セーバーの指輪
第三期:巡る、めぐる
赤坂の持っていた指輪は、おそらく枷でもあったのだ。
ある日のこと。かげつきのクランに届いたのは、クラン *いしのなかにいる* からの知らせ。
いしのなかクランとかげつきのクランは、護衛・スカウト・ヒーラーという、互いに似た構成でありながら、少しづつスタイルの違う戦い方に
お互い学ぶところは多かったのか、共に冒険に出ては切磋琢磨していたのであった。
さて、最近になって、クラン*いしのなかにいる* は鍛冶職を始めたらしく。
こんにちは
前に少しお話しする機会があったので
ご挨拶に伺いました
今期ではもう少し、皆さまと一緒に行動できると良いなと思っております
それで、いきなりで何なんですが
世界が一巡する前、手前共は鍛冶をやっていて
そこの、ヒーラーの彼に少し役立てそうな物があるのですが
もしよろしければ使ってはくれませんか?
無理にとはいいませんが、使って頂けるのであれば
ショップに取り置いておきますので、ご連絡下さい
突然の有り難い知らせを受けて、慌ててヒーラーである赤坂が クラン *いしのなかにいる* のリーダーである あかまつ に、挨拶に向かった。
あ、どうも、こんにちは、先日は、どうも、すみませんでした。
こちらこそ、その。是非ご一緒させていただきたく、どうも。
(あかまつの目線がとても真っ直ぐに感じて、何となく怖気づきつつ、挙動不審気味にぺこぺこと何度もお辞儀をして)
え、と、僕に、何か……、という事で、その、ありがたく、いただきに来ました。
ショップの方、覗かせていただきますね。
鍛冶、は、前の期に僕らも少しやってみたのですけど…。まぁ素人鍛冶ですが。
大変なものですね…。あんなに手間がかかるものだとは思ってませんでした。
あれはあれで非常に楽しかったので、落ち着いたら一度本腰を入れてみたいとも思ってますので
その際は色々、ご教授いただけますと、幸いです。
解った、店は開けておいたから、いつでも取りにきてくれ
あぁ…鍛冶は本当に難しい。
本職の人は、やはり凄いと言わざるをえない。
材料から仕入れるとなると、時間と手間がかかりすぎるし、
その分、探索とは違った楽しみがあるのも、確かなんだけどね
あぁ、俺たちで知っていることでよければだけど
それじゃ
受け取ったのは、魔力を帯びた指輪。 敵の攻撃を退ける力を持っている……、非力な魔法使いにとっての強力な防具であった。
どうも、お邪魔します。こんにちは。
あの、ショップの方、お邪魔させていただきまして、あの。
ありがとうございます! 使わせていただきます。ありがとうございます。
(ぺこりぺこりと頭を下げて)
あの。前で戦ってらっしゃる方もいるのに、こういう言い方はアレなんですが。
何ていうか、「戦いを避けるもの」というアイテムで、僕を思い出してくださったのが。
その。とても、嬉しいです。──重ねてになりますけど、ありがとうございます。
お役に立てるように、何とか自分なりに、やってみますので。その。
よろしくおねがいします。(深々と頭を下げる)
あんま気にすんなよ!
使ってくれる人がいるってんなら、それが何よりだからさ!
回復はウチんとこの、あおいも使えるんだが、アイツがいうには
他の人のスタイルってのも、見てみると勉強になるんだと。
二人いれば戦闘でやられる心配も殆ど無いしな!
それから、開店に手間どって申しわけなかったね。
いやー、墓が間抜けでねぇ、本当にすまない。
とにかく、今後ともよろしく頼むよ!
クラン*いしのなかにいる*のみなさま イラスト:かげつき
さて、新しい指輪を入手したという事は……
今持っている指輪は、要らなくなったという事、なのだが。
この、指輪の代わりになるものを、いただきまして。 これまで、ずっと身につけていた銀の指輪をテーブルに置いて。
…指輪の代わり? 新しい指輪? いただいた?
赤坂っちも誰かと婚約したの?!
スルーしていいですか?
──今まで、ずっと、学園で貰った指輪をつけてたんです。
魔法学校の、生徒に配られるもので。集中力を高めてくれる効果のあるものです。
これは仮の指輪で、卒業と共に「セーバー」……【護る者】の称号とともに、
真の指輪、…仮の指輪よりも効果の高いもの、が、貰えるんですよね。
赤坂殿は、学園を途中で辞めたと聞いているな。
嫌になって、飛び出してきたと。
それでもその指輪をずっとつけていたのは、…単にその魔法の効果が高いから、ではあるまい?
──両親の期待した僕が、ここに居るんじゃないかと、思いまして。
この指輪に。
強い魔法で、敵をなぎ払い。皆の先頭に立って、戦うような。
力を振るう事で誰かを、皆を護る【セーバー】という存在。
そんな自分を望む自分が。ここに居るような気がして。
(学園から貰ったという銀色の指輪には魔法文字で装飾がなされていて、それを指でつまみあげると、何となく、懐かしい物を見るように)
でも、もう、いいや。
(ふと、笑うと、指輪をピンと指で弾き、それを右手で握りしめるように受け止めた)
魔法金属だから、そこそこの値段になると思うんですよね。
売っちゃいましょう。
そこはさー、赤坂っちー 売るんじゃなくて、
こう、川とか海とかに、とやーーーー! って投げ捨てるとかさぁ
未練とか全部捨てる! みたいな方が、かっこよくない?
売ったお金でおやつでも買います?
わーーい赤坂っち好きー♪ 売ろう! 売ろう! 俺っちあれがいい、砂糖固めたお菓子ー。
……和風のものがいいな。 或いは甘味控えめのものか。
期待させて悪いですけど、全然安いかもしれませんからね?
