歌声を重ねて

第一期:テルプとアノチェセル

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響く、ひびく。混じり合い。

仕事場である酒場へと向かう準備をするアノチェセル。 危険を避けるために男装すべく、かげつきのクランの一室を借りて着替える事になった。

テルプ・シコラ  1btg

そんじゃ、ここの部屋使ってね♪  覗かれないように見張っとくわー。
「一番覗きとかしそうなの、貴方じゃないですか」という赤坂の声が聞こえてくる。

アノチェセル 18k0

突っ込みの声に苦笑して、部屋を借りると手早く着替えた。 深緑のマントに三角帽子、顔がばれないようオペラマスクをつけている。 そこそこの身長があるせいか、見た目が少年のように
お、おまたせ…! そ、それじゃ行こうか…!
え、ええとね、場所は…
(そう言うとどこかの町の歓楽街の地図を差し出し移動しようとした)

テルプ・シコラ  1btg

出発を促されたテルプは、自分も布を頭からかぶり、派手な格好を隠している。 着替えたアノチェさんを見て目を丸くして
お、おお、これは、イメージ違うなぁ。うん、なかなかかっこいい、少年っぽい感じで。 ふーん、あ、うん。あー、行こうか。うん。
一瞬胸に目が行き、あ、察し、みたいな態度になった事を貴方は気づいても良いし気付かなくても良い。

テルプ・シコラ  1btg

アルバに、似ているな、と思ってしまった事も

アノチェセル 18k0

へへ…!ありがとう…!
カッコイイと言われることがないので少し照れる。 そして察しの態度が何の事を言っているのか気付くと、アノチェセルは苦笑した
あ…うん、こういうときは便利だなって…う…うん…
(自分で言ってダメージを受けるアノチェセルだった)

まないた

そうして向かった先、酒場のマスターに事情を説明すると快く色んな仕事を紹介してくれた。どうやら慢性的に人不足のようだ

アンタも吟遊詩人なら同じステージで演奏してもいいし、 腕っ節が強いならボディガードもある。 中の厨房も足りてないと言っていたな…。 ああ、そうそう、向かいのパブは客寄せが欲しいとか…。
好きなのを選ぶといい。何か希望があれば話を通すよ

テルプ・シコラ  1btg

足りねートコばっかじゃないか! よくやってけてるなココ!  …まぁ、仕事があるってのは、いい事だけどねぇ。 ちょっと見せてもらってもいいかな。
(軽口を叩きながら、マスターに小声で)
…彼女と、時間合わせてくれたら何でもいいよ。 こういうとこ、1人で歩かせるような子じゃ無いの、分かるでしょ。 申し訳ないけど、その辺、察してくれると嬉しい。あ、仕事は、しっかり真面目にやるからね。 (軽くウインクなどしながら)

さて。腕っ節には自信が無い!
得意なのは、勿論歌と楽器演奏だねぇ。こういうステージあんま慣れてないけど。 まぁすぐに合わせられると思うよ。あ、ここの飯美味そうだねーいいにおいだねぇ。
(店の中をちょろちょろ観察しながら動き回っている)

…わかっている(溜息をつき)こちらも急な人不足と彼女の必死の頼み込みが無ければ断っていたさ… まあ…心配してくれる奴がいるなら大丈夫だな… (小声でマスターが返す)
なら、一緒に演奏するといい。独奏よりは華もあるだろうよ
(そういうとステージを指差した)
もうすぐステージも始まる。奥の楽屋は勝手に使ってくれ。客が沢山入れば報酬も多く出そう

テルプ・シコラ  1btg

出来高給か! おー、それは、俺っちはりきっちゃうねぇ♪
マスター、ありがとね!

さぁ、じゃ、行こうか。
(鼻歌交じりで楽屋へとアノチェさんを促して)

アノチェセル 18k0

う、うん。
(ステージは小さなシャンデリアいくつか吊るした簡素なもので、奥には使われていないピアノがあった。 既に準備が整っているダンサー達と入れ違うように楽屋へ。 楽屋にも沢山の弦楽器や打楽器が置かれている)
そ、そういえばこうやって一緒に演奏するの始めてかも…。 ぼ、冒険の時は皆好きなように皆弾いたり歌ってたりしてたもんね…。
(わくわくしつつも、少し緊張した笑みを浮かべる)

テルプ・シコラ  1btg

また今度一緒に、──そうだな。孤児院とかで演奏してみようか。子供たち、喜んでくれるかも。 他の皆も誘って…って思ったけど、フェリクスは慈善活動って聞くと、嫌がるかもしれないなぁ。
一緒に冒険しているメンバーの顔を思い浮かべて苦笑する

アノチェセル 18k0

ほ、本当?
(ぱあっと顔を輝かせて)
じ、慈善とかじゃなくて良いよ…! い、一緒に歌ってくれたり、遊んでくれるだけで子供達喜ぶから…! や、約束ね?
ダンサーの準備が整った様だ。ステージを見ながら。
え、えっと。ど、どっちが伴奏しようか? わ、私どっちでも多分やれると思うよ! い、いつも冒険の時に皆の演奏聴いてるから、し、示し合わせとかなくても大丈夫だと思う…!

