彼女は、ひとり

第一期:テルプとアノチェセル

samplejpg

彼女の歌は、哀しみに触れても決して曇ることは無かった。

少し、時間を巻き戻そう。
丁度テルプが死亡した頃の話である。

クラン「とある孤児院より」のアノチェセルは、吟遊詩人である。

大人しくて、歌が大好きで、いつも一生懸命で。 テルプだけでなく、かげつきのクランとしても、彼女を呼んで冒険に出かけることは少なくなかった。

彼女の隣には、彼女の双子の兄の姿があった。名をアルバ。 パーティの最前に立ち、皆を守る騎士。まだ少年ながら、その意志の強さは天野も感嘆する程だった。

しかし、敵の攻撃を一身に受ける彼の様な戦いは、常に危険と隣り合わせだ。 ……いつも彼を案じるアノチェセルの心配は、現実のものとなる。

アルバの訃報は、間もなくかげつきのクランの知るところとなった。

テルプが転生し、死亡から目覚めてすぐにその話を耳にすると、 彼は一目散に彼女の元へと向かったのだった。

テルプ・シコラ  1btg

アノチェ…久しぶり。
心配、かけちゃったね。ごめんね。
馴れ馴れしい物言いは以前通りだが、少し覇気のない声で。 話には聞いていたが。……彼女の隣に居るべき人が居ない事を、ここに来て思い知らされる。
あ、これ、天野っちが…うちのリーダーが持たせてくれた、何の花だろう。
手にたくさんの白い百合の花を抱えている。
うちのクランまで来てくれたんだって?
えへへ、歌声がね、聞こえた気がしたよ。ありがとね。
また一緒に歌おうねー。…楽しい歌、いっぱい、歌おう。一緒にね。

アノチェセル 18k0

その姿を見かけると、驚きの表情の後、真っ先に駆けてきた。
あ…!よ、よかった!また会えた…! アルバ!ねえアル…
喜びの声を上げた後、もう居ない片割れの名を無意識に呼んだことに気付き、悲しみの表情を浮かべる。 でも一瞬の事。

ー私達吟遊詩人は笑顔にすることが役目なのだからー

あ、うん。クランの前まで行ったんだけど、足がすくんじゃって…。 あの黒髪の人かな?…ありがとう、アルバもきっと喜ぶと思う。
歌が聞こえたという言葉に
ほ、ほんとう?へへ…嬉しいな。 う、うん、ま、また冒険いこうね…!


それからというもの、テルプは今まで以上に頻繁に、
アノチェセルを冒険へと引っ張っていくようになった。

テルプ・シコラ  1btg

アノチェーーー! 冒険行くよーーー!
新しい歌い手さん、みっけたんだよー♪
いつも通り賑やかにやってきて連れだそうとする。

アルバの名を、出したことは無い。
彼は悲しい話はしたくないのだ。

その代わり、楽しくて賑やかな音楽を、彼女の周りに満たしたいと思う。 いつでも、笑ってて、悲しい暇なんて無いくらいに。 悲しいことなんて全部、忘れちゃうくらいに。

アノチェセル 18k0

わっ! び、びっくりした…! も、もう大丈夫なの? わぁ、て、テルプはいつも素敵な人連れてきてくれるよね。 た、楽しみだなぁ…!
心配そうに様子を窺いつつ賑やかな誘いに応じた。

彼女はいつだって笑顔だった。楽しそうに歌っていた。
それでも。

テルプには、彼女がアルバの存在を忘れた瞬間など、無いように感じていた。 彼女の奥深くに根付くようなその悲しみを、俺は取り払える力を持っているのに。 俺の音は、世界の悲しい音を全部、忘れさせることができるから。
俺の歌は、みんなを幸せにする歌だから。
だから。

だから。

忘れちゃえばいい。彼の存在ごとすべて。
そう思っていたんだ。

テルプ・シコラ  1btg

アーノチェ♪
前に貰ったクッキー、さ。すごく、美味しかった!
んで、さ、お礼、あの時、子供たちの分だけだったから、
……こっちはアノチェにって思って。

指先程度の大きさの、……アクセサリーの様に見える。 細い金属の紐で編まれた籠の中に、小さな球体が入ったデザイン。 観察すると、中の球体は、テルプが髪に付けている鈴と同じものだと気付くかもしれない。
中に、鈴が入っててさ。普段はほとんど音しないんだけど……。 こうやって、籠から出して、手のひらに乗せると、きれいな音がするんだよ。 ……幸せになる、お守りなんだ。
籠を開いて取り出した鈴は、紫がかった深い青で着色されていて。 シャリーン♪ と、小さくて透き通った音色が響く。
部屋に置いといてもいいし、紐とか通せばどっかに吊るしたり出来るかも?
まぁ、よければ。……どうぞ。

