天野の遠き友
第一期:冒険のはじまり

それは世界と時間を遥か超えても。

いずるみに、移動してみた。

イズルミ、それは東洋的な文化を持つイズレーン地方の中心都市。 和食を愛する……むしろ洋食の苦手な天野にとって、天国の様な町だ。 こうやって、各地に拠点を移し、様々な地方のダンジョンを攻略していく。

いずるみ。ずっと気になっておったのだ。

遊びに行ってきていいよーw

否、荷解きなどやるべき事がたくさん残っておるだろう。
何を言っているのだ。

(((.-.)(:I )(゚‐゚)( I:)(.-.)(:I )(゚‐゚)( I:) エー
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おーっす!ジョブチェンジャーズのプレーンだ!(ドアを勢い良くバーン)
後片付けとか終わったか?引越し祝いの飯持ってきたぜ!
(<ほんわか五目炊き込みごはん>をテーブルに乗せて蓋をあける。)
あたしの好きなイズルミ飯なんだけど、どうよ。
ああ、テルプが持ってきた米使ってるんだぜ。あたしたちも食べたけどここの米は最高だな。
天野は米料理が好きなのか?イズルミ出身みたいな見た目の奴って、米とか味噌とかに異様に執着するよな。故郷への愛着って言ったらまあ分からなくもねーけどさ。
赤坂、ひょろひょろしてるけどちゃんと食ってんの?山盛りでいけよ!
そんじゃ、あたしはイズルミの新しい料理覚えて、そんで特産品の酒買って帰るぜ!またな!

おー、そーだった。こないだジョブチェンとこに、お土産持って行ったんだった。 なんか、米が美味しそうになって戻ってきた! いーにおい! ギザ歯のねーさんありがとー♪

お…おお…。

天野っち、よだれ。

お…おお…。

天野さん、あいさつ。

おお、…応。
これは、これは、大変な、物を。

……だめだ。炊き込みごはんから視線が離れない。

すみません、プレーンさん、ありがとうございます。
先日いただいたキッシュも、とてもおいしく、みんなで、いただきました。
この人(天野)は改めて…ごあいさつに向かわせますので…。すみません。
温かいうちに、いただきますね。ありがとうございます。

しっかりと、しっかりと手を合わせて炊き込みごはんを食べる天野。
これ以降、しょっちゅう冒険にプレーンさんを連れて行く天野であった。
確実にキャンプ飯が目的だ。

イラスト:ジョブチェンジャーズ さま
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てるぷ殿、最近よく出掛けるようだな。
友人が多いのは良い事である。
皆に宜しく頼む。

OK♪ 任せといてー♪
賭博場の皆に、よろしく言っておくよー。

……と、賭博?

あ

……賭博、…賭博だと?
君は、一体何をやっているのだ。冒険者の本分とは即ち…

い、いってきます!!! (隠密)

てるぷ殿。
…戻ったら少し話をしよう。 (威圧)

それでも、テルプにとって息抜きは必要なのだ。
それを分かっているのか、天野もテルプには非常に甘い。
「あまり縛り付けては、歌が曇ってしまうような気がしてな。
……己(おれ)は、彼の歌が、好きなのだ。」
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あ、ビリーさん…! ようこそいらっしゃいませ。
ビリーさんとこも今イズルミなんです?
イズルミねぇ。いいところですよ、水もいいし。
あ、よろしければ座ってください。珈琲入れましょう。珈琲。
うきうきとした様子で、拠点の中へと促して

いえ、是非、是非。飲んでください。
ここ(自クラン)で淹れるのが、慣れてるし、道具もそろってますし、
一番美味しい状態で飲んでいただけるかと。(何だか早口だ!)
僕の好みでお入れしちゃいますよ。
(準備は手早く、お湯を注ぐのはゆっくり、ゆっくりと)
面白いですよねぇイズレーン。食べ物も、変わってますけど美味しいですよ。
あ、チェイネルさんのお弁当のレパートリーが、増えそうですね。

前から珈琲自体は好きだったんですけど、
それでも、最近ですよ。自分で淹れはじめたのは。
……言ったことありましたっけ。
僕、家飛び出して、そのまま一人暮らしをはじめて。
ひとりで何でも自由に、出来るようになって。
好きなこととことん突き詰められれば、楽しいかなって。
それで……ついつい、のめり込んでしまって。
──奥深くて、果てがなくて、
……こうやって、珈琲入れてる時間は、心おだやかでいられる気がします。
はい、どうぞ。
ブラックでいいんです?

