欠片を辿って
第三期:彼の落としてきた記憶の欠片
彼の記憶を巡る旅の、ここは最終地点。
(見えた男性の姿に眉をひそめた)
あれがテルプの師匠か。ネダ。トト族は”悪魔の手先”とか言ってたっけな。
(これまでの話の印象と、目にした人物を照らし合わせるように、不機嫌そうに注視した)
そこに立つのは端正な顔つきの細身の青年だ。 その表情は、冷たく見下すような、優しく笑うような、ただ無表情なような… 見る者によって受け取る印象の違うような、何とも表現しがたいもので。 長い金の髪は砂だらけの風に煽られているというのに輝きを失わず。
呪い、か。
馬鹿馬鹿しい作り話だと、お前もそう思うだろう?
偶然が、重なった。……テルプ。不幸な事故だったんだ。仕方ない。
静かに淡々と、その声は透き通るように。
その前に座り込んで、村中を駆けまわったように肩で息をする少年は……テルプは。 今の様な煤けて擦り切れた服ではなく、 ピンと糊付けされた襟の、よそいきの様な服をきちんと着こなして。
それで、村にみんながいなくなったら…信者の人を、入れるんだって。
古い掟に縛られた邪魔者を、排除して…って。
手紙を、……みたよ。
ねぇ、俺っち師匠の事大好きだよ。
村のみんな、おかみさんも村長さんもかーちゃんも
全部嘘だったんだ。きっとずっと俺っちのこと邪魔だったんだ。
師匠だけは。嘘じゃないって。
そう思ってたのに。
……どうして、壊しちゃうの…。
俯いて。震える声。
嘘を、ついたか? 私は。
……いいや、一度たりとも。
静かな声だ。
お前の事を売り飛ばし、お前が必死に足掻いた結果の金銭を受け取り、
それでもお前に報いぬ彼らなど滅びてしまえば良いと、私はずっと思っていたし、
そんな者のために無理やり笑うお前には、虫唾が走るよ。
ずっとそう言っていただろう。何処が嘘なものか。
話す内容にそぐわない、静かな…、感情を表に出さぬ抑揚のない声が続く。
なぁ、テルプ。私は何か、したか?
何もしていない。
……私は何一つ手をくだしてなどいない。
お前が望んだ事だ。
お前が歌ったうたで、お前が奏でた鐘の音で、お前が彼らを狂わせて
……お前が招いたのだろう、この災厄は。
もうお前を苦しめるものなど何もない。お前は自由だ。
……さぁ、来なさい。
一歩、前へと踏み出すその声音は今までになく甘く優しいもので。
師匠。
ねぇ師匠。俺の事好き?
かすれた声で問うテルプに、ネダは応える。
「勿論。あいしているよ」
静かな声。
ね、俺、たからものの部屋への道、知ってる。
師匠、俺の事あいしてるなら、「俺」に、ついてきて?
いっしょに、行こうよ。
貴方が望んでくれるなら。
顔を伏せたままの彼は、口元を大きく歪めて笑う。
ゆらりと、幻が揺れる。
と、同時に。陽炎が立ち上るように、テルプが「もうひとり」立ち上がって。
創りだされた幻影の少年が、ネダの方に向かって手を伸ばす。
本物の少年はその場に崩れ落ちたような姿勢のまま。
あぁ。…さぁ、手を
幻のテルプの手を取るネダはとても穏やかな、幸福そうな笑みを浮かべて。
イラスト:かげつき
座り込んだままの少年は、歩き出す「ふたり」をただぼんやりと、見送ることしか出来ないようだった。
彼自身に作り出された幻は、ネダの手を引いて、笑顔で楽しそうに歌いながら。
やがて、師の姿は火口へと向かう。周りの危険な景色など見えていないかのように、
幻に導かれて、……そしてその姿は炎の海の中へと消えて行った。
なんで。なんでそんなところだけ嘘じゃないの。
いっそ全部。ぜんぶ、ぜんぶ嘘でいいのに。
俯いて、かすれた声で、それでも口元には笑顔が、張り付いたように。
かーちゃん…かーちゃん。
ねぇ、どうやって笑うんだっけ。
俺っちどうやったら笑えるのかな。