ハーモニーボールとかガムランボールとか呼ばれるあんな感じです
アノチェセル 18k0

あ、テルプ!い、いらっしゃい……! こ、この間はありがとう、あの石ね、磨いておはじきにしたんだよ。 お、女の子達がおままごとに使ってるの。

え?お礼?わ、私に? …わぁ、綺麗…!
感嘆の声を上げ、掌に乗せられた鈴の音に耳を澄ませると透き通った音を楽しんだ。胸に沁み込むように…
も、貰った時点で十分幸せだよ…! あ、ありがとう…! ええと、吊るすものあったかな…。
感激で中の鈴の詳細には気づいて無いようだ。 細い皮ひもを取り出すと簡単にペンダントのようにして首から提げる。
こ、こうかな…!?
にっこりと笑うと首から提げた球体を指で持ち上げた。

イラスト:とある孤児院より さま
テルプ・シコラ  1btg

…………あー。
う、うん。えっと。
目をあちこちに逸らし、口元を手で隠している。

……似合ってると思う……。

よ、用事は! それだけだから! ま、また冒険とかでね!

そそくさと、手を振って。

その鈴は、本当に、アルバの記憶を忘れることが出来る魔法の鈴だったのだ。 彼女が望むなら、テルプの歌は催眠術となり、彼女の心に入り込む。 今はまだ気休めに過ぎぬ、ただのお守り、だけど、 彼女が本当に逃げたくなった時、この音が彼女を救いますように。そんな想いを込めて。

しかしそんな風に素直に、無防備に、その身に着けてくれようとする彼女の姿に、 テルプは、言い知れぬ気恥ずかしさと、……同時にどこか喜びも、感じていたのだった。

---------------------------

アノチェセル 18k0

ひょっこりとクランの玄関から顔を覗かせ
あ、あの…お、おはよう…。 て、テルプいるかな…? ちょ、ちょっと、お、お話が…。
ごにょごにょと何時もよりどもりが強い口調で相手の様子を窺う。

テルプ・シコラ  1btg

あっれ、アノチェ。おっはよー♪  なになに、どっか出掛ける? 準備しようか?
いつもの様ににこにこと挨拶をするが、アノチェの様子が普段と違うような気がして 少し声のトーンをおとす
…どした? 何かあった? とりあえず、奥、どうぞ?
建物の中に促す。

アノチェセル 18k0

あ…ありがとう…
(気付いてくれたことにほっとすると促されるままに奥に入った)
あ、あのね…じ、じつは、こ、こういうことが、あって…
(事の経緯をなるべく落ち着いて話す)

-----------------

孤児院の稼ぎ頭であるアルバがいなくなって。
アノチェセルは少しでもお金を稼ぐため、夜の歓楽街へと出掛けていた。急遽、奏者が足りなくなって困っていた酒場で、働く事になったのだ。 酒場のダンサーの後ろで、奏者として音楽を奏でるだけ。ステージの上では男装をし、オペラマスクで顔を隠しての仕事……であったのだが
裏口から酒場に入る少女の姿を、客のひとりに見られていたらしく、 その酔った客と一悶着あったという。 危険を避けるため、次回から店に来る時から男の姿をしてくるように、と指示された。

孤児院で着替えて、クラン員や子供たちに見つかると心配をかけてしまう。恐らく、こうやって稼ぐ事も止められてしまうだろう…。
孤児院を抜け出した後、どこかでこっそり着替えるしか無い。……どこで?

そんな時に、シャランと、澄んだ音がした。
それは、テルプの渡した鈴の音だった。

アノチェセル 18k0

で、でね…。テルプの事を思い出して。
こ、ここの部屋の、ど、どこでもいいから、つ、使わせて欲しいんだ…。 そ、その、な、なんか、先に思いついたの、ここだったから…。 だ、だめだったら言ってね!ほ、他当たるよ…!

テルプ・シコラ  1btg

話を聞いている間、たまに何か言いたげな素振りを見せるが、 思い直したように、最後まで相槌を打って。
そっかぁ。…大変だね。…冒険者稼業だけでは、なかなかね…。
少し思案している様子だったがぱっと顔を上げて
あー、ねぇねぇ、俺っちもさぁ、村に仕送りすんの、最近きっつくってさぁ。 しかも最近うっかり博打で大負けちゃってさぁ。ちょっと稼がなきゃ、なんだけど。 アノチェのその仕事場か…その近所にでも、何か仕事余ってないか、 一緒に行って聞いてみてもいい?
…無理そうなら、いいんだけど。と付け足して

あと、うち使ってもらうのは全然いいんだけど… そうなるとうちのクラメン2人にも事情話す事になるけど、それはだいじょぶ? 2人とも口は固いけど、天野っちは小姑のように何かとうるさい。