珈琲の香りを楽しみながら、赤坂の話に耳をかたむける。
ああ、ブラックで頼む。
・・・俺もよく自分で、淹れるんだが、
娘が俺のコーヒーに口をつけて、見たことのない表情を引き出してしまった。
ブラックは、ダメらしい。
他愛もない話を。

そうそう、チェイネルさんから、珈琲お好きだって聞いてて、
これは絶対飲んでいただかないとって思って!
ぱぁっとテンションが上がって、嬉しそうににこにこしながら
今回の豆のブレンドについて語ったりしている。
ああ、娘さん……おいくつでしたっけね。
兄であるヴァンくんの見た目を思い出して……
そりゃあまだまだ早いですよねぇブラックは。
僕だって飲めるようになったの、結構最近ですしね……。

彼の前では、何故か素直に話が出来る気がしている。 それは珈琲好きなトコ、白っぽい髪、など、親近感を覚えるところが多いとか… 大きな身体とか、誰かを護れる力とか……憧れるところが多いところ、とか… 原因は色々あるのだろうけれど、一番の理由は。

──僕は、役に立っているのかな。

そんな風に、冒険の度に口をついて出る自問自答に。

その、控えめな低い声に。
……ここに居るのが、許されているような気がしていたから。

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♪ 嗚呼 強く 猛く 高く そびえよ 山のごとく ♪
♪ 大地より 生まれし 巌の力 その勇姿よ ♪

……何の歌です?

んー、知り合いにね。かっこいーにーさんが居るんだよ。
クラン「ウォールライフ」の……カキツバタっていう。ふたりは…一緒に冒険とか行ったことあったっけ? どうだっけ。
その人は、仲間を守るためにいつでも一番前に立って、すべての攻撃を受け止めるんだ。
痛みも、全部引き受けて、愚直に、立っている。その勇姿を称えた歌なのさ。

その説明を聞いて僕は天野さんの方にちらりと、目をやる。
戦う姿が、似ているな、と。思った。

彼にはさ。たくさんの「仲間」と呼ぶ人が居て。
だから、一人じゃないんだなぁって、思うんだ。
彼が立っていられるのは、そのおかげなんだろうなって。
──天野っちは、だいじょぶ? 立ってられる?

そう、テルプさんも、歌の彼と天野さんとをどこかで重ねて見ていたようで。 その言葉に、何か読み物をしていたらしい天野さんが顔を上げる。

為すべき事を成す。それだけだ。

そっけない返事にテルプさんは肩をすくめ、
それならいいけど、とリュートをいじりはじめ。
僕は何となく居心地が悪いまま珈琲を手にしていたのだけれど。

……昔話でもしようか。

本に目を落としたまま、ぽつりと、天野さんが口にして。
少し長い、話が、はじまった。

己(おれ)は以前、此処ではない何処か異世界で。やはり今の様に戦いに明け暮れていた。
為すべき事を成すために。様々なものを、……人の命も、尊厳も、多くを犠牲にしてきたものだった。
人らしい心も忘れ、全てを捨てて、それでも尚、……届かぬものだ。
英雄と呼ばれる程の存在は、天に選ばれた者なのだろうな。
そういう輝きを生まれ持った者の、天賦の才を、──己(おれ)との差を。随分と思い知らされた。
成せぬのならば。……己(おれ)だけでは無い、己(おれ)の犠牲としてきたものの意味もまた水泡に帰す。
無力を感じていた…な…。空へと高く手を伸ばし、それが何時迄も届かぬような。
そんな時に。ひとりの、──友人と、出会った。
彼こそ、生き残るべき者。
襲い来る滅びに負けぬ。絶望を、生きる糧と出来る者だった。