テルプ・シコラ  1btg

そうだな、途中で、交代しよっか。タイミングは、適当にー。
さぁ行こう!
緊張した様子もなく、踊るように

アノチェセル 18k0

適当なタイミングで交代する事を了承するとステージの袖から下手にある椅子に腰掛けた。
ダンサーの合図でまずは自分が主旋律を奏でる。 弦の音とステップの音が響いてシャンデリアを更に煌かせた。 酒場の客はダンサーの揺れる肢体に鼻の下を伸ばすばかりで音楽には気にも留めていない様子だが、それでも誰かと合わせて演奏するのは楽しかった。

テルプ・シコラ  1btg

客席と、ダンサーと、声と音楽と溢れる光と熱気が混じりあって、 何処までが自分か分からなくなるような感覚は、嫌いじゃない。 演奏している時は大抵そうだ。俺は音に埋もれて、音に沈んで、心地よくて。
だけど今は隣にアノチェの音がして。 その音を追わなければ、音の洪水の中からその音を。 目配せをする。彼女のメロディーをこちらへ貰う。 さぁ音よ走りだせ! よく知る音が俺に合わせて、俺を追いかけて。

ああ、たのしいな

アノチェセル 18k0

楽しそうなテルプの音ににこりと笑顔で応え、今度は自分が伴奏を弾く。 追いかけて、追いかけて。
 そっか…テルプの音は、こういう音なんだね…。
あまり会話が得意で無い自分には、
こうして一緒に演奏するほうが余程相手の心を感じ取れる気がして。

 いつの間にか、歌っている自分がいた。

ダンサーは機転を利かせターンをし「好きなようにやりな」とウインクをする。  その歌声に客の注目もそちらに注がれた。

テルプ・シコラ  1btg

…あまり目立っちゃ、不味いんじゃ。と頭をよぎったのは一瞬で。

 伸びやかに、どこまでも澄んだ声。
 この声を止める何かが、この世界にあってはいけないと
 邪魔をしないように、演奏を続け。

 目が合った。
 おいでと、呼ばれた様な気がして、共に歌い出す。
 ソプラノと、テノールが。
 彼女の澄んだ声が俺の声を何処までも運んで行くような。


いつの間にか世界には、
2つの音しか存在しないような。そんな気がしていた。

イラスト:かげつき

アノチェセル 18k0

(乗ってくれたテルプに破顔し)
た、楽しい…!凄く楽しい…! 歌声がワルツを踊ってるみたい…!
自分の目的もすっかり忘れ、歌い終わると同時に客の視線が一斉に自分らに注がれていて顔が真っ赤になる。 直後、拍手喝采が沸き起こり、チップが大量に投げられた。ダンサーがファンサービスをしながらそれを回収する。どうやら何時もよりかなり多いようでダンサーがにんまりとしているのが分かる。
集めたチップをマスターに渡すとステージに戻り一礼。更に楽師らに拍手をと促すともう一度割れんばかりの拍手が起こった。

ダンサーが舞台袖に下がる。興奮で呆然としているアノチェセルはテルプなのか誰かに手を引かれ続けて下がっていった。

テルプ・シコラ  1btg

ほんっと、びっくりしたんだけど。急に出て行くんだもん。
舞台を降りて汗を拭いながら苦言を、しかし喜びで輝いた瞳で。

いやぁ、でも、最高だった!
ねぇ、すごく、気持よかったよ、アノチェ。
まだ呆然としている様子のアノチェの顔を覗き込み
片手を上げて、ハイタッチを促す。

アノチェセル 18k0

あ…う、うん…た、たのしくなっちゃって…。
(息を整えながらたどたどしく返答をする)

…へへ…えへへ…! た、楽しかったぁ…!!うん!私も凄く気持ちよかった!
(テルプが片手を上げたのを見て嬉しそうにハイタッチを返した)

その後マスターから破格の報酬を二人に渡された。
特にアノチェセルにはかなり大きな額を渡されている。

これだけあれば当分は生活費を工面できるだろう。>…すまなかったな、嬢ちゃん。あとはこちらでなんとかする。…まあ今回ので固定のファンがついたらしいから残念っちゃ残念だが。今日はありがとう
マスターはテルプに「後は頼んだ」と目配せをした。