アノチェセル 18k0

うん…!お、お願い…! 「わ、わかってもらえなくてもお願いするしかないもの…!が、がんばろう…!」そう小さく呟く。そうして暫くの後、呼ばれた二人に対して先程テルプに説明したことを繰り返した。

あ、あの、危ないことだって言うのはわかってるの…!(た、多分…)で、でも、お、お願いします…! (何を言われても一先ずきちんと受け止めようと真っ直ぐに目を見つめた)

天野 輝樹  1btg

(眉間にしわを寄せ腕を組み、黙って話を聞いていたが、ため息混じりに口を開く)
孤児院の皆には、相談出来ぬのか。 …それに、だ。わざわざそんな夜の街に行かなくとも、他の…… 何か健康的な仕事場が幾らでも在るのでは、と思うが。

テルプ・シコラ  1btg

──まぁ、割がいいんよ。そーいうとこは。

天野 輝樹  1btg

最大の懸念事項は、……あのちぇ殿、君が本当の意味で危険を理解しているとは思えない。 現に、仕事場の人間に注意されるまで、女性一人でそんな場所を歩いていたのだろう。
故に、己(おれ)からは一つ、お願いしたい。 てるぷ殿がそちらの方で働くことになったなら、必ず共に。ひとりにならぬよう。 彼と都合が合わぬ様ならば、己(おれ)か、誰か他の人間に、供を頼むといい。
──己(おれ)からは以上だ。後で部屋を案内しよう。
(一方的に言いたいことだけいうと、席を立ち、  茶を入れるためか、取り敢えず湯を沸かしている。)

赤坂天矢  1btg

あ、あー、えっと。
……僕も、そんな感じで。
天野の言葉に続いて頷く。

アノチェセル 18k0

あ、ありがとう…!ご、ございます…!
(深々とお辞儀をする。予想通りの反応が返ってきたことに苦笑して)
や、やっぱり怒られちゃった…ね…。 ご、ごめんね、テルプ、余計な心配かけさせちゃって…。
(ただ稼ぎたいという安易な気持ちでこの仕事を引き受けたことを、 誰かから咎めを受けるまでキチンと理解しなかったことを少し反省した)

…うん、あ、新しい歌い手さんが来たら、ちゃんと辞めるよ…。
(その言葉は誰に向けて言ったものなのか…。小さく呟いた)

テルプ・シコラ  1btg

──まぁ、生きるためには、…色々。しなきゃいけない時もあるから。 誰に怒られたって、いーんだよ。 よく、頑張りました。お疲れ様。天野っち怖いよねぇ。 俺っちもよく怒られる。(けらけら笑いながら)

アノチェセル 18k0

へへ…!ありがとう…!(ちょっとはにかんだ)
う、ううん、いいんだ、お、怒ってくれる人がいるのは、う、嬉しい事なんだよ。 こ、子供達は親が…怒ってくれる人がいないから…。 い、いつもは子供達が悪い事したら私が怒ったりしてたんだけど…ね。 い、いい人だね、あ、天野さん。

テルプ・シコラ  1btg

うん、それは、……怒ってくれる人がいるのは、嬉しい…幸せな事でもあるんだろーけど。 俺っち、やっぱ怖いの、好きじゃないなぁ…。(曖昧な笑みを浮かべる)

アノチェは強いよねぇ…。色々、ちゃんと、受け止めて。
きっと、子供たちもアノチェの事、しっかり受け止めてくれるよ。
そう♪ 痛みの分だけ♪ 強くなるのさ♪

いつもの様に突然歌いだした

アノチェセル 18k0

(曖昧な笑みに首を傾げると「強くなんてないよ」と苦笑した)
ほ、本当に強かったら、よかったんだけど…。

テルプ・シコラ  1btg

…さて、紅茶でも飲む?  あとイズレーン茶と珈琲とチョコがある。他にも好きなの、どうぞ。 あとね、この辺好きに使ってくれていいからね。
(テーブルの隅に、やたら充実した飲み物コーナーが設けられている)

アノチェセル 18k0

わあ…!
い、いいのかな、へへ、ちょっと喉渇いてたんだ…!ありがとう…。
(お茶を一口飲むと少し落ち着いたようだ)

あ、あのね、み、店のマスターが「手伝うときはいつでもいい」って言ってたんだ…。 あ、天野さんの提示どおり、て、テルプに一緒に行ってほしいんだけど…。 いつがいいかな? ま、マスターに人手のことも聞いてみる…!

テルプ・シコラ  1btg

今日からとかでもいけるけど、アノチェの都合に合わせるよー。

アノチェセル 18k0

あ、それじゃあ、今日行って来る…!  さ、早速 へ、部屋借りるね…!
(自室においておくのも警戒してなのか、 既にお願いに来た時点で変装用の衣装は持ってきているようだった)