その、生まれた意味を持った彼が。おれを友人と呼んでくれた。
己(おれ)の小さき力でも、英雄に届かぬこんな腕でも、彼らの力に成れるのだと。
……嬉しかったな。
為すべき事、という枷を取り払った自分が其処に居て、
そこに絡んだしがらみもすべて、赦された様な、そんな気分だった。
己(おれ)にとっては、彼は、世界以上の価値を持つものだったのだよ。

それでも、己(おれ)は。──彼を裏切った。
己(おれ)の世界と、其れを存続させる事を。為すべき事を。選んだのだ。
彼は、其の事を知らぬ。再会の約束をして。叶わぬ約束をして。
彼の世界と繋がらぬ空の下で、己(おれ)はまた、彼が悲しむ事ばかり繰り返している。
だが例え、彼が己(おれ)を見限ろうが、責めようが、罵ろうが。

己(おれ)はあの日、あの瞬間に、おれがおれで在った瞬間を、忘れたりはしない。
あの瞬間の、あの言葉が、己(おれ)を何処までも進ませる。何処までも往けるのだ。
世界が我らを隔て、幾千年の時を超えようが変わりはしない。
己(おれ)は未来永劫、輪廻の先まで、戦い続けられるだろうよ。
そう、何処までも共に在り何処までも往ける。己(おれ)は宇宙へと。手を伸ばすぞ。

ふと天野さんは、とても遠くを見た。
それがどのくらいの距離なのか僕には測りかねたけれど。
──その、昔話の中の彼は、天野さんを思い出して空を見たりするのだろうか。僕が想像できる範囲の、遥か、遠くへと想いを馳せる。僕の知らないその人の事を。

……そういう訳であるが。
君の質問の答えに、なっているだろうか。 てるぷ殿。

(天野の物語に合わせて爪弾いていた演奏を中断し)
……貴方の歌は、とてもさみしいね。

そうか。…そうだな。
──話が長くなった。君たちもそろそろ休み給え。
……おやすみ。
席を立ち、自室へと戻っていく。

天野の後ろ姿に軽く手を振る。
ああいう、歌は、好きじゃない。けれど。
ポロン、ポロンと、何となくリュートを弄びながら
……孤独ってのは、不幸じゃないんだね。って。
何となく俺っちは、そう思ったね。

──だけど、何だか、やっぱり勝手ですよ。それって。自分だけ、満足して。 その、友人の気持ちはどうなるんですか。 何も、出来ない、遠くで。…それって。それこそ、無意味じゃないですか。

…俺っちは。
とっくに死んだ星の光が時間を超えて届くのを、無意味だとは、思わないよ。
そこに存在しないものが続くことを。
────無意味だとは。
綺麗な、静かな曲が生まれて、そのまま虚空へと消えていく。

────。
僕には、良く、分かりません…。
熱を失い冷たくなってしまった珈琲を、僕は苦い顔で飲み干した。
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中央のテーブルの上に、綺麗に花が活けてある。
色とりどりの華やかな。良い香りが部屋いっぱいに溢れていた。

どうしたんですか? この花は。

…己(おれ)が、……咲かせた…というか。
うむ。魔法、の様なものだと思ってくれれば良い。

へー。
意外な特技があんだねぇ。でも、何で急に?

…先日、の、頂いた花が。
皆、喜んでいるようだったから。

そういえば、俺っち、紅茶の葉っぱもらったんだよー♪
一緒に、飲もうか。

…最近の僕らは、何となく一緒に食事を取るようになっている。
花を、囲みながら。
花と紅茶のやわらかな香りが、僕らを優しく包んでいた。

夕食後に、最近覚えたカードゲームを3人で遊んでみた。
賭博場へ出入りしている、と聞いて顔をしかめていた天野っちも、
皆で楽しく遊んでいる旨を説明すると、しぶしぶだけど、納得してくれたっぽい。
飲み物を飲みながらとりとめのない話をして。
ん。俺っちは楽しいのが、好き。こんな夜には歌わないと。
美しい夜がもっともっと続きますようにと。
優しい音楽がゆったりと響く。
街の眠りを妨げぬように、静かで、だけど淋しさを感じさせない…。
子守唄のようにあたたかな曲。