孤児院の主の目覚め
第三期:巡る、めぐる
孤児院の主たちを目覚めさせるために、双子たちが戦う──。
話は数年ほど前に、遡らねばならない。
アルバとアノチェセルの養父であり孤児院の主でもあるフォウ。その妻、君鳥。
ふたりは黄昏の門の調査のため、孤児院を残った者たちに託して遠征に出た。
……しかしそれ以来、彼らからの名で仕送りは送られてくるが、ふたりの行方は分からず、
双子達は帰りを待ちながら孤児院を守り続けていた。
いつからか、自分たちの中の君鳥に関する記憶が曖昧になってしまった事に疑問を抱きながら。
ある日。一人の記憶喪失の少女が孤児院に身を寄せる。
「一葉」と名乗る少女はアルバとアノチェセルを支えて共に孤児院を守り、冒険に出る日々を過ごしていた。
ひとつめの巡りが終わる時。
時間の巻戻りと同時に、一葉は自分の記憶を取り戻し、……同時に消えてしまう。
新たなる巡りの始まりの際、アルバとアノチェセルは、一葉の存在を忘れてしまっていた。
ある日ついに、行方不明の養父母…フォウと君鳥の行方の手がかりがもたらされた。
イズレーンのとある教会に辿りついた双子たち。
そこには、昔、孤児であった君鳥を保護していたという女性、亜鳥がいた。
亜鳥は双子の来訪に驚きつつも、事情を聞くとこう言った。
「貴方達の養父母は、黄昏の門の調査の際、天命喰らいと遭遇し、ここに飛ばされてきた。
それからずっと、意識が戻っていないのだ」と。
フォウと君鳥名義の仕送りは、亜鳥の手によるものだったという。
眠り続ける養父母と再会したアルバとアノチェセルは、そこで全てを思い出したのだった。
養母が思念を実体化し、「一葉」として双子の側に居てくれたこと。
双子の記憶を消してまで、守ろうとしてくれていたことを。
双子たちは、ふたりの意識が戻る事を信じ、
クラン「穀潰しどもの寄合所」のクレメンティから蘇生薬を貰い受けると、養父母に飲ませるのであった。
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そうして立ち上がったのは
おばさん…!?
蘇生薬の副作用だったのだろうか。
いまだ目覚めぬ君鳥の身体から立ち上がった彼女自身の思念体。
彼女は古い記憶に囚われて、現在の自分を忘れてしまい、
あろうことか双子へと攻撃を加えてくるのだった。
双子たちは君鳥の心に、声を届かせることが出来るのだろうか。
あの時と同じ、すべてを拒絶しようとする闇の力…。
だけど。
…相手に聞く耳さえ持たせることができれば…説得を試みてもいいかもしれません。
持って…くれるのかな…。 俺達に出会う前のおばさんなんでしょ…? さっきだって、俺達を…。
それでも、元を辿れば今の君鳥から生まれているものです。
…君鳥ちゃんが、貴方たちを実の子供のように深く愛していることを、私は知っています。
…大丈夫。信じて。
貴方たちと、君鳥を。
(亜鳥は二人を真剣な眼差しで見つめた)
……君鳥…!
おばさん!俺達の声を聞いてくれ!
頼むから…!
お、おばさん…!
(「君鳥」という単語に、「それ」は漸く反応を示す。振り返り、攻撃をしようとするその手を、もう片方の手が押さえる)
(がくがくと、抑えた腕が震えた。堪えるように、止める様に。だが次の瞬間、タガが外れたように弾かれ、先ほどと同じ、光の矢が放たれ―)
【戦闘ロール 】
※2d10
双子のHPを100とする。
最初だけ先制は双子から。
以後値の大きい方が小さい方に差の分だけダメージを与え、先制攻撃をしかける。
双子は基本説得のみなのでダメージではなく差の分だけ説得度の加算。
説得度100になったら成功、それより前に双子どちらかのHPが0になれば
失敗として一度撤退する。
くそ…!やるしかないのかよ…!
おばさん、ごめん…!
(光の矢を盾で受けつつ、槍で足払いをしようとする)
…おばさん…。
お、おばさんが褒めてくれた歌、こんなに歌えるようになったんだよ…!
おねがい…!この歌を聴いて…!!
(73-49=24)説得度24
足払いが効いたのか、ぐらり、と体が傾き地面に倒れこむ。衝撃で自我を取り戻すかと期待したが…
ゆっくりと立ち上がるとかすかに何かを呟き、手にいつの間にか握られたメイスで攻撃しようとする
(49-02=47)アノチェセルのHP:53
歌が届くよりも光の矢が早かったようだ。彼女目掛けて矢は迷いなく進んでいく
(膝をつくが彼女は歌い続ける。その耳に…届くまで)
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その頃のテルプは、遠い空の下で彼女を想う
アノチェ、元気でやってるだろうか。
アルバがついているから安心だとは思うけど…。
おじさんおばさんも、はやく目が覚めるといいな。
彼女と一緒になる前に、ちゃんと挨拶しておきたいし。
少々気の早い話ではあるが
結婚式。世界で一番綺麗なアノチェを、見てもらいたいもんな。
…自分で言って恥ずかしくなってクッションを抱いて床をごろごろしているが、気を取り直し。
みんな、無事に帰って来ますように。
ああそうだ、そろそろまた孤児院を手伝いに行こうかな…。
(洗濯物を干し終え、空っぽになった洗濯カゴを持ち上げながら孤児院の方向を見る)
アルバもアノチェセルも、小さい子供たちも頑張っているんだ。
孤児院の主…早く目が覚めるといいんだけれど…。
(ふと、いつだったか孤児院に居た癒し手の女性の顔を思い出す。別れも告げずにいつの間にか姿を消していた彼女を最後に見たのはアルバを亡くし、打ち拉がれるアノチェセルに寄り添う姿だっただろうか)
(オルゴーは急に双子の事が気がかりになり、空を見上げ…強く祈った)
(……何だか、妙に気に掛かりますね)
(部屋で広げていた書を閉じ、窓辺へ歩み寄って空を見上げるその脳裏に何故か、歌う妹と護る兄の双子の姿が浮かぶ)
――何かに、立ち向かう必要がありますか?