笑ってないと。かーちゃんに、嫌われちゃう。
ねぇきらいにならないで。きらいにならないで。おれをみて。
肩が震える。
そーだ。俺っち知ってる。しあわせになる魔法。
ね、俺のうたは、だれかをしあわせに、するんだよ。ね、かーちゃん。
ちいさな、ちいさな声で自分自身に歌を。幸せの魔法を。
ほら、ね。
かーちゃんの言ってたこと、うそじゃない。
ふ、ふふ、あはは。
嬉しそうに笑う、その後姿にトコトコと歩み寄って声をかけるのは
……私だ。
戸惑ったような表情の、幼いカマラの姿で。
その後は、可笑しそうに笑い続けるテルプと、それをどうしていいか分からず立ち尽くす少女。 映像は突然ゆらりと途切れて、あとは岩の間からしゅうしゅうと湯気の吹き出す音ばかりとなって。
……あの日に、私の見た光景だ。
あの時。私には声は聞こえてはいなかったのだが、と。
先程の幻の、ふたりの声が聞こえていたのを不思議そうに。
只只立ち尽くすばかりで…。
…なあ、あれ…どう、思う…。
自分以外の誰かにそう、問いかけずには居られなくて。
「貴方が望んでくれるなら」に掛かる言葉によっては
歪んだ愛にも、金の亡者にも見えて。
人の真意など結局の所わからないのだ。
断定してしまうには余りにも色んなものを見すぎてしまった。
旅の果てに、辿り着いたのは
…かなしい…。
俺は…悲しい…って思う…。
唯一つの、感情だけだった。
どう、って…。
言葉が見つからないのか。
どうもこうも、……全部もう終わった話、じゃないですか。
いなくなった人の心なんて、残された僕らが自分の好きに推測するしか出来ないと、そう思ってます。
許される為にでも、自分を責め続けるためにでも。……そう、自分に都合よく。
僕は当事者でも何でも無いので。何も出来ないし。何を思う事も。
赤坂からのばっさりとした反応に
……お前って変なとこでポジティブというか…。割り切りが早いというか。
まあそうなんだけどさ。
ここにきて何も思わないのも薄情じゃん。
……あんまり「無関係」って思ってると足元掬われるぞ?
糸はどこで繋がってるかわからないんだから。
決して責めるわけではない口調で、そう苦笑して。
…割りきってなんて、ないんです。
ただどうしようも無いし何も出来ない、それだけが、事実なんです。
現在に対してすら無力であるのに、過去に、何が出来ますか。
抱えた後悔に対して悲しむ権利すらない、……そんな人間だって、いるでしょう。多分。
だから……見ないように、無かったことにするテルプさんの方法は、僕にとっては。
甘美で。
時々、望んでしまいたくなるのだ。彼の魔法を。
──どうであろうと。
テルプは全部投げ出したんだろう。村の人間も浮かばれないな。
言い放つように。
自分の招いたことも、あの村の光景も、全て忘れて、な。
人は過去から学ぶものだと、私は考えている。
彼が、この先、同じ過ちを犯さないように。──祈っててやるよ。
不機嫌に、怒っているように。
…カマラ?
あー、その反応、覚えがあるぞ…。
テルプとぶつかってた頃の俺まんまだ。
逃げてばかりの彼を知ったとき…しかも妹がそんな彼を好いている事に気がついたとき、
きっとこんな顔をしていただろうと、これまた苦笑した。
俺もカマラと考えは同じだよ。
過去がなければ俺じゃないから。
その上に積み重なって俺はいるから…。
そういやテルプにもそんな話したな…。
うん、祈っててくれよ、怒っててもいいからさ。
俺の妹がここに来たときに何かあったら困っちまうからな。
…アイツは必ずここに来る。
これは予感ではなく、確信だ。
アイツは俺よりずっと強いんだ。
…大丈夫、きっと。
ロザリオを握り締め、今は無念にも亡くなった村人へ祈りを捧げた。
…どうする?戻るか?