テルプ・シコラ  1btg

OK。…ありがと。また歌わせてよ。
(来た時と同じように、布を目深にかぶり、アノチェの手を引き寄せた。 握った手はマントの中に隠すようにして、裏口へと促す)

行こっか。…離れないようにね。

アノチェセル 18k0

う、うん…。
握った手に少しビックリしつつも「あ、吟遊詩人の手だ…」などとぼんやり思いながら、来た道を戻る。言われたとおり離れないように。
な、なんだかいっぱいもらっちゃったけど、よ、よかったのかなあ…。 あ、でもテルプもいっぱい貰えたね! こ、これで村に仕送りできるんでしょ?…よかったぁ…。

テルプ・シコラ  1btg

すれ違う人や路地に気を配りながら夜道を行く。不穏な気配を見逃さぬよう。

うん、マスターいい人だったねぇ。アノチェも俺っちもラッキーだ。
そうだなぁ、これだけあれば、ちょっとくらい贅沢してもいいかもしれない。 …砂糖が買えるな。

アノチェセル 18k0

傍から見ると連れ去りに見えるのだろうか、時々冷やかしのような声も聞こえる。
…さとう? て、テルプの村では砂糖が一番貴重なの? …わ、私だったら…小麦と…ほ、保存の利く芋類と…、あ、子供達のおもちゃも買ってあげたいなあ…。

もうすこしで歓楽街も抜けられそうだ…。

テルプ・シコラ  1btg

小麦と芋はまぁ、勿論なんだけどね。 ふふ、街の甘いお菓子を食べさせてやりたいんだよ。 こないだ、アノチェたちが作ってくれたようなやつ。きっと美味しくてびっくりするぞ。
その様子を想像しているのだろう、表情が緩んでいる。
──おもちゃは、そうか、考えたことなかったな。 ……どんなのがいいかなぁ。 アノチェはそういうの詳しい?

アノチェセル 18k0

…あ!…そっかぁ。
(街で売られている白く綺麗にデコレーションされたケーキを思い浮かべる)
あ、ああいう綺麗なお菓子は中々作れないけど…こ、今度は村の人たちの分もよ、よかったら焼くよ…!
(緩んでいる表情にこちらも何かをしたいという気持ちになった)
う、うーんとね…。 お、女の子ならやっぱりお人形とかぬいぐるみが好きみたい…。 お、男の子は…なんでもおもちゃにしちゃうからなあ…。 おもちゃより服や靴のほうがいいのかも…
(答えてるつもりがぶつぶつと何を買おうか思考モードになっているようだ)

テルプ・シコラ  1btg

? 中々作れないって、こないだのが奇跡の出来って事?
(話しているうちに勘違いに気付き)
ああ、いや、あーいう、何か豪華すぎるやつじゃなくて、 アノチェの作ったみたいなのだってば。バターも入ってるの。白い……あの、クリームのやつは…多分暑さで傷んじゃうんじゃないかなぁ。
「焼くよ」との言葉に少し困ったような表情。
うー…ん。作ってくれるのは、すごく嬉しいけど、ちょっと…遠い、からね。 材料だけ持って行って、向こうでおかみさんが作ったほうが、色々都合いいかも? ── ああ、おかみさんってのは、村長さんの奥さんでさ。 豪快に笑う、なんてーかなぁ、肝っ玉かーちゃん! みたいな感じの。 あの人、料理うまいんだよなぁ。
とりとめのない話、おもちゃの話などしながら、見慣れた建物へと到着する。かげつきのクランのロビーには灯りが付き、まだ誰か起きている様だ。

アノチェセル 18k0

あ…、ううん、材料の方で…。 あ、ああいう豪華なケーキは、と、特別なんだ…い、いろんな意味で。

わぁ…お、お母さんかあ…!  う、うん!素敵な人だね!  あ、あのね!わ、私もね、お、親はいないけど親みたいな…お、や、みたいな…あ、あれ…。 だ、誰だっけ…。
ざらざらと砂嵐がかかって思い出せないようだ。

テルプ・シコラ  1btg

──ん、だいじょぶ? 調子悪い? 少し休もうか。 何か飲もう。チョコとか元気出るよ。ちゃんと砂糖入れたやつ。
扉を開けて中へと促すと、中では赤坂が本を読みながら珈琲を飲んでいた。

赤坂 天矢  1btg

…おかえりなさい。お疲れ様。
(赤坂が出迎え、繋いだ手を見て)
仲良しで良いですね。──珈琲でも、飲みます?