(共に連れ立ってタウンへと。そういえば、こんな風に3人で出かけるのも初めてだな、と思いながら)
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あ、どうも、いらっしゃいです、えと、……あおいさん。
何か飲まれますか? 珈琲とか、……珈琲とか。──カフェオレとか?(珈琲から離れられない)
不手際だなんて、とんでもないです。助かってます。本当に、有難うございます。
テルプ「赤坂にコーヒーの話させたら、夕方になっても帰れないよ?」
(奥の部屋から吟遊詩人が、楽器の手入れをしながら茶化すように。赤坂に睨まれると苦笑して、軽く手を振るとまた作業に戻った)
え?…そ、そうなんですね。
でも、自分がそれだけ好きな事があるということは、素敵な事だと思いますよ。
今度、お時間がある時にでも、お話しを聞かせて下さい。
にこりと微笑みながら、赤坂の指輪を嵌めた手へと目をやって。
これは?…ちょっといいですか?
………
……
…
なるほど、多少使い方に差異があるようですね。
身に着けているだけでは、効果を発揮してくれませんから
……──、何か、不味い使い方してますかね…。 (指輪を見つめるあおいさんの姿にうろたえている)
本、ですか? はい、よく読みますよ。 休みの日とか、色々買い込んだりしてしまって…、本棚も随分と、増えちゃいました。 (困ったように、だけど何処か嬉しそうな)
そうですか!私も本は大好きで、魔導書の研究なんかはついつい時間を忘れてしまって…
…す、すみません!今はどうでもいいですね
それでは、コチラの本をお渡し致します。
【本の外装は僅かながら魔力を帯びた胡桃材で作られ、なめされた虎の皮が張られている】
その指輪は、この本の魔法を閉じ込めたものです。
指輪から力を引き出す事で、本の魔法を引き出す事と同じ効果が得られるのですが、
物体から魔力を引き出すのは難しいのかもしれません
その点、本ならば集中して詠唱をすることで、ある程度は魔力を引き出す助けになると思います。
本を読むのがお好きな方ならば、問題無く使えると思いますので。
【表紙にはSOGREFと書かれている】
さしずめ、ソグレフの書、とでも言ったところでしょうか?
なるほど、詠唱、ですか…。
(本を受け取った瞬間、ピリと魔力の流れを指先に感じたような気がして、
思わず手を引いて。
手にとった本をしげしげと眺め回し、表面をそっと撫でると
表紙を開いて、中に記された文字の列を口に出して。詠唱を)
ソ、グレ…フ?
(集中。中に眠る魔力を引き出すように。途端、指輪から大きな魔力が溢れだすのを感じた)
お、おお、なるほど。これは、すごい、魔力だ。
え、ええ?
そ、そうなんです?
まだぴりぴりとする指先を見つめている
SOGREFという文字列には、違う読み方があります
真言、というものをご存知でしょうか?
我々の居た世界では、この真言を唱えることで、魔法の力が発現致します。
SOGREFは二つの真言を合わせて作られた呪文です
SOとGREF…この二つです
読み方ですが…その様子ですと、概ね理解しているようですね
SO:シーンザンメ
GREF:ガインレーエインフォー
SOGREF:シーンザンメ ガインレーエインフォー
SOは【透明な】という意味で
GREFには【壁、体】という意味が込められています
よってSOGREFは【透明な体】【透明な壁】を意味し、術者の回避能力を高めるための呪文です
完全に透明になれるわけではないので、過信はできませんが
真言……。
異国の術でそういったものがあるのは知識としては知ってます、けど。
──自分がそういった術を使うことになるとは、思ってもみなかったな。
(本の表紙をゆっくりと撫でながら、
持ち運びしやすいようにコートを改造でもしようかと思っている)
過信、は、しないように気をつけますけど…
これで、痛い思いする事が少なくなりそうですね。
──あの、本当に、ありがとうございます。
(ぺこぺこと、何度か頭を下げて)
いえ…誰にでもできるものではありませんから、
きっと、貴方は我々の世界でも術者として通用する素質を持っているのでしょうね
…私は、どんな魔法も…使う人の想い一つだと考えています。
その呪文を…どのように使うかは、貴方次第です
……
…
あっ!…スミマセン、つまらない話をしてしまいましたね。
……ああ、いえ。
使う者の想い。……ええ。その通りだと、思います。
いつだって、僕は、正しく、力を使いたいと、そう思っているんですけど。
正しい事が、正義というものが何なのか。
まだ、僕には、分からなくて。
(手の中でしっかりと重みを伝えてくる本に、目を落として)
(あおいさんの別れの言葉に顔を上げる)
あ、珈琲飲まれるなら、是非これ、持って行ってくださいよ。
最近お店の人に貰ったんですが、簡単なのになかなかの美味しさでした。
カップの上に乗せて、そのままお湯を注ぐと飲めるんですって。
あ、お湯を、注ぐ時は、ゆっくり、ゆっっっくりで!
(立ち去ろうとするあおいさんに小袋を押し付けて、扉から見送る)
ありがとうございます!
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*ごじつだん*
お湯を注ぐ時はゆっくり! という赤坂の言葉を実践しようと、
何時間もかけて珈琲一杯を抽出しようとする いしなか の3人!
注ぐ……いや、ぽとり、ぽとりと落とされる雫はすっかり冷めてしまっている!
『ネコ に こばん
ぶた に しんじゅ
いしなか に コーヒー』
……ああ…
珈琲が… 何処かで珈琲が泣いている声が……
僕には聴こえるんです!
赤坂っち…。 勉強とかしすぎてついに幻聴が……。