己が傷付いても、その手を伸ばしたいのですか?
でしたら、及ばずながらその想いを援けますよ。
(恐れず、進み、掴み取るのです!)
(料理をしながら思い浮かべる、お菓子作りが上手で優しい歌声の少女と、いつも明るく元気をくれて弟たちと自分を守ってくれる少年のこと)
お二人とも無理をしていなければいいのですけれど…
はやく、主さんもお元気になると、いいですね…
(まだ会ったことのない主さん。今度許されるのならば明るい色の花を持ってお見舞いをさせてもらおう。そんなことを思いながら)
(調理場の窓辺に飾られた赤いサルビアが、ふわり、風に揺れた)
アルバが?…姐さんの薬を?なんでまた…
(そう薬師から世間話をされたのはいつだったか。あれからずっと喉の調子が悪い、魚の小骨が引っかかったような、違和感。そういえばあの孤児院にちゃんと行ったのは、何がきっかけだった?)
(今うたわないと、と理由のつかない焦燥感に駆られて、足を向けたのは共同墓地)
あークソ、オレは魔法の才能なんてこれっぽっちもねーんだからさ、
こんな嫌な予感だって気のせいであってくれよ…!
(頭を掻きむしって、地面につばを吐いて、弦の音合わせをして、足を肩幅に、目線は空に。渡り鳥の羽ばたきに合わせて歌うのは、友の詩)
(どこからともなく、彼らを案じる声が聞こえる…。消えた思念体を思う声、彼女の…未来の伴侶の無事を祈る声、ふたりを想う声…歌…。それらは力となって、事態の好転を後押ししてくれているようだ)
説得度にプラス補正
(アノチェセルの唇から、美しい歌声が紡がれる。その歌は、初めて養父母に披露した、賛美歌だ)
(おばさん…聴こえる?どもって、聖書も上手く唱えられなかった私を、ずっと優しく見守ってくれてたよね。歌を披露したら誰よりも喜んでくれたよね…。今ここで倒れたって、何度だって、歌うよ…!)
(歌が…聞こえる)
(とても懐かしい歌だ)
………。
(ピクリと、耳が反応を示す。繰り返し光の矢を作り出そうとする手を、今度こそ、もう一方の手が止めた。明滅するように、思念体の姿が入れ替わる。闇から光へ。光から闇へ。命令系統を失った矢は暴発し、辺り一面を乱反射の如く駆け巡った)
亜鳥さん!アノチェを!
(亜鳥がアノチェを守ってくれることを信じ、振り返らずに君鳥の元へ駆ける)
うああああああああああ!!
(暴発した矢が、頬を掠める。鎧を砕く。槍で矢を弾き返しながら、突き進む。一歩手前で、槍すらも投げ捨てると、彼女を抱き締めた。思念体なのに、まるで生きているかのように、温かさを感じられた)
(抵抗はない。アノチェセルの歌に反応しているようで、時折ピクリと動いた。声は、聴こえているように感じられる)
(今なら、聞いてくれるだろうか)
…おばさん…。
ね、ねえ。聞いて?おばさんを、み、見つけたとき…。
わ、私達ね、一葉を思い出したの。
(それは巡る世界の直前の出来事。礼拝堂で記憶を…自分が何者であるかを取り戻した一葉が、消える直前に祈りの言葉を呟いたのだ。「自分はどうなってもいい、あの子達を守って」と)
―そう、どうなっても―
おばさん…なんだよね?
一葉のことも、わ、私達からおばさんに関する記憶の一部を無くそうとしてまで、守ろうとしてくれたことも…みんな。
い、今だって。
(副作用で具現化した負の感情とはいえ、元々は守ろうとした意思だった筈だ)
……おばさん。俺達に、こう言ってくれたよな。
「もう、いいのよ」って。
もう、こんなことをしなくていいって。
俺達、あの言葉に助けられたんだ。
おばさん達に子供ができてからも、ずっと…ずっと気にかけてくれて。
なんで、この人は俺達の事をこんなに気にかけてくれるんだろうって、不思議で。
お、同じだったんだね…。おばさんも、ずっと……苦しめられてきたんだね。
……あ、あのね、わ、私達、もう大丈夫なんだよ。
もう、守られなくても、大丈夫。二人で…ううん、それぞれで歩いて生きていけるよ。
だ、だから…。
おばさんが俺達を守ろうとして、その力を使っているなら。
大丈夫。俺達は、もう子供じゃない。
逆に俺達がおばさん達を守るよ…!
だから…。
「「もう、いいんだよ」」
思念体の…若い少女の姿が変化し、彼等がよく見る、優しい養母の姿になる。 淀んだ瞳に光が戻ると、その視界に彼らを捉えて…。 名前を呼ぶ。小さく、それでもはっきりと。
アルバ…
アノチェ…
あの小さく、泣いていた雛鳥が、成長し立派に輝いているその姿に、彼女は微笑むと……思念体の姿は霞んで消えていった。
眠る君鳥の元へと急ぐ双子たち。
ふたりに手を握られた彼女は、そっと目を覚ます。
アルバ…アノチェ…ごめんなさいね。
……ありがとう…。
う、ううん…!
戻ってきてくれて、ありがとう…!
イラスト:かげつき
「「おかえりなさい!!」」