…オレたちがここに来たのは、知るためだけだぜ。
あいつの故郷がどうなっているのか、あいつ自身に昔何があったのか。
そしてそれもおせっかいのような好奇心でだ。
赤坂、お前が最初に危惧してた「このまま故郷に向かわせていいのか」ってのは今はどうよ。
オレは…むしろ、戻らなきゃならんって思う…。
あいつは、思い出して、清算するべきだ。誰のためとかじゃなく。
……戻ろう、もう用事はないだろ。
(返事も聞かずにひとり、踵を返した)
歩き出したフェリクスさんの質問に、顔を上げて。 …思い出す? これを? 思い出して、どうなるんですか。ただ…ただ、どうしようもないだけじゃないですか。 絞りだすような声は、背中を向けたフェリクスに届いたのかどうか。 結局ここまで来ても、赤坂には明確な答えを出せなかったのだった。
本当は分かっていた。
テルプさんは確かに、過去に向かい合おうとしている。少しづつ。
それは。
過去に縛られて足踏みしていたあの吟遊詩人に、自分が勝手に抱いていた親近感を
……裏切られたような、おそらくそんな気持ち。
鐘の音と少年の歌声が、立ち去る4人を見送るように。
*・゜゜・*:.。..。.:*・゜。*・゜゜・*:.。..。.:*・゜。
赤坂が途中、坂道を転げ落ちたりしつつも、何とか無事に下山して。
休憩もロクに取らない強行軍も、カマラは慣れたものだと足取りも軽く。
赤の印の付いた街まで送り届けると、ではな。と
疲れも名残惜しさも何も感じさせないあっさりとした別離の挨拶。
*・゜゜・*:.。..。.:*・゜。*・゜゜・*:.。..。.:*・゜。
そして彼女と入れ替わるように、3人を迎えてくれたのは、 テルプの昔なじみである、水色の街の歌うたい、ジャグジートだった。
あぁ、やっぱり、砂漠から戻ってくるならばこの町だと思った。会えてよかった。
仕事のついでだったから、と言い訳しつつ。そう言って分厚い封筒を差し出した。
テルプと、お師匠さんが住んでた宿の主人に、話を聞いたんだ。
そしたら、当時の忘れ物が保管されていたらしい。
…君たちに渡しておいた方がいいと思ってな。倉庫に突っ込まれてたから、状態はよくないけど。
中身は書籍数冊、手紙が何通か。
ジャグジート…!
そっか、本当に調べてくれたんだ…!
いや、信じてないとかじゃなくてさ、結構な手間だし、
ジャグジートはなんかテルプにちょっと思うところとかもあったみたいだしさ…。
ありがと、ありがとな、ついでだってありがたいよ。
そっか、まだ欠片が残ってたのか。
よく見つかったな。
3人はジャグジートから受け取ると手紙を読む。
彼らふたりの行方が分からなくなった後、しばらくしてから…
ネダの身内だと名乗る奴らが、荷物を引き取りに来たという事だ。
西方教会の僧侶が数人。ネダの持ち物はあらかた持って帰ったそうなんだが。
……だから残ってたこれは、多分テルプの。
幼子が使う文字や算数の教科書、そして多数の楽譜。
長年倉庫に入っていたせいか、虫に喰われたりカビが生えたりしている。
その中に、筆跡の違う一通の手紙が挟んであった。整った文字。
モシュネー村の件
件の村、やはり異教の神が「実在」している模様。
使役するためのまじないは失われているが、力の調節は可能。
また、山に眠る宝物の物語も真実である事を確認。
神官の役割を持つ者の洗脳に成功。
現在、神と民は我等の支配下にある。
時を見て援軍を頼む計画。悪魔を排除し我らの力とする。
斯く在れかし
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万年筆で書かれた手紙。宛先はエイワスの貴族街となっている。
…テルプの幻影で言ってた手紙は恐らくこれだな。 ってことはネダの手紙か。
それとは別に、何枚かの便箋が。破かれていたり丸められた跡があったり。
村で見た手紙と同じ、テルプの筆跡であったが、書きかけて、途中で止めたものばかりのようだ。
そこには村での手紙ではほとんど見られなかった内容の文字がたくさん並んでいる。
寂しい、会いたい、帰りたい。
それらの文字は必ずぐしゃぐしゃと、塗りつぶされていた。
届けられることはなかった手紙。
……。
子供の直接的な感情を訴えた、その手紙は、
孤児院の一員として幼き子等を守る彼にとってはクるものがあったようだ。
確認の為に、俺もこの辺、目を通したんだけど。
あいつ、いつもにこにこしてやがったから、……悲しいことなんて、無いんだと思ってた。
あの街にあいつがいた時に、もっと俺が一緒に居てやってれば、
あんな奴らと、付き合うこともなかったのかなぁ。
悔やむのに意味は無い事を知っている様な。しみじみとした物言いで。
まぁ、……3人とも長旅で疲れたろう。
とりあえず、お疲れ様。
ジャグジート、後悔は先にたたないけど、これからの事は変えていける。
テルプに限らず、迷える子供は沢山いるんだ。
俺は、孤児院にいるからよくわかる。
俺自身もそんな目にあった事があるから分かるんだ。
だから、次にそんな子がいたらさ、いっぱい話し聞いてやってくれよ。な?
