後書きのようなもの
第五期:そしてこれからの話

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……というわけで。

お久しぶりです。天野さん、その後どうです?

おっすおーっす!
遊びに来たぜー♪

遠路はるばる御足労、感謝する。
茶でも淹れようか。──緑茶かほうじ茶、どちらが好みだ?

珈琲無いんです?

俺っちチョコがいい。

相変わらずであるな、二人とも……。 ──まぁほうじ茶で良いな。

あ、これお土産…カイムに寄って、買ってきました。
煮干しとか、干し魚系。あと牛乳も。アズヴィスくん、好きだったでしょう。
天野さんには、この……珈琲ミルとか豆とかフィルターとかの一式セットです。
手軽にご家庭でプロの味がいただけますので是非。

完全に君の好みではないか。
……アズは今出掛けておるよ。夕方までには戻ると思う。
出来れば直接渡してやってくれ。喜ぶだろう。

俺の方はー、アノチェお手製のパウンドケーキだぜー♪ 日持ちもするしー、
……天野っちにって言ったら何かちょっと和風?テイストで
作ってくれたらしいけど?
ノチェもアルバも、みんな天野っちに宜しく言ってたよー。
それはともかく、ケーキはまだ俺っちも食べてないから、切ってー♡

分かった分かった。本当に、……相変わらずだ。
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で、今日はどうした?
思い出話でもしにきたか?

まぁそんなトコですよー。
落ち着いて、全部終わって…皆どうしてるかなーって。
あとは、──今まで話せなかった僕らの昔の話、とか。出来ればなって。
バタバタしてたり、何だかんだで、僕らお互いの事あんまり知らないでしょう。

俺っちの話はもういいっしょ。天野っち用にまたやんの嫌だぜ? 悲しい気持ちになるから、とかじゃなくてー、──ちょっと長い話になっちゃうし。

大体の話は赤坂殿から聞いたよ。
あのちぇせる殿が居てくれて、本当に良かった。
ただ、無に等しかった筈の君が、未来に希望を繋ぐことが出来る存在と為れたのだから。

へっへ。そういや天野っちはチャスカの事見てくれたんだったよな。 だいぶ大きくなったからさ、びっくりするぜ。 落ち着いてきたから、そろそろ次も考えるかなーって。

ほう、二人目か。 素晴らしい事だ。二人と言わず三人でも四人でもどんどん産んでくれたまえ。 彼女は良い母親になりそうだと思う。骨盤がしっかりしているだろう。

え…骨盤…? 骨盤……どうかな。
しっかりしてるかな? あんま考えた事なかったな骨盤。
ていうか天野っち下半身重視派だよね。前見てたエロ本も足のきれーな子だった。
なんかおっさんっぽいわー。何となく。

失敬な。
健康的な子を成せそうであるというのは最も重要視すべき個所であろう。

そういう女性を評価するような発言良くないと思います。

君も相変わらずだな。
最近どうなのだ。くらんには新しい冒険者が入ってきたのだろう?

何かねー、おふたりも十分濃いメンバーというか、一癖ある感じでしたけど…
今度のは数倍クセがありますね。ホント、昔が懐かしくなるくらいに…。
あ、天野さんもテルプさんも随分マトモだったんだぁ…って。
ダンテスさんは天野さんの傍若無人ぶりに非常識までプラスした感じだし
メティアさんは目を離したらすぐその辺の家畜とか食べちゃうし…。
こないだなんて寝ぼけてベッド食べちゃったし…。

大丈夫なの、そのメティアって人…。

出費の点ではかなり大丈夫じゃないです。
今クランのドアも直せないし、食費も馬鹿にならないし…。
そうだ、天野さん、たまにアティルトまで野菜売りに来てるんでしょう?
クランまで顔出してくださいよ。

野菜を売りに、というか…それを口実に、ぷれーん殿の店に、だな…。 本当に、美味いな。彼女の料理は。 危険を冒してでも食べに行きたくなる。

つまりウチには危険を冒してまでは来る価値無いって事ですか。 まったく、仲間想いのクラン員に恵まれたものです。

まぁ頑張りたまえ。君は文句を言いつつ面倒を見てくれるから。 おれも君には随分甘えさせて貰ったものだ。 懐かしそうにはははと笑う

ホントだよ、天野っちには苦労させられたよねー 誘拐監禁とか毒の霧散布とか。 他のクランも巻き込んで大変だったよねー、と赤坂に同意を求めつつ。

そういや、あの時さ…
天野っち、わざと見つかるトコ置いてたでしょ。手紙。
手紙だけじゃない、手掛かりになるような資料とか全部。
赤坂っちああいうの周到なくらい調べまくるタイプだから……。

──気付いていて、君はその内容を疑わなかったのか? 君たちを騙す為に偽の情報を流していると。

そりゃ、疑いもしましたけれど……
あの時点でソレしか情報が無くて、だったらそれに乗るしか無いじゃないですか。
あそこで僕らがすべき事は、あの島から人々を救出する事でしたし、
僕ら冒険者を集めることが狙いだったとして、だけど僕らのやるべき事は変わらないって、
そう思って。

ね、天野っちの世界ってさ、みんなゾンビになっちゃうって言ってたよね?
例外は無いって。
──天野っちもそうなの? あの白衣のねーさんもさ。

え……
あ、そう、か。
確かにそう言っていた。皆終焉を待つだけなのだと。
対抗する術があるのなら、元の世界の人たちだって助けられる筈で…。

──……それは。
答えねばならぬ質問か?
悩むような、困ったような、歯切れの悪い様子で。

そ、そりゃそうですよ。
もし天野さんがゾンビになっちゃったとしたら…。
想像して身震いする。
一緒にいるアズくんにだって危険が及ばないとも限りませんし
何より、最後までそれから逃れる方法を、一緒に探したいじゃないですか。