アノチェセル 18k0

…え?…あ!
ええとええと!!!あ、ああ、ありがとう!テルプ!
(まだ手を繋いでいた事に気付いて「ぱ!っ」と手を離した)

え、ええと、た、ただいま戻りました…!
あ、あのもう、大丈夫…です。
め、迷惑かけてごめんなさい…
(ぺこりと改めて詫びた)

テルプ・シコラ  1btg

茶化すような赤坂の言葉に苦笑し、咎めるような目線だけを投げて。
すぐにアノチェセルに向き直る。先ほどの様子が心配で、そっと椅子を用意して。

アノチェセル 18k0

…あ、ううん!だ、大丈夫。 へへ、きっと疲れてたんだね…あ、あんなに楽しかったもんね…! …チョコ、も、もらうね…。
(思い出せないだけで具合が悪い訳ではなかったが、ぶっとおしで動き続けていたためか言葉に甘え、椅子に座った)

テルプ・シコラ  1btg

ん、俺っちも。すごく楽しかった。また演ろう。 …お疲れ様。よく頑張りました。 …次からは、ちゃんと事前に誰かに相談する事。 君はひとりじゃないんだからね。 (頭を撫でようと手をのばす)

アノチェセル 18k0

(一息入れるために帽子とマスクを外すと頭をぽんっと撫でられた)
う、うん…ご、ごめんなさい…。 …な、なんだかお兄ちゃんみたい…。 あ、アルバも兄なんだけど…な、なんかちょっと違うというか…。へへ…。 ご、ご馳走様でした。…あ、後は大丈夫…こ、孤児院もどるよ…。へ、部屋また借りるね。
(チョコを飲むと椅子から立ち上がった)

テルプ・シコラ  1btg

(お兄ちゃんみたい、という言葉には、柔らかく笑みを返し)

うん。天野っちがタオルとか用意してたっぽいから、それ使ってね。
(赤坂に向かって)天野っちもう寝てんの? あ、そう。規則正しいっすねいつも。

──よければ、孤児院近くまで送るけど、どうする?

アノチェセル 18k0

う、ううん、だ、大丈夫。一人で帰れるよ。
て、テルプも疲れちゃうし…。
じゃ、着替えてくるね。お、お借りします
(ぱたん、と部屋のドアが閉まった)

赤坂 天矢  1btg

アノチェセルの後ろ姿を見送って。

……お疲れ様です、お兄ちゃん。

テルプ・シコラ  1btg

はいはい。
赤坂の言葉を適当に受け流す。

……さっき、笑ってたよな。名前、出た時。
「兄」の姿が脳裏に浮かぶ。 いつも彼女は笑顔だけれど、その奥底には拭いきれない寂しさが潜んでいるように思っていた。 だけど今、彼の名を呼んだ時。彼女の表情は、曇りの無い笑顔……だった気がする。
俺の魔法の歌じゃなくても。忘れる為の歌じゃなくても。


少しは、……役に立ってんのかねぇ。
楽しそうに歌うアノチェの歌を思い出しながら、自分もチョコレートを、口にした。

アノチェセル 18k0

(しばらくするといつもの服に着替えて部屋から出てくる)
こ、この借りた服どうしよ…おいおい返さないとだよね…

あ、あの、テルプ…そ、それにあ、赤坂さんと、あ、天野さんにも…。本当にありがとう…。 こ、今度お礼にうんといっぱいお菓子作っていくから…! あ、お菓子とかじゃなくても、き、希望あったらいってね? で、できることならなんでもするよ…!

(あまり長居しても迷惑だろうと、クランの入り口に立ち出て行こうとした)

テルプ・シコラ  1btg

希望? んじゃー、また一緒に、いっぱい歌おう!
楽しい歌、いっぱい、歌おうね。
(玄関に立ち、見送りながら)

明日も早いんだろ? 寝坊しないように。
また、いつでも遊びにおいで。

──幸せな、夜だった。ありがとう。

アノチェセル 18k0

そ、それはもちろんだよ…!
ま、また一緒に歌ってね? や、約束ね…!
(そう言うと玄関から見送ってくれる人に手を振り)

また ね。
(と笑った)

テルプ・シコラ  1btg

うん! またね!
(見えなくなるまで、手を降っている)


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テルプ・シコラ  1btg

 心地よい疲れを抱えてベッドに倒れこむ。
 シーツにくるまる身体ぜんぶ、指の先にまで
 幸福がぴりぴりと痺れるように巡っているのを感じながら。

 目を閉じれば、その闇の中で音が弾んでいるのが見える。
 光を放ち、色を変え、追いかけて絡みあった、彼女の音だ。
 どうも興奮で眠れそうにない。
 そのままじっと音の乱舞を楽しんでいた。
 よろこびが、喜びが、胸の奥から溢れるような。

 いつもならばすぐに歌い出すようなうきうきした気分を
 じっと目を閉じたまま、自分だけの中へと押し込んで
 その反響が、さらに自分の中に深く響いていくのを。

 ただ、長い時間。感じていた。



 シャランと いつもの 鈴の音がした