あのさ、これ、俺がもらってもいいかな…。
時機を見て、アノチェに渡してやりたいんだ。
……お前は、いいなぁ。輝いてるな。
これからの事は変えていける、と、胸を張って言うアルバの姿に見とれるように。
いや、まぁ。うん…。ほんの少しなら、な。きっと変わるな。
うん、お前の言うとおりだ。……分かったよ。
子供の相手は得意じゃないんだが、と、苦笑しつつ。
──手紙は、お前らに渡すために持ってきただけだから、後は任せたよ。
そう、ですね。持っているとしたら、アノチェさんが適任かと。
…ありがと。
…赤坂がテルプの異変に気付かなかったら…それをフェリクスに相談しなかったら…。
さらに俺を連れて行く話を持ちかけてくれなかったら…。
全部繋がらなかったら、俺はここにいなかった。
…あんがとな。
手紙を受け取ると深々と頭を下げた。
──僕は、ただ…。右往左往していただけで。
アルバさんと、フェリクスさんの方が。その。……ありがとうございます。
あのふたりの…アノチェさんと、テルプさんの。
ふたりがあの現実にぶつかったときに…
あれを知っている人がいると言うこと、支えになるんじゃないかって、
……そう思うんです。
僕じゃ、多分無理で。だから、その。
ありがとうございます。再び感謝の言葉を口にして、頭を下げる。
やめろやめろ、オレだって何も大したことはしちゃいねえよ。まだ他人事だと思ってるし。
…あいつらの問題が一番近いのはアルバだ、それを渡すのはお前が適任だよ。
ジャグジート、わざわざありがとな。
今度どっかで一緒になったら演ろうぜ。この件の当事者も巻き込んでな。
…大丈夫だよ、あいつらなら。(楽観故か、確信があるのか)
…………そうか。 大丈夫、か。
そう言い切る吟遊詩人を、何となく眩しそうに眺めて。
あー、なんかもう、色々。色々敵わないんだよなぁ、俺は。そんな風に頭を掻いて。
よし、演ろう。……また西の方にも向かう事にするよ。
3人とも、こんなトコまで来てるのは、テルプ本人には内緒、でいいんだな?
もしもテルプに会ったら、素知らぬ顔しておくからな。
じゃあな、と、見送って。
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乗合馬車に乗ると、くたくたの心と身体は一瞬で眠りへと落ちて。
アティルトで降りた時、頭はぼんやりと眠ったままだった、ので、
この旅の原因となった彼が目の前に居るのが、まだ夢の続きなのかと。
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おっかえりー! えらく長い旅だったじゃん!
おみやげは?
にこにこと首を傾げて、両手を前へと突き出している。
あ、アルバ…! 長い事アルバが留守にすることがなかったので、駆け寄って抱きつく。 お、おかえりなさい!
わ!!わ!
…おま、勢い強すぎ…。
そういいながらも、久しぶりにそんな妹の反応がみれて嬉しいのか
…ただいま、アノチェ
少しだけ、いいよな、と妹を抱き締め返した
おみやげは、全部クランの方に送っちゃいましたよ…。重いですし。 残念ながら、すれ違いです。
えーーーー、マジでー?
ていうか、買ってきてくれたんだ。嬉しいなっ!
すっかり、何もかも忘れたままで笑いながら
おかえりの歌、などを口からでまかせに歌っている。
ま、お疲れ様。
アルバ、アノチェがすごく寂しがってたぜー。
ま、その寂しさは、俺っちが埋めておいたけどなっ!
ドヤ顔で、F氏が死にそうな発言をしつつ。
フェリもおかえりー。
お前は旅慣れてる感じだけど、……南の方だって? 流石にきっつそうだよなぁ。
空気乾いてるから、…喉とか大丈夫?
あーはいはい、惚気んなら他所でな!
(おおげさに耳を塞ぐジェスチャーをしている)
ああ、お前の出身のあたりなんだっけ?(しらじらしい!)
やっぱ砂漠はな〜大変だった。喉もそうだけど日焼けが特にな…。
ま、あのへんの酒が楽しめたのでチャラだけど。時々とんでもなく不味いのに当たったりする
のがまた、その土地柄とか歴史とか見えてやめらんねーんだよな、地酒巡り…。
…いや、酒がメインじゃなかったけどよ。お前も誘えばよかったな。(しらじらしい!!)
あー…、そういや、ちょっと顔とか赤くなってる?