倒し方、みたいなのも聞いとかなきゃ、だしね。

テルプさん…。

だいたい俺っちさ、あの事件そのものに違和感あったんだよ。
天野っちはやるべきコト最優先、他の事なんて知りませんーって感じだけどさ。
確かに貴方はこの世界を好きだった。
天野っちにとって街の人らは、そりゃ木偶人形みたいなモンだったかもしれないけどさ。
そいつらの事、俺らが絶対助けに行くって信じてただろ?
──この世界にとって、彼らが大切な存在である事、知ってたワケじゃん。
自分の世界の為だけに、他の世界を犠牲にするの。
出来るだけ被害を抑えようとはしていたみたいだけど……
やっぱり俺っちのイメージする天野とはズレがあるんだ。

ねね、天野っちが本当に見てたのは、何?

──買いかぶり過ぎだ。
君には分かる筈だ。どんな犠牲を払っても守りたい物があるのならば。
……人はどんな悪魔にも為れるという事を。

嘘だね。
音が歪んでる。それは嘘を付いている時の声の響き。
俺っちには分かるんだ。貴方は何か、嘘を付いている。

────……っ。

えっ
そんな事分かるんですか? すごいじゃないですか。

嘘だよ。分かるわけないじゃん。
分かりやすく動揺してくれて、助かるわー、天野っち♪
ニヤニヤと笑いながら

えぇ……?

────。
苦虫を噛み潰したような顔で目を閉じ、息を吐く。

■■エ、ヒチ■鯱隍■モ・ヲ荀キ。■ケ、マエ、ヒチエソヘホ爨ホテ讀ヒタ■■ヌ、■

……!?

…………秘匿情報である。
外部の存在に情報を与える事は出来ぬ様になっている。
声に出そうが、紙に記そうが、あれに関する情報は何らかの形で歪んで伝わる筈だ。

な、何なんですかそれ…。
また何か上の人とかの仕業なんです?

……ほ、放送禁止用語を喋る天野っちって……
ちょっと面白すぎない?

…………一発殴っても構わんか。

今のは一発と言わず三発くらいOKだと思います。 アノチェさんが許さなくても僕が許す。

緊迫しそうな空気を和まそうと思ってさぁ〜〜〜
あっ、天野っち、顔がマジじゃん、や、やめっ
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──しかし、そうか。
すべて終わった今ならば、君らには話す事が出来るかもしれぬ。
この場所では難しいが。……そうだな。
おれが暫く身を隠していた部屋がある。其処で話をするとしよう。
あの屍人の街の真実を知る者だけが辿り着ける場所。
君たちは知っている筈だ。二つの指輪。パスワード。
【鍵】は同じ。この階層の電子ロックの部屋だ。
鍵を持ってるならば、来るがいい。その部屋で改めて。……待っている。

ゾンビの街など知らないけれど、頭の中に浮かんできた指輪の刻印。
僕の中の魂が、それを知っている様な気がした。
だけど、今の僕には。
何を言ってるのか、よく分からないです…。

ふ、と笑みを漏らして。
取り合えず、此れだけは言えるよ。おれがこの世界で一生を終えるまでの間。
屍人と化す心配は無用である。
心配をかけて、すまなかったな、二人とも。

そっか。
そんなら、まぁ、いっか。
天野の笑みに、にこりとこちらも笑顔を返して。
そんでさ、昔の話ー、って言えばさ。
俺ら赤坂の事ぜんぜん知らないよねぇ。
お前からそんな事言い出したって事は、赤坂っち、俺らに何か言いたい事あったの?

あ、えっと、えぇ、その…。
言い出す機会も無くて、ちょっと困ってたんですよね。実は。
見透かされた様で少し居心地の悪い様子で肩をすくめて。
少し考えるような素振りの後。

赤坂って、僕の名前じゃないんです。

何と。

初耳すぎるわ。

こっちの名前名乗ってる時間の方が多くなっちゃって、 今更本名でー、なんて気は無くて…、 むしろ今の名前の方が僕らしいと思っているんですけど、 一応、伝えるだけ伝えておこうかなーなんて…。

聞いてくれます?
僕の、むかしの、大馬鹿な話。
はじめて誰かに話す、大切だった人の話。

勿論だ。

大馬鹿勝負でもする?

──では、話の前に、茶を淹れなおそう。
我らくらんは本当に…最初からまとまりが無かったが、
それ故か……、離れておってもあまり離れて居る気がせぬな。

そだねー。
ま、初めて会った時よりずっと、お互いの事知ってはいるけれど。
距離が離れた分、心が近付いた? とか言っちゃう?

似合わないですね、僕らには、そういうの。
これから、……生きる道もばらばらですし。
はじめて会った……あの乾杯の日から何が変わったかって言ったら
たくさんの、冒険者の皆さんとの出会いですよ。やっぱり。
それがきっと僕らを繋いでる。遥か未来までずっと。
だから、離れてても、変わらないんじゃないですかね。

乾杯でもするか。
お互いの未来へと。

天野さんから受け取った湯飲み。今回は同じ飲み物で。
少しづつ分け合ったそれぞれの物語を胸に。
未来へ。

未来、へ。

未来。……未来へ。

僕たちは違う道を、歩いていく。