音を響かせ、 その度テルプの姿はゆらりゆらりと、掻き消えたり、現れたり。

カマラ1btg

村がこうなってしまった後、テルプはひとりで、最後にもうひとつ鐘を作った。 その最後の鐘が、この幻を作り出している様だな。

「皆を幸せにする鐘だよ」と、そう話すテルプはとても嬉しそうで、 いくら「もう行こう」と言い聞かせても この鐘の音に合わせて、ずっとずっと、歌っていたんだ。 よく覚えている。これはその時の映像だ。

当時を思い出すように、歌う少年を眺めている。

カマラ1btg

しかし、どの鐘がテルプの最後の鐘か分からなかったから、 置いてあった3つの鐘を全て鳴らしているのだ。 村人を狂わせた鐘が混じっていたなら、何か我々に悪影響がでるかもしれんな。
あっけらかんと。

赤坂 天矢1btg

えっ それってまずくないですか?
慌てた赤坂の言葉にカマラは、 まぁ、長く聞いてなければ大丈夫だろう、多分。などといい加減な返事。

アルバ 18k0

ちょ、カマラ、横着すぎね?
村人を狂わせたという2番めの鐘の音が、アルバ達にどう影響するのだろうか…。

カマラ1btg

1日2日でどうにかなるものでは無い。 …………多分。(横着だ)

いや、まぁ、すまない。真面目に説明しよう。
私はテルプから少々、幻術と催眠術を教わっていてな。 幻術や、相手の行動を妨げる攻撃の歌とは違い、 催眠術… 人に能動的な行動を取らせる という魔法は、随分特殊なのだそうだ。

彼が村人にかけたのは「暗示」。 あの音を聞くと、…恐らく「掟を破ってでも富を貪りたくなる」ような、そういう暗示。 暗示というのは魔法である必要は無い。それを発現させるのは音や歌である必要もない。 相手の心に入り込んで、その暗示を植え付けるだけ。 村人がテルプに対して心を開いているから、だから心の奥まで入り込める。 ……ネダの歌では駄目だったんだと。 テルプ自身が、自分の大切な者達に自分で暗示を与える必要があったんだろう。

──だから、2番目の鐘 は、ただの音。暗示にかけられた人間にしか、効果は発揮しない。はずだ。 つまりお前たちに悪影響は無いぞ。    ……多分。

赤坂 天矢1btg

多分……
不安を覚えつつ。

アルバ 18k0

俺も少し聞いたことあるよ。 「本人が心から望めば俺の歌は届くはず」だのなんだの。 それってさ、村の人たちも心の奥底に貧困への恨みとか、富への欲望を持ってたってことだよな。

でもなるほどな、さらに術を使う人に心を開いてないとだめなのか…。

赤坂 天矢1btg

(3つ重なった鐘の音を聞きながら) 自動で演奏、は分かるんですが、……最後の鐘 は暗示じゃなくて幻術、でしょう? 術者無しで、魔法をかけ続けるみたいなものじゃないですか。 そんな風に何年も、音に魔力を乗せ続ける為には、 何か大きな触媒が必要なことが多いのですが。
──この土地に満ちる魔力を利用して、とかになるのかな。

ぶつぶつ呟きつつ。
魔法の仕組みが気になるらしい。あちこちキョロキョロしている。

アルバ 18k0

大きな触媒か…。うーん、どうなんだろ、赤坂何か分かるか? きょろきょろとしている赤坂に問いかけて

トト除けの鐘もわかる。 脳を麻痺させておかしくさせる鐘もわかる。 でも最後に作った鐘の意図がわかんねえ…。 いつまでも村があるように思いたかったのかな…。

話していると、突然ゆらりと、空気が揺らめくような。
鐘の音に合わせ、そこに先程よりも幼いテルプが広場を駆け抜けていくのが見えた。

カマラ1btg

……あれは。
あれは初めて見る幻影だな。

驚いたように見送った背中は、すぐに消えるが、 村のあちらこちらに、時折、うっすらと楽しそうな少年の姿。時折村人の姿も。 現れては消え、笑い声が響いては消えて。
これは、……これも、私が昔見た光景なのだろうか。 村人とテルプとの会話が聞こえる。祭の準備をしているらしい。 蜂蜜を持って帰ってきたから、チーズにかけると最高だ、とか。 ……ああ、そんな話もしたな。なんとなく、覚えがある。

イラスト:かげつき

アルバ 18k0

祭りの準備をしている幼いテルプを眺めて。 幻といえど、笑う子供の姿には目を細めて笑みを浮かべている。

赤坂 天矢 1btg

──ネダさんのトト避けの鐘 が攻撃の歌で、2番目の鐘 が村人への暗示の発動の歌。 最後の鐘 が、幻影の力を持っているとして…。

話を聞く限り…、二の鐘 以外は、何らかの魔法の力が必要になると思われます。 この山、この霊山全体、あるいは山に存在する大きな魔力のかたまり…。 それをこの鐘まで導く、何かが…。あるはず…。
ぶつぶつ言いながら村の奥に向かって歩き出した。 鐘の音が遠く聞こえていて、時折、幻のテルプとすれ違い。

アルバ 18k0

あ、赤坂おい、あんまり奥いくと危ないって!おい…! 慌てて後を追う。

フェリクス1avd

(幻術が発動してからは黙って幻のテルプを眺めていた。嫉妬か同情か、その目は険しい。鐘の音が響く様と、幼い彼の歌に、聞き惚れているようにもとれる)
……あいつ、本当、今までは、歌を…
(まとまらないままにぼそりと呟いて、赤坂達を追って山の方へ)

鉱山に近づくにつれ温度が上がり硫黄の匂いが。 湯気か煙か、白く立ち上る穴などがあり、少々身の危険を感じ始めた頃、 ひとりの男性の姿が見える。

カマラ1btg

……ネダだ。

険しい顔で、カマラがその名を告げた。

その男性の幻は。
ゆらりゆらり消えそうになりながら、少年の姿のテルプと向い合っていた。

アルバ18k0

…あれが?!