……いや、それくらいですんで良かったっていうべきかなぁ。
まぁ、楽しめたみたいで、良かったじゃん。
色々、面白いもの見てきたんだろ?
そーいう話は、是非、歌にして聞かせてくれよ!
しばらくフェリクスの歌、聴いてないからさ。楽しみにしてるんだぜ♪
……俺っちお前の歌好きなんだぁ。何ていうか、『本物』って感じがするのさ。
俺っちの歌はほら、ちょっとずるっこだから。
掌に魔法の光を生み出して。
おそらく魔力の有無の話をしているのだろうが。
何を見てきたのかも知らぬテルプは、からからと笑う。
げ、赤くなってる?
ヤバいヤバい、皮膚がぺりぺり剥がれんだよ。コレ痛いから嫌なんだけどよー…。
生まれは高原だし、暑いのもそんな得意じゃねーんだよな。楽しいけども…。
……ああ、お前って本当、歌バカっつーか、なんつーか…
よっぽどお前の歌の方が『本物』ってオレは思うけど。
(そう思うのは、魔力の話とは関係なく、僅かでも生き様を知ってしまったからか)
…いいぜ、歌ってやろーじゃん。でもまあ色々済んだ後でな。
お前らが落ち着く頃までには作っとくよ。…あんま期待すんなよな。
そーぉ? 嬉しいな。お前が、そう言ってくれるなら。
掌の魔法の光は大きく、強く。
そのまま、思い切り上へと打ち出した。
『本物』だって言ってくれるなら。
嘘も。信じてくれれば、真実になるのさ!
ぱぁんと弾けて、昼間の花火。虹色に光って降り注ぐ。
ふ、フェリクスもお疲れ様…!た、楽しかった?
…あ、た、確かにちょっと赤くなってる…。
えへへ、歌ができたら、わ、私も混ぜてね?
み、みんなで歌うの、楽しみだなあ…!
にこにこと、また吟遊詩人仲間で歌えることを楽しみにしているようだ。
あ、あのね、ふ、フェリクスと、赤坂、さん。
あ、アルバと一緒に遊んでくれて、ありがとう…。
あ、アルバ、孤児院のことばっかり気にして、あ、あんまり遊びに行かないから…。
こ、こうやって旅行行ってくれるの、さ、寂しくはあったけど嬉しくもあったんだ。
ま、また遊んであげてね…?
まるで姉のような言い方で、後ろから「子供じゃねーんだし…」とむくれているアルバが見える
……遊びに、ですか。
そうですね、僕も、こういうの初めてで、…楽しかったです。
またどこか、旅行でも行きましょうか。今度は何処がいいです?
イズレーン? ヴァルトリエ?
冒険者稼業は、こういうの自由で、いいですよね。
本当に。楽しかった!
それは紛れも無く本心だった。……社交辞令と思われたって、構わない、と思いながら。
ああ…そうだな。 また、行きたいよな!行こうぜ! 次は、こんな誰かの過去を探る旅じゃなく、心から羽を伸ばせたらいい。 赤坂を小突いたり、フェリクスとバカやったりして…。
どこでもいいな、一人も別に悪かねーけど、やっぱダチと一緒にっつーのは特別だ。
ま、それまで貯金なりなんなりして、ゆっくり計画立てようぜ。酒場とか酒場とか酒場とかで…
(嘘も。信じてくれれば、真実になるのさ!)
(テルプの言葉が火花が弾ける音とともに、リフレインする)
…そういうお前も、その前のお前も。どっちも、本物だよ。
(誰にも聞かれないような声で、まぼろしの光を見上げつぶやいた)
イラスト:かげつき
テルプ
「今度は俺っちも行くー! 俺っちも つーれーてーけー。
え? とりあえず酒場だって? 今から? よし行こうかー!」
赤坂
「え? 今すぐなんて、言ってませんけど?!言ってませんよね?! ねぇ?!」
へとへとの3人を引きずって酒場へと向かおうと。
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テルプはふと振り向いて、自分の作った花火が、消えていくのを見た。
その飛び散る欠片たちは何だかいつもよりきらきらしていて。
子供の頃、拾って集めた何でもない宝物によく似ていて。
ここにいる友人たちは、そんな何でもない石ころだって
きっと、綺麗だと笑ってくれる奴ばかりなのだ、と。
心から誇らしげに、笑ったのだった。
彼の落としてきた記憶の欠片
*・゜゜・*:.。..。.:*・゜。*・゜゜・*:.。..。.:*・゜。
おしまい